第6章-EP33 涼子 vs 魔女っ子 甲府ロマンタンデム大作戦(パート1)
【魔女っ子映画の夜】
「——あ、ここ!ここすごくいいシーンなんだって!」
仕事を終えた翔太と涼子は、家のソファで一緒に映画を見ていた。今夜のチョイスは、翔太が「ちょっと気になってたんだ」と借りてきた、レトロな魔女っ子アニメ映画。
画面には、空飛ぶ魔女の女の子と、彼女を手伝う男の子が映っている。物語も中盤に差しかかり、二人が夕焼けの下、荷物を満載した自転車で坂道を駆け降りるシーン。男の子の後ろには魔女っ子がまたがり、彼女の魔法で自転車が加速する。魔女っ子はコミュ症で彼女の魔法はホウキで空を飛ぶことしか取り柄がなかったが、男の子との友情がきっかけで自分に自信がついてくるという物語。
「いいですね、青春って感じですよねー。”魔女っ子もかわいいし”……ね、涼子先輩!」
と、翔太が目を細めて呟く。
隣で腕を組んで見ていた涼子の眉がぴくりと動いた。
「へえー、翔太くんはロリコンさんだったのかな?こんな小さな女の子が好きなんだー」
「そういうことじゃないですよー、この魔女っ子の魔法は空しか飛べないって設定がエモいんですよねー。それしかできないと思っていた彼女がその能力だけでも人を助けられるっていう気づきから他人と打ち解けていくところが良いんですよー」
「翔太くんは物事を正面から捉えすぎなのよ。だってこの魔女っ子は魔女なのよ。空しか飛べないなんて嘘にきまってるじゃない。この男の子はきっとこの魔女っ子に嘘をつかれて魔法で操られているんだわ。魔女っ子がコミュ障って設定も怪しいし、人助けだって何か裏があるはずよ。男の子はきっと物語の最後で自分はずっと魔女っ子に操られていたんだって解って恥ずかしくて赤面しちゃうの。私だったら絶対そうするわ♪もし翔太くんがこの男の子だったらそういう謎のある魔女っ子に支配されて最後にやっぱり騙されたよ、やられたなーって恥ずかしがる方がずっと良いお話だと思うでしょ♡」
翔太(……うん、もし涼子先輩が魔女っ子だったらこの映画はただの僕の日常生活ドキュメンタリーになってしまいます……)
「でもね翔太くん♡ちょっと気になったんだけどー、この映画の魔女っ子魔法スペック程度で翔太くんは満足なのかな?」
「……涼子先輩?あの、なにか気になることでも……?」
「別にぃ〜?でもさぁ、空を飛ぶだけなら——私だって、できるなあって思って♡」
ぴしっ、と涼子が人差し指を立てて得意げに言う。同時に彼女の体はテレキネシスでソファの上にふわりと浮かび上がる。
「い、いやいや、これはフィクションですから!魔女っ子のロマンですよロマン!(なんでこの人は対抗心燃やし始めたんだ!?)」
涼子はソファの上空でゆっくり回転しなから翔太の頬を優しく撫でる。
「翔太くんもロマンを語るお年頃になったのね……ふふ♡
だったら……見せてあげちゃおーかなー。現実の大人の魔女の力を♡」
「あ、あの、先輩?え、なになに?なんか企んでません……?」
その夜、翔太は知らなかった。
この魔女っ子映画をきっかけに、彼が甲府まで自転車で連行される未来が待っているとは——。
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【福引の景品はまさかの】
「さあ、回してくださ〜い!」
地元の商店街の福引会場で、鐘を鳴らすスタッフの声が軽快に響く。休日の午後、晴れた空の下。
白いスーツの老人、野菜詰め放題の家族連れ、部活帰りの中学生たち。
その中に混ざって、涼子は静かに立っていた。
長めのカーディガンに、つば広帽子。日差しよけのふりをしながら、彼女の瞳だけが、じっと翔太を追っていた。
翔太は、手に握られた金色の福引券をじっと見ている。
景品一覧の一番上には、“1等:新型電動アシスト自転車”と、金ピカの文字。
「ねえ翔太くん、魔女っ子と自転車乗りたいって言ってたよね?……頑張ってね♡」
「いやいや、こういうの当たった試しないし」
ふふっと笑う涼子がスッと指を動かした。そして翔太が抽選機のハンドルに手をかけた瞬間、
福引機の内部、まるで目には見えない“何か”がギュイッと動いた。
——涼子のテレキネシス発動
福引機の内部構造を記憶+透視+物理演算で完璧に把握し、
一等の赤玉を、まるでUFOキャッチャーのようにハンドルの直前へスライドさせていた。
「いっけ〜、翔太くん♡」
涼子の心の中で、ノリノリの実況が響く。
ガラガラガラ……ポン!
