第4章-EP09 涼子のホルモン講座(応用編)
【翔太が目を覚ますと、視界の端に柔らかいピンクの光が差し込む。】
ぼんやりと目をこすると、目の前には満面の笑みを浮かべた涼子がいた。しかし、よく見ると……
「……あれ? 先輩、その格好……?」
「気づいた? えへへ、ナース服バージョンだよ♪」
「いや、え、いつの間に? ていうか、そんなの家にありましたっけ?」
「んふふ♡ 翔太くんが寝てる間にポチッとお買い上げ♪ 超速配達してもらったの!」
(俺が寝てる間に!? まさかこの実験のためだけに……!?)
「さて、患者さん、準備はいいかな? ここから先は応用編だよ♪」
「すごい不安なんですけど……」と翔太
「基礎編で教えたホルモンは一般的なものだったけど、私の能力はね、それらを組み合わせて新しいホルモンを“調合”することもできるんだよ♡」
「……つまり?」
【キストシン(※涼子オリジナル)】
「実験開始♪ まずはこれ、『キストシン』!」
「えっ……? ちょ、なんか……すごい先輩にキスしたくなってきた……!!」
「ふふっ、いい感じ♡ キストシンは愛情ホルモンのオキシトシンをさらに増強して、翔太くんの『先輩大好き!』って気持ちを最高潮にするホルモンだよ♪」
「いやこれヤバイですよ! 我慢できないかも……!!」
【サビシトニン(※涼子オリジナル)】
「じゃあ次、『サビシトニン』♪」
「うわっ、これ知ってる! 先輩がいないと寂しくなる呪いのやつ!!!」
「ピンポーン♪ これをかけると翔太くんは私と一定時間離れると、猛烈に寂しくなるの♡」
「やめてくださいよ! そんなのかけられたら会社行けないじゃないですか!」
「大丈夫、適用範囲を調整してあげる♡ ……はい、次! 『チョコレートスペシャル』!」
【チョコレートスペシャル(※涼子オリジナル)】
「ちょ、ちょっと待っ——うわあぁぁあ!!! 先輩がチョコレートに見える!!」
「翔太くん、チョコ大好きだからねぇ♪ これは食欲と愛情のホルモンを組み合わせた結果、私が翔太くんの“最愛の食べ物”に見える効果があるの♡」
「いや、ダメですよこんなの!! 目の前でチョコが喋ってるとか脳が混乱します!!」
「面白いでしょ? ほかにも、翔太くんには効かないけど『直前の記憶がなくなるホルモン』とか、オリジナルのホルモンをいろいろ作れるんだよ♪」
「……ってことは、俺が先輩に内緒でキャバクラ行ったりしたら……?」
「そういうこと♡ 私はね、人の脳内ホルモンを“調整”できるだけじゃなくて、どのホルモンがどれくらい分泌されているかも感じ取れるの。つまり——」
「つまり?」
「翔太くんが今、何を考えてるか、何を感じてるか、ぜーんぶお見通し♡」
「……まさか、キャバクラ行こうとしたらすぐバレる!?」
「そういうこと♡ しかもね、人によってホルモンの“香り”が違うの。翔太くんのホルモンの香りは私が一番好きな匂いだから、どこにいてもわかるんだよ〜♪」
「……えっと、ちなみにどのくらいの距離まで感知できるんですか?」
「うーん、日本国内なら確実にわかるし、この間のシンガポール出張のときも途切れなかったから……たぶん、地球上どこにいても感知可能だね♡」
「……キャバクラ行くには、火星に行けってことですね?」
「(怒)翔太くん!! そんなにキャバクラ行きたいの!?」
「(あっ、やばい)」
「ちょ〜〜〜っと、特別なホルモンを試してみようか♡」
「ぎゃああああ!!!」
翔太の感想:(他人の感情は操れても、自分の感情は操れないんだ……)