第6章-EP32 魔王・翔太の出勤
【翌朝——サングラスの女と魔王が出勤する】
朝のリビング。陽光が差し込むなか、キッチンでは涼子がサングラスをかけたまま、パンケーキを焼いていた。
翔太「涼子……サングラスも似合ってるよ。でもサングラスは君の美しい瞳を隠してしまう。まるで太陽がかくれてしまったかのようだよ……」
涼子「(しゃべり方からすると翔太君はまだ魔王モード継続中ね)……当然よ。今日からは“魔王ガードモード”で行くわ。私の翔太くんがまた他の女に狙われたらたまったもんじゃないんだから」
翔太「涼子、魔王っていったいなんだい?」
涼子「ううん、こっちの話。今日は職場でもホルモン操作フル稼働でいくわ♡」
翔太(職場でも!?)
——出勤ラッシュの電車内。混み合う車内でも、サングラス涼子がぴったり翔太に張り付いている。翔太に群がる女性たちの感情を治めるためのホルモン操作でサングラスの下の涼子の瞳は赤く光り輝いていた。
涼子「ほら、翔太くん、ここに立って♡ そこが一番安全地帯♡」
翔太「いや……涼子、この体勢、完全に君が僕に壁ドンだね……僕は幸せものだ」
涼子の背後から翔太に触れようと複数の女性の手が、ゾンビ映画のワンシーンのように翔太に伸びてくる。しかし涼子がテレキネシスを発動して翔太をガードしており、触らせない。
男性乗客「あれ、車内激混みだけど、あそこのニンマリしている男性の一角空いているのに見えない壁があってそっちに行けない……どうしてだろう?」
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【涼子から美紀への忠告】
——そして会社。
美紀「あっ、おはよう翔太先輩。……って、うわ、涼子課長!そのサングラス、芸能人でっか?」
涼子「おはよう美紀ちゃん♡芸能人じゃなくて、魔王ガードシステムよ♡」と美紀にサングラスをちょっと上げてウィンク
美紀は察する(涼子課長きっと翔太先輩のマインドコントロールに対処するためになにかあみだしたんやな)
涼子「美紀ちゃん、ちょっといいかしら」と言って涼子は美紀をつれて翔太から離れたブースに移動する。
美紀「涼子課長、なんかあったんやな」
涼子「……そうなの。一目で分かっちゃうなんてさすが専門家ね。実は翔太くんのいい匂いが強くなっちゃったの」
美紀「そういえば顔もなんか素でニンマリとしとりますな。これはマインドコントロールして女の子を操る気満々ってことやな。涼子課長は大丈夫でっか?」
涼子「……私は大丈夫。なんとか翔太くんに触らないように気をつけているんだけど。美紀ちゃんには他の女の子が翔太くんにマインドコントロールされないように注意してもらいたいの。翔太くんが他の女の子を操るなんて私……耐えられないわ」
美紀「うちに任しとってください!当社の女子を翔太先輩から守ってみせます!」
涼子「美紀ちゃん、あなた自身も気を付けて、ミイラにならないようにね♡」
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【魔王翔太、業務開始】
——しかし、いつものフロアは異様な雰囲気だった。翔太のデスクの周囲には、すでに女性社員の人だかりができていた。
「おはようございます……っ」
総務の今井さんが言葉を詰まらせ、翔太の自席の前でわざと手帳を落とす。
その拍子に膝をついた彼女を、斜め後ろから来た受付の千夏さんが押しのけるように駆け寄る。
「翔太さんっ、名刺ホルダー今日使います?渡しましょうか?」
「私、ネームプレートの修理頼まれてたんで!」
「あのっ、お弁当忘れてたら……半分こできますけどっ!」
もう何が何の用事なのか、まるでわからない。
翔太の周囲には10人近い女性社員が取り囲む形で張り付いている。
まるでライブ会場。いや、神を拝む巡礼に近い。
中には完全に口を開けたまま「ハァ……」と見つめている女性もいる。
一人は袖をちょっとつまみ、一人は翔太のペンを握りしめて目を閉じていた。
「ちょ、ちょっと!いったん整理しませんか!?並ぼう!並ぶっていうか……はい、翔太さんの左側の人、一旦下がって!」
声をあげたのは、広報の望月さん。
彼女はおそらく理性をかろうじて保っていた数少ない一人だった。
だが、次の瞬間——
「翔太さん、そのネクタイ、えっ、すごく……うっ、似合ってて……」
望月さんの目が、トロンと溶ける。
——翔太の自席付近に戻ってきた涼子と美紀、翔太の周りの女性の人だかりを見て涼子の顔にピキィと青筋が立つ
(これは……今日も翔太君のホルモンの香りが一般人には強いだけでなく大量に出てるのね……)
※涼子はホルモン調節能力のおかげで一般女性のような直接影響は受けない
