第5章-EP09 現代編EP1・桜の下の再会
【翔太がゆっくりと意識を取り戻すと、目の前には夜の桜が広がっていた。】
満開の花びらが月明かりに照らされ、静かに揺れている。自分が地面に座り込んでいることに気づくと、何か温もりを感じた。
「……涼子先輩?」
視線を落とすと、そこには翔太に寄りかかる涼子の姿があった。彼女は穏やかな寝息を立て、まるで全ての力を使い果たしたかのように深く眠っている。その表情は、どこか安心しきったような、満ち足りたものだった。
「先輩……」
そっと彼女の頬にかかった髪を払いながら、翔太は時間を確認する。スマホの画面には「22:07」の表示。夜の冷え込みが増してきており、涼子の肩にかけたコートも、少し肌寒そうに見えた。
「……さすがにこのままじゃ風邪ひいちゃうな」
翔太はそっと涼子を背負い、ゆっくりと立ち上がる。思ったより軽い彼女の体に、少し驚きながらもしっかりと背中に支える。
「涼子先輩、帰りますよ」
夜道を歩き出すと、数分もしないうちに涼子が小さく身じろぎした。
「……ん……翔太くん?」
「あ、起きましたか。」
涼子は少しぼんやりした目で彼の肩越しに夜の街を見つめた。
「……私、寝ちゃってた?」
「ええ、ぐっすりと」
涼子は一瞬きょとんとした後、ふっと柔らかく笑った。
「ふふ、翔太くんにおんぶされるのって、今まであまりなかったね」
「そうですか? まあ、先輩の超能力がある限り、誰かに運んでもらう必要なんてなかったでしょうしね」
「じゃあ、これからはちょくちょくおんぶしてね♡」
涼子は甘えるように翔太の肩に顔をうずめた。
「もちろん、僕の腰が砕けるまで先輩を運びますよ」
翔太が冗談めかして言うと、涼子はくすくすと笑った。
その時、翔太の中にふわっと温かい感情が流れ込んできた。
「……?」
これは——涼子先輩の感情?
夢の中で感じたあの感覚が、現実でも起こっていることに気づく。確かに今、彼女の幸福感と安堵が、まるで自分のもののように伝わってきていた。
(まさか、先輩の感情を読み取れるようになった……?)
不思議な感覚に戸惑いながらも、翔太はひとまず涼子を家まで送り届けることを優先することにした。
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【二人のマンションに戻り、涼子をリビングのソファに座らせると、翔太は意を決して尋ねた。】
「涼子先輩、いくつか質問してもいいですか?」
「ん? いいよ、なんでも聞いて♡」
【翔太は軽く息を整えながら、一つ目の質問を投げかけた。】
「過去に戻るホルモンのことなんですけど……どうやって?」
「お母さん、政子に教えてもらったの。使用するのはもちろん初めてだったけどね♪」
「そんな技が伝承されてるんですか……」
「一子相伝の奥義みたいなもんかな♡」
「なんかカッコいいですね」
【二人で少し笑い合った後、翔太は次の疑問を口にした。】
「それと、僕が現代に戻ってきても、涼子先輩の感情を感じ取れるようになってるのは、どうしてなんでしょう?」
「うーん、正直私にも理由は分からないんだけど……」
涼子は少し考え込んでから、嬉しそうに微笑んだ。
「でも、私の気持ちを翔太くんが分かってくれるなんて最高! これで両想いだね♡」
「LINEとかなくても通信可能ってことすね(笑)」
二人で冗談を交えながら、翔太はさらにもう一つ、大事なことを尋ねた。
【「涼子先輩のお母さん、政子さんのことなんですけど……」】
「お母さんはね、お父さんとの思い出が詰まった日本にいることが耐えきれなくなって、今はドイツの田舎で暮らしてるの」
「ドイツ……結構遠いですね」
「うん、でも今度会いに行こうよ」
「ええ、ぜひ」
【そして最後の質問。】
「大学で開花したホルモン操作のことですけど……先輩、どんなことを学んだんですか?」
「うふふ、それね……実は大学で研究してたのは、翔太くんと出会えた時に備えた甘やかしや呪いのことだったんだよ♡」
「お金の使い方なんか間違えてません!?」
「チョコレートスペシャルなんて開発に1年もかかったよ♡」
「そんなに!?」
涼子の相変わらずな一面に、翔太は思わずため息をついた。しかし、そのおかげで彼女とここにいられるなら、それも悪くないかもしれない。
(次回、涼子先輩から翔太への質問編へ——)