第4章-EP11 課長 高橋涼子(パート1)
【会社の七不思議、涼子はなぜ管理職にならないのか】
営業部のエース、高橋涼子。
彼女の営業成績は常にトップ。案件の数を多くこなすわけではないが、一発必中。
ここぞという大型案件のプレゼン成功率は 100% を誇り、会社の信頼は絶大だった。
しかし、誰もが疑問に思っていた——
「なぜ高橋涼子は昇進しないのか?」
「いや、普通なら部長クラスだろ……」
「彼女が昇進を断ってるらしいよ?」
「でも、なんで?管理職になったらもっと会社を牛耳れるじゃん」
「……実はすでに牛耳ってるとか?」
そんな噂が社内の七不思議として囁かれていた。
——だが、今夜、その七不思議が解き明かされる。
それも、本人の気まぐれで。
【翔太、朝から怒られる】
「翔太くん、起きて?」
甘く響く涼子の声。
ふわふわの毛布に包まれながら、翔太は夢心地だった。
「んん〜……あと5分……」
「ダメよ?会社、遅れるわよ?」
「大丈夫……涼子先輩が起こしてくれるから……」
そう言って再びまどろもうとした瞬間——
バサッ
毛布が一瞬で吹き飛び、重力を無視するように翔太の身体が宙に浮いた。
「うわっ!? ちょ、待っ……!!」
「言ったわよね?『遅れる』って♡」
ヒュンッ!
空中で回転しながらベッドから追い出された翔太は、勢いよくフローリングに転がる。
「痛っ……!?」
「私は先に行くわね♡」
「えっ!? 置いていかないで!!」
だが、次の瞬間、涼子はすでに ふわり と浮遊しながら窓の外へ消えていった。
(……この人、普通に玄関から出ないんだよな)
そうぼやきながら、翔太は慌ててスーツに着替え、会社へと向かった。
しかし、結果——遅刻。
「佐々木、お前最近気が緩んでるんじゃないのか?」
出社早々、翔太は上司の山田課長に説教される羽目になった。
「すみません……その、ちょっと寝坊して……」
「寝坊!? 社会人が寝坊なんてするな! 特にお前は最近いい成績を残してるんだから、自覚を持て!」
「はい……」(……あの “いい成績” は、涼子先輩のおかげも大きいけどな……)
「俺はお前に期待してるんだ、この会社の未来を担える人材はお前しかいないんだ。しっかり頼むぞ!」
と言って山田課長は涼太の肩をポン、ポン、ポンと、何か伝えるようにゆっくりと3回叩いた。
【甘やかし全開の晩御飯】
仕事を終え、家に帰ると、そこには 極上の甘やかし空間 が待っていた。
「翔太くん、お疲れ様♡ 今日はあなたの好きなハンバーグよ」
「やったー!!」
涼子の手料理 & 食べさせてもらう贅沢コース。
「はい、あーん♡」
「ん〜、おいしい!!」
「ふふっ、たくさん食べてね?」
至れり尽くせりの食事タイム。
翔太はすっかりリラックスし、今日の出来事を話し始めた。
「今日さ、朝起きられなくて遅刻しちゃってさ……」
「まあ、私を頼りすぎるのも問題よね♡」
「で、会社行ったら山田課長にめちゃくちゃ怒られて……」
その話を聞いていた涼子は、ふっと微笑んだ。
「それは大変だったわね」
「そうなんだよー。涼子先輩が僕の上司だったらよかったのになぁ」
——その瞬間、空気が変わった。キラリッ
涼子の瞳が、不自然なまでに美しく輝いた。
「…………」
「……涼子先輩?」
「それ、いいわね♡」
「え?」
涼子はスマホを手に取り、スッと画面をスクロールする。
そして——ダイヤルボタンを押した。
(……嫌な予感しかしない)
「……あっ、部長? 私、課長やります♡」
「えっ!?」
翔太は驚愕する。
——何の前触れもなく、涼子が“課長就任”を宣言した。
「おぉ!? 高橋くん、ついにやってくれるのか!!」
電話の向こうで、会社の人事部長が喜ぶ声が響く。
「はい、翔太くんのためにも♡」
「なるほど、なるほど! うんうん、君なら適任だ! よし、明日辞令を出そう!」
「ありがとうございます♡」
会話が終わり、涼子は満足げにスマホを置いた。
「決まったわ♡」
「いやいやいや!!! そんな簡単に課長になれるの!?」
「当然よ?」
「ま、まさか……超能力使った!?」
「ふふっ、それは秘密♡ でもね、昇進程度にそんなもの必要ないわ♡」
涼子は謎の微笑みを浮かべる。
(いや……絶対なんかやったよな……?)
翔太はもはやツッコむ気力もなく、ハンバーグを口に放り込んだ。
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【翌日、課長・高橋涼子、誕生】
翌朝。
翔太が会社に行くと、社内がざわついていた。
「えっ、マジで!? 高橋さんが課長に!?」
「ついに会社のトップが動いたか……」
「これはもう、会社の七不思議がひとつ消えたな」
噂の中心にいたのは、当然 高橋涼子(新課長)。
颯爽とオフィスに現れた彼女は、社員たちの注目を一身に浴びていた。
「皆さん、おはようございます♡」
相変わらずの美貌と余裕の態度。
しかし、これまでとは違い、彼女の名札には 『課長』 の文字が刻まれていた。
「……あの、本当に課長になったんですね……?」
「ええ、翔太くんのためにね♡」
「俺のため?」
そこへ、会社の人事部長が登場。
「高橋課長、改めてよろしく頼むよ!」
「はい、部長♡」
「で、早速だけど……高橋課長の配下には誰をつけようか?」
その問いに、涼子は ニコリ と微笑む。
「翔太くんがいいわ♡」
——まさかの指名。
「えっ?」
「えっ?」
周囲がざわつく中、人事部長が頭をかく。
「それがなぁ……翔太くんは優秀だから、山田課長が手放したがらなくてな……」
すると、涼子はスッと振り返った。
そして、微笑みながら——
「じゃあ、直接山田課長と話すわ♡」
課長・高橋涼子 vs. 山田課長——翔太を巡る“直談判”が、今始まる!!