——涼子はツカツカと翔太の座席に歩みよる。同時にテレキネシスが発動し、翔太の袖をつかんでいた女性社員はグイッと強制的に翔太から離される。そして別の女性に握られていた翔太のペンはいつの間にか涼子の手に握られていた。
涼子は翔太の後ろで腕を組んで仁王立ちをし、女性社員たちの脳内ホルモンの調整を開始する。涼子の瞳がサングラスの下で赤く光り輝き、”私が翔太の妻よ”オーラが放たれると女性社員たちのトロンとした顔が次第に元にもどってゆく。
望月さん「ひぃぃぃ、た、高橋課長!」
別の女性社員「あれ、あたし何をしていたのかしら……」「り、涼子課長……失礼しまーす♡」「し、翔太さん、また今度ね♡……」
各自そそくさと自分の部署に帰っていく。
涼子「翔太くーん、ちょっと会議室でお話ししよっか♡♡」
翔太「え、今ですか!?」
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【会議室・美紀の重大インシデントとメイドさんの呪い】
会議室に翔太を呼び出したはずの涼子だったが、打ち合わせ中に呼び出されたため席を外すことに。
涼子「ちょっとごめんね翔太くん、5分だけ待ってて♡赤い瞳が落ち着くまでここでおとなしくしてて」
翔太「……はい、僕、がんばって“おとなしく”してます……(たぶん)」
——その直後。
ガチャッ
美紀「翔太先輩!……あ、やっぱりここにいた!涼子課長に呼ばれてるから心配して来たんやけど、涼子課長は?え、先輩、なんでそんな色っぽい表情[ニンマリ]して……」
翔太「美紀ちゃん……今日も可愛いね」
翔太がイケボでそう言った。その瞬間
美紀「……もうっ、翔太先輩ってば、こんなとこでそんなこと言われたらウチ、勘違いしてしまうでしょ!」
——次の瞬間、美紀はなにがなんだかわからなくなり、脳内で何かが弾けた。
美紀「……ええい、もうワイが翔太先輩を守ったる!!」
——そして、美紀は翔太に抱きついた。
ゴゴゴゴ……会議室が震えた。
涼子「……あらあら、重大インシデント発生ね♡」
——涼子のサングラスの下で赤い瞳、ギラリと光る。
美紀「か、課長!?これはその、違うんです!これは思わずその、翔太先輩の例の香りのせいで!!」
涼子「香りのせいでも、これは“お仕置き”決定よ♡」
美紀の呼吸が荒くなる。頭がぼんやりして、思考がまとまらない。涼子のホルモン操作が開始されていた。
涼子「ねぇ、美紀ちゃん。あなたマインドコントロール対策に自信があるんでしょう♪じゃあ起きたらきっとびっくりするわよ。定時までお眠りなさーい♡」
美紀「あれ……どうして?……ウチ眠くて……たまらない……zzz」
——そして次の瞬間、美紀は幸せそうに眠ってしまった。
涼子「ふふっ♡会議室、夕方まで予約してて良かったわ〜♡さて、この子は……しばらく仮眠モードね」
——そして終業のチャイムが鳴り、美紀が目を覚ましたのは、誰もいない会議室。机の上の姿見に映った自分の姿に気づく。
美紀「なんで……あたし、メイド服着てるん……!?これって……」
顔を真っ赤に染め、叫ぶ。
美紀「じ、重大インシデント発生やあああああ!!」
——そして美紀のこの会議室の様子を涼子は会社携帯で見ていた。
涼子(モニター越しに)「うふふ♡あなたは私の大事な子だからこそよ♡メイド服ぐらいで済んだんだから感謝してね、美紀ちゃん♡」
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【そして夜、自宅にて——魔王翔太の終焉】
その日の夜、自宅。
翔太はソファに倒れ込むように座り、涼子はその隣にちょこんと座っていた。
涼子「ふぅ……今日はほんっと、疲れた……」
翔太「でも涼子、なんだか……会社でもみんな優しかった気がするよ」
涼子「(それ、全部私のホルモン操作のおかげだけどね♡)」
涼子はソファで横になり、翔太の膝に頭を乗せて甘える。
涼子「ねぇ、翔太くん……もう、そろそろいいかな」
翔太「えっ?」
涼子「やっぱり、私、いつもの翔太くんが好きだなぁ。ちょっと照れて、すぐ赤くなる翔太くんが……」
——涼子は再び甘やかしリンクを発動し、翔太の中の“扉”をそっと閉じた。
そして——翌朝。
翔太「うわぁぁぁっ!? な、なんで僕……昨日や一昨日、スーパーや会社であんなことを……え、な、なんで望月さんのネクタイの話覚えてるの!? ってか美紀ちゃんに……僕、メイド服!? 僕のせいで!?」
顔を真っ赤にしてうずくまる翔太。「涼子先輩っ!僕めっちゃ恥ずかしいですー」
涼子はにっこり「うんうん♡やっぱり、こっちの翔太くんのほうが可愛いわ♡」
\ 完 /