「……赤!」
「出ました〜! 一等! 電動アシスト自転車〜!!」
「え? え?? えええ!? 俺!? マジ!?」
翔太が顔を真っ赤にして立ち尽くす。
「これ、先輩なんかやった……?」
涼子はニコッと笑って、肩をすくめた。
「うふふ♡これは偶然よ。……翔太くん、日頃の行いがいいもんね♡」
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【福引の帰り道】
「じゃあ翔太くん、押すよー!」
翔太がハンドルを握る自転車に涼子が後ろから翔太に腕を回してピトっとくっつく。
(※あくまでフィクションです日本では自転車の二人乗りは禁止)
自転車は涼子のテレキネシスアシストで徐々に加速し、翔太がペダルをこがなくても勝手に前に進む。
「涼子先輩すごいですっ!これって誰が見ても電動自転車に乗ってるようにみえますよ!」
「翔太くん、この程度で驚いてはだめだよ♪大人の魔女の力はこんなものじゃないわ、みて♡」
自転車はゆるやかな坂道に差しかかるが——
「……って、浮いてない!?え、これ、浮いてる!?地面にタイヤついてないよね!!?」
「ふふっ♡ アシストどころか、もう私が全部持ち上げてるのよ〜。このくらいじゃないと、魔女っ子に負けちゃうでしょ♡」
「スピード出しすぎぃいい! 風切音すごいって!空飛んでるのに全然ロマン感じないよぉぉ!」
「翔太くん、もっと胸張って!青春はスピード感よ!ヒュ〜ン♡よし、今週末はこの自転車で甲府のYumiちゃんに会いに行くわよー!」
涼子の効果音と共に、住宅街を超スピードで低空飛行(?)する一台の“自転車”。
——そしてその後、翔太は静かに決意する。
「……このままじゃ命が持たない……。せめてブレーキだけでも俺の手でどうにかしなきゃ……!」
翔太の中で、封印されし“魔改造DIY魂”が、目を覚ました——!
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【翔太の隠された才能・魔改造DIY】
翔太は速攻でホームセンターに向かい、必要なパーツなどを買いそろえると、自転車を涼子のテレキネシスアシストに耐えうるよう魔改造を施す。(※翔太は大学時代から変な電子工作が趣味だった)
——そして翔太の部屋のベランダは、すでに戦場と化していた。
工具箱は全開。YouTubeの分解動画が一時停止されたまま画面に映り、床には無数のパーツと紙くずと、「これ、どこのネジ?」と書かれた付箋が散乱している。
翔太は、汗だくでグラインダーを握っていた。
「……涼子先輩のテレキネシス駆動で甲府までサイクリング、ここから甲府まで片道約120km、平均時速30km/hで4時間の過酷な旅に耐えられる仕様にしなければ……」
「よし……まずはディスクブレーキ、前後2重で固定。ベンチレーテッドで放熱性アップ……」
彼はホイールを見ながら呟く。
「ABSは……ラジコンのESC応用で何とかなる。もう俺、チャリ界のアイルトン・セナになるしかない……」
ハンドルに埋め込んだ自動水平ジャイロセンサー。長時間乗っても疲れない涼子用のタンデムシート。シートポストには緊急脱出用パラシュートカートリッジ。
さらにダウンチューブには、「翔太の叫びボタン」が設置された。
押すと、「涼子先輩っ! 本当にムリですからぁ!」という自分の録音が流れる仕様だ。
「ブレーキの上にクラクションじゃなくてスモーク噴射ボタンを置いて……と。警察に呼び止められた場合の視界封じも必要だよな……」
彼は完全に正気だった。死にたくないという切羽詰まった人間だけが持つ“妙な集中力”に支配されていた。
「ふう、やっと完成!」
翔太は誇らしげに魔改造が完成した自転車を眺める。そのとき——
「しょ〜たく〜ん♡もう整備終わった?」
背後から、軽やかな声が降ってきた。
ベランダの手すりに、脚をぶらぶらさせて座っていたのは涼子。ピンクのワンピース姿で、ナチュラルに空中に浮かんでいる。
「翔太くんってこういうの得意だったのねー意外だわー♡こんどはお部屋に棚も付けてもらおうかしら♪」
「……せ、先輩。今朝、あれほど“地上で生活を”ってお願いしたじゃないですか……」
「 私も魔改造お手伝いしようと思っていいもの買ってきちゃった♡」
そういうと涼子はスッと指を動かしてテレキネシスを発動、すると室内から直径1mほどのジャックオーランタンの縫いぐるみがふわふわ飛んできて翔太の自転車のハンドル部分に装着された。
「じゃあこの子の名前は”パンプキンちゃん1号”ね♡」
翔太(あの今季節は初夏なんですが……涼子先輩って恥ずかしいって感情は……無いよね。良く知ってます僕……)
——こうして二人の甲府への足、魔改造自転車「パンプキンちゃん1号」は完成したのだった
⇒パート2に続く




