第6章-EP13 涼子の能力的欲求不満(パート2)
【翌日——会社でも能力欲求が暴走中!?】
「よし、今日は15時にクライアント先でプレゼン。移動もあるし、14時には出発だな」
翔太は自席でPCのスケジュールを確認しながら、サッと今日の流れを頭に入れていた。
が——
ピコンッ。
カレンダーに突如現れた「本日14:00〜16:00 会議(出席者:涼子課長、翔太)」の招集通知。
「いやいや、無理無理!行かなきゃダメでしょ!」
翔太は即座に“辞退”ボタンにマウスを向けたが——
スッ……
マウスが自動的にスライドして、
カチッと“承諾”をクリック。
「うそでしょ!?」
続けて、目の前のキーボードがカタカタ……カタカタ……と勝手に動き出す。
>本日15時にお願いしておりました打ち合わせですが、
>スケジュールの都合がつかなくなってしまいました。
>大変申し訳ありません。
>
>つきましては日程の変更をお願いできないかと思っております。
>お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。
そしてメール自動送信。
「なにしてんの!?勝手に予定ズラされた!!」
——その直後、涼子からのチャットが飛んでくる。
> 翔太君、14時に10階会議室に来なさい。これは課長命令よ♡
>
「……ぐぅぅぅ……」
翔太は天を仰いだ。
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【その様子を“目撃”していた社員がいた——】
「……ありえへん、翔太先輩の前でマウスとキーボードが勝手に動いとるやん!?」
驚きの声を漏らしたのは、翔太のチームに最近配属されたばかりの若手社員、遠藤美紀(25)。
・大阪支社から異動してきたばかりの転入社員。
・現在、営業部で翔太と同じチームに所属。
・明るく気さくで、ノリも軽快。太縁メガネがトレードマークで大阪弁がときどき出る。
翔太に対する第一印象:
「ええ人すぎる」「仕事デキる」「こら惚れる女子多いんちゃう?」
そして涼子に対する印象:
「え、伝説の課長ってほんまに実在してたんや…」
「社長からも一目置かれてるとか、何者なん?」
ただし——
彼女にはひとつ、他の社員とは違う“属性”があった。
オカルト好き。
子供の頃から月刊ムーを愛読し、異世界転生・超能力・宇宙人モノの漫画やラノベに人生を救われてきた女。
その美紀の眼に、翔太のあまりに不自然なマウス&キーボード現象はこう映った。
「……もしかして……翔太先輩って……」
「超能力者なんちゃう!?」
キラーン✨
彼女の目が、謎の光を放った——。
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【密室会議と甘やかしリンク発動】
14時ちょうど。翔太が会議室のドアを開けると、
中にはすでに涼子がひとりで待っていた。
「失礼します…」
ガチャ。バタン。——カチャ。
ドアはひとりでに閉まり、勝手にロックがかかる。
(やっぱり……こうなる予感はしてたんだよな)
「ごめんね、翔太くん。ちょっとまた我慢できなくなっちゃった♡」
「はぁ……仕方ないですね。僕はどうすればいいんでしょうか、涼子先輩?」
「翔太くん、私の隣に座って。私の目を見て……♡」
(あ、これヤバいやつだ)
翔太は言われるまま隣に座り、涼子を見つめた。
その瞬間——涼子の瞳の奥へ、ずぶずぶと吸い込まれるような感覚。
心が、リンクした。
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ふわりと温かい感情が翔太の中に広がっていく。
「はぁぁ〜〜〜癒されるぅ〜♡」涼子は翔太の髪を撫でながら、恍惚とした表情。
「先輩……なんでしょう……いつものギューってリラックスホルモンしてくれる時の気持ちよさとは違うんですが……とにかくすごく気持ちいいんですけど……これは一体?」
「私にもよく分からないんだけど、翔太くんと繋がってると、心が満たされてくの。
たぶん私の超能力……翔太くんを好きすぎるのよ♡」
「なんだか……すごく先輩に甘えたくなってきました……」
「もう……涼子先輩のことしか考えられないです」
「んふふ♡ いいのよ翔太くん、もっと甘えて♡
そして——もっともっと私のことだけ考えて♡」
「考えれば考えるほど……もっと甘えたくなります……止まりません……」
「翔太くん、大好きよ♡」
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ピピピッ!
アラームの音で我に返る翔太。
気づけば、涼子にしっかりハグされたままだった。
「先輩……もう16時です。あっという間に時間が……そろそろ戻らないと……今日は残業かもですね」
涼子はトロンとした目で囁いた。
「んふー♡ 2時間じゃ全っ然足りないわ。翔太くん、今夜も覚悟してね?」
「ほんとに……2、3日で収まるんですよね!?(汗)」
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【一方その頃——遠藤美紀、観察中】
翔太が自席に戻ると、遠藤美紀がファイルを持って近づいてきた。
「翔太先輩、このプレゼン資料の件なんですけどー」
「あ、遠藤さん。はいはい、ここのクライアントは費用対効果を気にするから、ここの数値は——」
テキパキと説明を始める翔太。
しかし、美紀の脳内はまるで別の方向に行っていた。
「(翔太先輩の超能力の秘密、もっと知りたい……!)」
—
実は先ほど、翔太が離席している隙に美紀はこっそりPCを覗いていた。
だが、履歴も設定も普通。ログも異常なし。
(でも……でもやっぱり変やったんや……!)
マウスがひとりでに動き、キーボードが自動打鍵された瞬間を確かに目撃した。
今回の会話も、彼の動作や表情に「それっぽい兆候」を探ろうとしていたが——
「(……うーん、今のところ普通やな……)」
軽く肩を落とし、美紀は自席に戻っていった。
でもその目には、静かな執念が灯っていた。
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「(きっと、何かある。これは絶対“何か”や……!)」
彼女のオカルトセンサーが静かに点滅を始めていた——。
パート3に続く