第6章-EP27 涼子による翔太のMBO(Management by ‘Obsession’)
新しい営業年度も始まり、涼子と翔太の会社でも社員はMBO(Management by Objectives)で業務上の目標の設定と達成のための施策そしてその評価を行う。今日は涼子が翔太の上司となって初めてのMBOの日。翔太は涼子から受け取った翔太の今期の目標を見て自分の目を疑った。
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【202X年度 翔太MBO目標設定シート】
目標1:涼子課長の感情を月平均で常時90%以上のポジティブ状態に保つ
KPI:課長の主観によるによる判定(ASK涼子)、加えて、社内カメラによるAIご機嫌判定
目標2:週3回以上、自発的にスイーツやお茶を差し入れし“甘やかし率”を向上させる
KPI:課長の口から「うれしい♡」が出た回数(月間12回以上)
目標3:重大インシデントによる“お仕置き/呪い発動”を未然に防ぐためのヒヤリハット報告を週1本提出する
KPI:お仕置き/呪い件数0件/月
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翔太「KPIって指標のことであってます?」
涼子「そうね。KPIっていうのは、目標達成度を数値で測る指標のことよ♡ “Key Performance Indicator”っていう、ちょっとかっこいい言い方ね♪」
翔太「……でもこれ、会社のMBOって言っていいんですか?」
涼子はにっこりと笑って言った。
「もちろん♡当部と会社の利益のためには、私のご機嫌がとっても大事なことなのよ?ほら、このグラフを見て」
涼子は営業部の業績と涼子の感情スコアを月別に現したチャートをいそいそとノートパソコンに表示する。
「ほら見て、判るでしょう。私の感情スコアと営業部の業績は完璧に比例するの、この資料は会社の経営会議でも使われているのよ♡」
「……たとえばこの月に業績が急上昇したときはなにがあったんですか?」
「翔太くん、それ君が聞いちゃう?私と翔太くんが出会った月じゃないのー♡♡♡」
「……そしてその数か月後に見たこともないくらい業績が低迷してるのは?」
涼子は急に不機嫌なになる「はい減点。ポジティブ感情スコア-30%、あかりちゃんに翔太くんを盗られちゃった月だよね……質問に配慮ってものがまったく足りていませんっ。そおいうところだよ翔太くんっ!」
——※涼子は翔太と出会った後、新人の結城あかりに一度翔太を奪われたことがあり、それがトラウマになっていた。第2章EP1-EP6参照)
「……じゃあこのV字回復した後に最高益出してるときは……先輩と僕が結婚した時ってことなんですよね」
「その通りよ。私は機嫌がよくないと働かないから、会社も積極的に私のご機嫌を経営戦略に取り入れたってわけ。だから翔太くんの挙動は最早あなた1個人の問題とは考えられていないわ。このMBOの目標とKPIは社長まで承認をとってあるのよ」
翔太「いやいや、これ完全に涼子課長の“ごきげん管理システム”じゃないですか……ていうか”甘やかし”、”お仕置き”や”呪い”って社長も知ってるんですか!?すごく恥ずかしいんですけど」
「会社では心理学上の専門用語ってことになってるから気にしないで大丈夫よ。そして翔太くん。これは“愛と業務の両立”なの。私は翔太くんがちゃんと成長して、私の理想の部下——いいえ、理想の夫♡になるように支配……ううん、導いてあげてるのよ♡」
翔太「……なんか管理職研修で聞いた“コーチング”と違う気がするんですけど」
「はいまた減点。ポジティブ感情スコアさらに-10%よ。あーあ、翔太くんがそんなだから私なんか全然働く気が無くなっちゃったなー」
すると会議室の天井のAI社内カメラについているパトランプがピコンと点灯し、その後すぐに翔太の会社携帯のベルがなった。部長からのコール。
部長「あー翔太君、高橋課長の機嫌を損ねないように頼むよ。これは業務命令だからね」
翔太(うわ……KPIガチ運用されてる……)
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【目標達成への施策検討】
「じゃあ、具体的にどうやってこの目標を達成するか、一緒に考えていきましょうか♡」
涼子は気を取り直し、会議モードで言った。
「目標1、私の感情を常時90%以上ポジティブに保つためには——?」
翔太「えっと……毎朝“おはようございます、今日もお美しいですね”って言うのはどうでしょう」
「うん♡それいいわね。あと“僕のかわいい奥さん”って呼ぶのも追加でお願い♡」
翔太「課内で“奥さん”呼び……けっこう浮くと思うんですが……」
「じゃあ“姫”でもいいわよ♡」
翔太(いやもっと浮くわ!)
「次、目標2。スイーツやお茶の差し入れね。今までのデータによると私はチーズケーキとプリンに弱い傾向があるわ」
翔太「ボスが弱点を自分で教えてくるスタイル……(フロムゲーではありえないよなw)」
「週3回ってことは、月12回だから、最低4種類はローテーションが必要ね。ちゃんと経費で落ちるのでメモしておいて♡」
翔太(これ評価じゃなくて攻略ガイドじゃん……)
「最後、目標3。ヒヤリハット報告。翔太くん、最近“お仕置き/呪い寸前”だったこと、何かあったかしら?」
翔太「え……あ、こないだランチ誘われたのを断りそびれて女子社員と二人で食べちゃった時とか……」
涼子「……まあ!それは危険極まりないわね。もしその女の子に抱きつかれでもしたら私が即刻感知して重大インシデント。非常に危険なインシデントの一歩手前なのでヒヤリハット対象よ。即日報告でお願い♡」
翔太「ヒヤリハットは報告するだけで罰則の適用はないんですよね、念のため」
涼子「2ヒヤリハットでお仕置き/呪いの対象になるから気を付けてね♡」
翔太「いやそれ書いてないじゃん!イエローカード2枚でレッドカードみたいなルールの後付けやめてくださいっ!」
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【翔太から涼子への逆MBO】
翔太「……あの、実は僕からも課長に渡したいものがあるんですけど」
涼子「え?翔太くんから?なにかしらー♪翔太くんがくれるものは何でも歓迎よ♡」
翔太「はい。えっと、“今期の涼子課長MBO目標”として……」
目標1:呪い発動の前に深呼吸を3回していただくこと(よく考えてみれば翔太は悪くないかもしれない)
目標2:月に1回くらいは翔太の言い訳を最後まで聞いていただくこと
目標3:社内にいるときにテレキネシスでくすぐるのはやめていただくこと(ホント脇弱いんで)
涼子「…………(無言)」
涼子はじっと翔太を見つめると小悪魔の顔でニヤリ、そして両手の指をを翔太の目の前でワキワキと動かして「コチョコチョの刑~♡」
ビシィィィ!
「ふ、ふわああっ!?またテレキネシスで僕の脇!、やめてっ!ダメなとこなんですぅぅ!!!」
涼子の目の前でジタバタする翔太。
「はい、この逆MBOすべての目標項目——私は未達って評価してもらってOKよ♡」
翔太「ひどい!!!」
(ナレーション)
——翔太のMBOは、今期も涼子の“愛と執念”により圧倒的達成率を叩き出すのであった——」
美紀のMBOに続く!