第6章-EP24 時をかける課長(パート1)
【涼子の独占欲ピークに】
甲府でのYumiとの再会、そして温泉での夫婦の絆の確認は、涼子の翔太に対する独占欲と依存症を最高潮に盛り上げていた。翔太はすべてを受け入れてくれた上に自分の性格を好きだと言ってくれた、この告白はじわじわと涼子に染みてきて涼子はもう一週間くらいは翔太から一瞬も離れたくない気分だった。
出勤も翔太と一緒、デスクワークも翔太と一緒、客先回りも翔太と一緒(課長権限で翔太の補佐はすべて涼子に変更)、業務中涼子はずっとYumiから送ってもらった高校生時代の翔太の画像をスマホに表示し横にいる現在の翔太と比べてニヤニヤ。
遠藤美紀:(涼子課長今日はずっと嬉しそうに翔太先輩に張り付いとるなあ、なにかええことあったんやろなーw)
涼子と翔太が業務を終えて帰宅しようとしたところで翔太の大学の同級生で同期入社の片桐が声をかけてきた。
片桐は現在は名古屋支社に勤務していたが、翔太のいる東京本社に出張で来ている。
「翔太、久しぶりに会ったんだ、これからちょっと飲みにいかないか?」
隣の涼子から照射される”甘やかし熱波”の感情をひしひし感じていた翔太は、涼子の顔色を窺い、
「ごめん片桐、今日は涼子先輩と早く帰ろうって約束してたんだ」
と断った。だが片桐は
「俺明日名古屋に帰るんだよ、せっかくの機会なんで奥さんの涼子課長も一緒に一杯だけ行きましょう」
とゆずらない。仕方がないので一杯だけの約束で3人で会社の近くの飲み屋に繰り出した。
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【片桐の受難】
片桐「いやー、翔太もついに結婚かー。でも俺、マジでびっくりしたんだよ。だってさ……涼子課長って、あの“伝説の高橋課長”ですよね?」
涼子「伝説……?ふふ、どんな意味かしら?」
片桐「いやー、涼子課長は名古屋支社でもいろいろ噂になってたんですよ。謎に満ちた美人で近づいた男性社員は皆すぐに会社を辞めちゃうって」
翔太はヒヤヒヤ「……(片桐、ちょっ、そんな話……ヤバいよ……)」
涼子はにっこり「ふふっ♡それは根も葉もない噂よね、だって翔太くんは全然大丈夫でしょ♡」
片桐「はは、そうですよね。でも翔太はそんな伝説の人を射止めちゃったんだから大したもんだよねー。そういえば翔太は大学の頃も涼子課長みたいな頼りがいがある人と付き合っていたよね」
翔太「えっ!?!」(もっとヤバい話キター!っていうか人の奥さんの前で元カノの話振るって片桐、お前俺に何か恨みでもあんの!?)
✨きらん、涼子の目が鋭くなる
涼子「へえ~?翔太くーん、大学の頃って……どんな人とお付き合いしてたの?」
翔太「い、いや、そんなの……普通っていうか……あはは……」
片桐「ほら、いたじゃん。文学部の先輩でちょっと年上で頼りがいのあった……」
その瞬間、涼子の笑顔がすっと止まり、空気がピキッと凍りついた。
涼子「……翔太くん?」
翔太「は、はいっ!?」
涼子「その人のこと、私、聞いてなかったわよね?」
翔太「そ、それは……もう昔の話だから……!」
片桐「え、まずい話だった? でも涼子課長なら笑って許してくれるでしょ? ハハッ」
涼子はゆっくりとひきつった笑顔を片桐の方に向けた。
「うふふ、もちろん♡だって今日は私、朝からとっても機嫌がいいのよ。一日の終わりに素敵なお話が聞けて嬉しいわ♪そうだ片桐さん、その人のこと……もう少し詳しく教えてもらえるかしら♡」
片桐「えーっとだから文学部の先輩の女の子でテニスがうまかった……」
その瞬間、涼子の瞳が赤く妖しく輝き出した。
片桐の表情がふっとぼんやりとし、目の焦点が定まらなくなる。
涼子はにこやかなまま、静かに囁く。
「片桐くん、そんな女の子なんていたのかしら。……片桐くんの思い違いじゃないの?」
――片桐は急に目を細めて頭を抱えた。涼子のホルモン操作により、頭がぼんやりして思考がまとまらない
「おかしいな、名前が……顔も……あれ? 翔太、お前昔付き合ってたのって……誰だっけ?いや翔太は誰とも付き合ってなんかいなかったような……」
涼子「ふふっ……片桐くんったら飲みすぎちゃったみたいね♡……今日は早くホテルで寝た方がいいわよ……そしてあなたがここで私と翔太くんと会ったことは忘れちゃいましょうね♡」
――片桐にはもう涼子の声しか聞こえなかった。その声は脳内に直接響き、優しくしかし強力に染み渡る。もはや涼子の言葉に抗うことはできない
片桐「あれ……俺どうしてここにいるんだ?……はい……僕ひとりで……ホテルで飲みすぎました……ホテルかえりま……す……」
涼子「うふふ♪片桐くんいい子ね、いい夢みるのよ♡」
――片桐は荷物をまとめるとゆっくりフラフラと店を出て行った
涼子「さてと、ここのお店は私がお勘定してくるわ♪翔太くんは帰ったら一緒に“記憶のお整理”しましょうねー♡」
――涼子はにっこり翔太に微笑む
翔太(あ……これはヤバい。片桐だけじゃない俺も……リアルに詰んだな……)
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【過去に戻るホルモン再び】
翔太と涼子は静かに自宅へと戻った。
リビングに入るなり、翔太はスーツの上着を脱ぎながら、ソファへと沈み込んだ。
「……はぁ〜……」(なんか痛ーい注射をされる前の患者さんの気分……)
「お疲れさま、翔太くん♡今日は大変だったわね?」
涼子はにこにこと微笑みながら、キッチンからハーブティーを淹れてくる。だがその目の奥には、まだ赤く光る残滓が残っている気がした。
「え、えっと……その、先輩……あの話、もう忘れましょう? 過去のことですし!」
「ううんダメよ♡だって翔太くんの記憶には、まだ“その子”が残ってるんだもの。こういうことはきっちりと対処しないとね♡翔太君の記憶はプロテクトがかかってるので消すことはできないんだけど(※第4章EP4参照)――私が別の記憶のレイヤーで“上書き”することはできるのよ♡」
「……上書きって……また何かする気ですね……?」
――涼子はハーブティーを口にし、翔太にも勧める。
「前に二人で高校生になった時のこと覚えてる?翔太君が高校1年生の時に3年生の女の子に告白されて付き合った記憶があるんじゃないの?」
「あ、ほんとだそういえば高校一年で毎日一緒にお昼食べてた女の子がいたよな……あれ僕、涼子先輩と付き合っていた!?」
「うふふ、そういうこと。実際には会っていないけど私と翔太くんの記憶の中では会っていることになるのよ。不思議よね。」
涼子はソファの隣にちょこんと座り、翔太の腕にぴったりとくっつく。
「これは私達の心がつながってるからできるんだけど、ホルモンには“記憶を追体験させる”作用もあるの。だからー翔太くんの中にある、彼女との記憶の中に“私”を加えるだけ♡」
翔太「そ、それって……まさか……っ」
「うふふ♡じゃあ、始めましょうか。翔太くん、目を閉じて? 今から“記憶の旅”に出発よ♡」
涼子がそっと手を握った瞬間、翔太の視界がゆっくりと滲み、世界が反転するようにぐるりと揺れた。
意識が深く沈んでいく。
パート2へ!