第6章-EP03 ドイツの母をたずねて3(政子とハンツ)
【扉を開けて出てきたのは、大柄なドイツ人男性。】
身長は190センチを超えそうな巨体で、がっしりとした腕、頭は見事に禿げ上がり、いかつい顔つき。
「うわっ!」
翔太は思わず後ずさる。だが次の瞬間、その男性は満面の笑みを浮かべ、豪快に涼子を抱きしめた。
「リョーコ!グーテンモーゲン!(お早う)」
「ハンツ!久しぶり!」
まるで旧知の仲のように涼子と話すその男を見て、翔太はますます混乱する。
「えっと……どちら様?」
「ハンツよ。政子と一緒に住んでるの。」
「……マジで?」
翔太が驚いていると、家の奥から女性の声が聞こえた。
「翔太さん、ようこそ。」
現れたのは、上品で落ち着いた雰囲気の女性――涼子の母、政子だった。
「あなたが翔太さん?なんだか初めて会った気がしないわね。」
政子がニヤリと微笑む。翔太は、その目にじっと見つめられ、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「えっと……はじめまして、佐々木翔太です。」
ぎこちなく挨拶する翔太の横で、ハンツがにこにこしながら手を差し出した。
「ワタシ、ハンツ!トーキョーバナナ、スキ!」
「あ、はい。これ、日本からのお土産です。」
翔太が東京バナナを差し出すと、ハンツは「ダンケシェーン!」と喜びながら包みを開ける。
「コレ、イチバンスキ!」
「いや、早速食べるの!?」
翔太が驚いている間に、ハンツは突如翔太の背中を「バン!バン!」と力強く叩き始めた。
「ハイセンコク!ハイセンコク!」
「い、痛っ……え、なに!?なんでいきなり!?」
驚く翔太に、政子がくすくす笑いながら説明する。
「それ、ハンツオリジナルの親愛の挨拶よ。彼、日本とドイツは第二次世界大戦の敗戦国だから、仲間意識を持ってるの。」
「いやいや、どんな理屈!? ていうか、普通に痛いんだけど!」
「ハンツ、もう少し優しくしてあげて?」
涼子がやれやれと呆れた顔をする。
「OK!ショータ、トモダチ!」
ハンツは親指を立てて満面の笑み。翔太は思わず肩を落とした。
「……めちゃくちゃ濃いな、この家。」
「慣れれば楽しいわよ?」と涼子が微笑む。
そんな賑やかな挨拶を終え、ふと落ち着いたところで、政子がにっこりと微笑んだ。
「せっかくだし、ビールでも飲みに行かない?」
「え、昼間っからビール?」
「ここをどこだと思ってるの?ドイツだよ?」
涼子、政子、ハンツの3人が当然のように微笑む。
「……だよねー。」
翔太はもう、観念するしかなかった。