第6章-EP04 ドイツの母をたずねて4(過去に旅するホルモンと翔太の秘密)
【政子とハンツに案内され、】
二人は地元の有名な醸造所「Herzog Bayerisches Brauhaus Tegernsee」に向かう。重厚な木造の建物に足を踏み入れると、ビアホールはすでに多くの人で賑わっていた。
ビールの香りが漂う店内で、ハンツは豪快にシュヴァイネハクセ(豚のすね肉のロースト)やソーセージを注文する。
「プロースト!」(乾杯!)
ジョッキをぶつけ合い、ビールを飲み干す涼子とハンツ。その横で、翔太は政子と静かに向き合っていた。
「どうしてドイツに住んでるんですか?」
「涼子が医大に行きだしてから、私、日本を離れたくなったの。世界を放浪して、最後にここに辿り着いたわ」
「ハンツさんとは?」
「ミュンヘンのバーでナンパされてね。それ以来、なんとなく一緒に住んでるの(笑)」
政子は意味ありげに微笑む。
「ところで翔太さん……あなた、過去にさかのぼるホルモンで涼子の過去を見たそうね? あれは、私が涼子に教えたもの。何か、私に聞きたいことがあるのでは?」
翔太は息をのむ。
「涼子さんから、過去を知ってほしいと言われた時、何かタイミングがあったんでしょうか?」
「このホルモン操作は術を操る者にとっても危険なものなの。だから、涼子はあなたが本当に受け入れられる準備ができるのを待っていたはずよ。何かきっかけがあったはず。例えば……心で強く涼子に語りかけた、とか」
翔太はハッとした。思い当たる節がある。
涼子が会話に意識を向け始める。
「僕は、涼子さんの過去の体験を通じて、彼女の不安、恐怖、悲しみ、怒り、喜び、そして愛情を感じました。そしてどうやって今日の涼子さんがあるのかわかった気がしました……。
……でも、現代に戻ってきてからも、彼女の気持ちがわかるんです。これはどういうことなんでしょう?」
政子は穏やかに微笑んだ。
「それは翔太さん、あなたが涼子のあるがままをすべて受け入れた証拠よ。あなたは涼子と心で繋がったの」
その言葉を聞いた涼子は、満面の笑みを浮かべ翔太に抱きついた。
「ということは翔太くんは、もともと私のものだけど……もっと完全に私のものになったってことね♡」
「リョーコ、ショータ、ラブラブねー!」とハンツが陽気に笑う。
===================
【翔太の隠された秘密】
ビアホールで皆がほろ酔いになってきた頃、政子がふと翔太の手を取った。
「翔太さん、ちょっといいかしら?」
翔太が驚いた顔をするのをよそに、政子はじっと彼を見つめる。
「あなたのホルモンの香りって、とってもいい匂い!」
「そうなのよ!」と涼子が乗り出してくる。
「私、翔太くんの香り大好き。でも母さんもそう思うの?」
「ええ、すごい香りね、クラクラするわ。翔太さん、あなたひょっとして突然女の子にモテたりとかする経験があるんじゃない?」
「そうかなー?」
翔太が首をかしげると、涼子が目を細めて何かを察したように言う。
「それある!翔太くんって、私がいるのに不必要にモテるんだよねー」
政子が少し微笑んで続ける。
「すごく少ない確率だけど、翔太さんみたいな人がいるみたい。年頃の女の子って、中にはホルモンの香りに敏感な子もいるのよ。だから、気がつかないうちに翔太くんに惹かれちゃうんじゃないかしら?」
「なんかすごく納得。」涼子は腕を組んでうんうんとうなずいた後、にっこり微笑む。「これはこれからもきちんと取り締まらなきゃね♡」
そこへハンツが突然翔太の背中をバンバンと叩きながら、大声で叫んだ。
「ショーター、ジョナンノソー!ジョナンノソー!」
「女難の相……っていうか、ハンツなんでそんな日本語知ってるの!?」
恐怖におののく翔太を横目に、政子と涼子はどこか楽しそうに微笑んでいた。