第4章-EP15 課長 高橋涼子(パート5)
【特命営業部・最終ミッション「涼子 vs 社長」】
「翔太くん、次の仕事よ♡」
涼子がニッコリと微笑む。
「え、もう次の案件ですか?」
翔太は、つい昨日までの「王子の別荘探しミッション」が終わったばかりで、まだ特命営業部の異常な環境に順応できていなかった。
「次はね、某県知事の息子が海外に拠点がある闇バイトの元締め犯罪組織に監禁されてしまったから、交渉して取り戻してほしいって案件なの」
「待って待って待って!!! うちの会社、絶対に商社じゃないでしょ!!!」
翔太が絶叫する。
「商社よ♡ ただ、時々『特別な交渉』をするだけよ?」
「特別すぎるよぉぉぉ!!!???」
翔太は頭を抱えるが、結局、涼子に連れられて交渉現場へと向かうことに——。
【翔太、敵の交渉人にスカウトされる】
海外の高級ホテルのVIPルーム。
そこには、知事の息子を監禁している組織の交渉担当者が待っていた。
「初めまして、Ms. Takahashi」
長身のスーツ姿の美女が、艶やかな笑みを浮かべている。
彼女は流暢な日本語で自己紹介した。
「私は、この交渉を担当するカレンよ」
涼子が交渉に入ろうとしたその時——
「……ふふ、面白いわね」
カレンの視線が、翔太に向けられた。
「キミ、いい顔してるね。なかなか惹きつけるものがあるわ」
「えっ!?!?」
「うちの組織に来ない? キミなら、ハニートラップ担当としてすごく活躍できると思うわ♡」
「いや、無理無理無理無理!!!!」
翔太は慌てて首を振る。
(なんで俺、敵側にスカウトされてんの!?!?)
だが、カレンの態度は変わらない。
「キミ、意識してないかもしれないけど、女性を惹きつける天性の才能があるわ。ビジネスとして使ってみない?」
「いや、そんな“才能”いらないんですけど!?」
——翔太の妙なモテ体質が、ここでも発揮されてしまう。
ズンッ……!!
その時涼子の見えない圧力が空間を支配した。
「うふふ、カレンさんは冗談がお上手ね。翔太くんは私との契約期間(死ぬまで)がまだ残ってますのよ。そういった”ルール違反”のスカウトはご遠慮願いますわ♡」
「……Okay Ms.Takahashi, すまなかったわ。ついShotaの素晴らしい才能に目が眩んでしまった。”ルール違反”をお詫びするわ。貴女は本当に素晴らしい部下をお持ちね」
翔太「良かったけど、それってどんな”ルール"なんですかー!?」
——結局、涼子の「完璧な交渉力」により、知事の息子の救出は成功。
だが、この騒動が、後に「とんでもない展開」を引き起こすことになる——。
【社長、翔太に目をつける】
翌日、翔太と涼子は社長室に呼び出された。
「君たちのおかげで、今回の交渉はうまくいった。実に素晴らしい仕事ぶりだ」
社長は満足そうに頷く。
——だが。
「それにしても……翔太くん、君の“才能”には驚かされたよ」
「え?」
「君は、女性を惹きつける才能があるようだな。次の特命案件では、それを活かしてハニートラップ営業を担当してもらおう」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」
翔太の悲鳴が社長室に響き渡る。
「さっそくだが、次の案件では、某国の政府高官の愛人と接触して、裏ルートの契約を取り付けてほしい…」
「いや、待ってください社長!? 俺、ただの営業ですよね? なんでスパイみたいな仕事させようとしてるんですか!?っていうか労災とかどうなるんですかー!?!」
「大丈夫だ、君にはその才能がある。君の活躍と労災は私が保証する。頼むぞ、ハニートラッパー翔太!」
社長の目は本気だった。
「こ、これ……涼子先輩、どうにかしてください(>_<)」
「……」
涼子は微笑んでいた。
だが、その目が——恐ろしく冷たい。
「社長」
「うん?」
「……今から、少しだけ営業をさせていただきますね♡」
——その瞬間、室内の空気が変わった。
翔太は背筋が凍る。
(あっ……これ、完全に“ヤバいモード”に入った……)
涼子はゆっくりと社長に歩み寄る。
「私の翔太くんに、そんな仕事をさせるつもりなのかしら?」
「いや、その……適材適所というか……」
社長がたじろぐ。
涼子の目が、まるで獲物を捕らえた猫科の大型動物のように光る。
——そして、次の瞬間。
「ふふ……大丈夫よ社長。少しだけ、あなたのお考えを“調整”して差し上げるわ♡」
翌日——翔太、通常営業に復帰
翔太がいつものデスクに戻ると、同僚たちが驚いた顔をしていた。
「えっ、翔太、戻ってきたの!? なんかすごい部署に異動したって聞いてたけど!」
「お、おう……まぁ、いろいろあってな……」
——そして、社長は。
「翔太くん……君は普通の営業をしてくれ……頼むから……」
まるで魂が抜けたような顔で、翔太に向かって頭を下げた。
「……社長、何があったんですか?」
「聞くな……」
「……」
翔太は深くため息をつく。
(結局、俺が何もする前に、涼子先輩が全部終わらせた……)
それでも、通常営業に戻れたことに安堵する。
「よし、これで普通の仕事ができる……」
そう思った瞬間——
「翔太くん♡」
涼子が後ろから抱きついてきた。
「うわっ!?」
「会社でも、家でも、一緒ね♡」
「いや、普通の仕事って言っても、涼子先輩と同じ部署ですよね!? 俺、完全に支配されてるんじゃ!?」
「ふふ、気のせいよ♡」
結局、翔太の「会社人生」は、涼子の手のひらの上だった——。
【エピローグ:翔太の嘆き】
その夜、翔太は涼子に抱きしめられながら呟いた。
「……俺、普通の会社員になれる日が来るのかな……」
「大丈夫よ、翔太くん」
涼子は優しく微笑みながら囁く。
「私がずーっとそばにいるから♡」
翔太の未来に、通常営業が戻る日は、果たして来るのだろうか——?