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彼女の○○がヤバすぎたので全部お任せしました  作者: バンディット
第2章 支配からの逃亡そして元の鞘
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第2章-EP04 自由なのに、物足りない——翔太の違和感

【自由を得たはずの翔太】


「翔太くん、こっちこっち!」


明るい声がカフェの席から手を振る。

結城あかり。

翔太の……今の彼女。


「待たせた?」

「ううん、ちょうど来たとこ!」


にっこりと笑うあかりの横に座ると、彼女は当然のように翔太の腕に手を絡めた。

あたたかい温もり。

心地よくて、優しくて——なのに、なぜか妙に違和感がある。


(あれ……俺、今……幸せ……だよな?)


自由だ。

何をしても、どこに行っても、誰と話しても、咎める人はいない。

仕事中にスマホを見てもいいし、誰とランチを食べてもいい。

ふらっと飲みに行ったって、何も言われない。

束縛はない。支配もない。

それなのに。


「翔太くん?」

「え、あ、うん……」


気づけばぼんやりしていたらしい。

あかりが心配そうに顔を覗き込む。


「なんか悩みでもある?」

「いや、別に……」


そう答えながら、翔太は自分の中のモヤモヤを持て余した。

なんだ、この感じは?


「あ、ねえねえ、週末どこか行かない?」

「週末?」

「うん、水族館とか、映画とか! 翔太くんの行きたいとこでいいよ!」


あかりは嬉しそうに言った。


(……行きたいとこ?)


そう言われても、特に思い浮かばなかった。

というか、こんな風に「何がしたい?」って聞かれること自体、久しぶりな気がする。


(あれ……俺、今まで……どうしてたっけ……?)


そう考えたとき、脳裏に浮かんだのは——


「ほら翔太くん、こっちよ」

「そんなとこでボーッとしてたら置いていくわよ?」


涼子の、あの絶対的な声。

有無を言わせず、翔太を連れ出していたあの人。

週末の予定を決めるのも、何を食べるのか決めるのも、全部涼子だった。


——俺の意見なんて、聞かれなかった。

——なのに、不満を感じたこともなかった。

(……え、なんで?)


翔太は無意識に額に手を当てる。

頭が、妙にすっきりしない。


「翔太くん?」

「……あ、いや、なんでもない」


考えすぎだ。

涼子のことはもう過去の話。

俺は今、あかりと付き合ってるんだから——


「ねえ、週末は水族館でいい?」

「……ああ、うん」


適当に答える。

あかりは嬉しそうに笑った。

その笑顔を見ているのに、なぜか翔太の心は晴れなかった。


(自由なのに……なんで、物足りないんだろう……?)


===================

【水族館での再会】


「わあ、すごーい! イルカのショー、楽しみだね!」


あかりが翔太の腕にしがみついて嬉しそうにはしゃぐ。

水族館の大きなガラスの前、青い水の向こうを悠々と泳ぐ魚たちが幻想的な光景を作り出していた。

翔太はそんなあかりの横で、なんとなくぼんやりと水槽を眺める。


(……あれ? なんでこんなに落ち着かないんだ?)


あかりとデートに来たのに、どこか上の空。

彼女は自由で、優しくて、何も束縛しない。

それなのに——


「……翔太くん?」


——背筋が凍った。


——聞き慣れた、あの声がした。


驚いて振り返ると、そこには——


「……涼子先輩……?」


涼子が立っていた。


──美しい。


黒のシフォンワンピースに、ヒールのあるサンダル。

いつもより柔らかく巻かれた髪が肩にかかり、上品な大人の雰囲気を漂わせている。

だが、なによりも目を引いたのは、その瞳に宿る強い想い。

挿絵(By みてみん)

「久しぶりね、翔太くん」


少し微笑みながら涼子が言う。


「……なんで、ここに?」

「私も、水族館が好きだから」


涼子は水槽を見つめる。

大きなエイが優雅に泳いでいた。

その隣で、あかりが翔太の腕をギュッと掴んだ。


「……偶然にしては、できすぎてない?」

「そうね」


涼子が軽く笑う。


「偶然じゃないもの」


——背筋が、ぞくりとする。


「会いたかったの」


涼子の瞳が、翔太を射抜く。


(……あ、ヤバい……)


一瞬で思い出す。


この視線に捕らえられたら——逃げられない。


「翔太くんは、今……幸せ?」


すっと伸びてきた涼子の手が、優しく翔太の頬に触れそうになった、その時——


「触らないで!!」


鋭い声が響いた。

あかりが涼子の手を振り払うように、間に立ちはだかる。


「翔太先輩は、もうあなたとは関係ないの!」


涼子は静かにあかりを見る。


「あなたは、翔太くんを本当に幸せにできてるの?」

「っ……!」


あかりが言葉に詰まる。

涼子はじっと翔太を見つめる。


「ねえ、翔太くん。今、あなたは……私のこと、忘れられた?」


——心臓が跳ねた。


答えられない。


「私はね、翔太くんが忘れられないの」


涼子の手が、そっと翔太の指に触れた。


一瞬で、あの感覚が蘇る。

——支配される心地よさ。


(……心が、揺れる)


これはまだ、終わらない——。

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