第4章-EP06 翔太のシンガポール出張(パート2)
【出発前日】
涼子の“翔太電池充電”のため、翔太は会社を休まされる。出発の直前まで赤ちゃんモードを強制され、涼子に甘やかされ尽くす一日。
「もう、翔太くんは赤ちゃんだからね。しっかり充電していってね♡」
いつもより優しさが増し増しの涼子に抱きしめられ、甘やかされ尽くす翔太。だが、それは涼子自身のためでもあった。
【出発の日】
羽田空港。翔太の搭乗時間が迫る。
涼子は不安そうに翔太を見送る。
「気を付けて行ってきてね、翔太くん。帰ってきた時のお仕置きは考えておくね♡」
涼子の翔太電池残量110%
【出張 Day1~Day7】
毎日インターネットを通じて翔太とWebミーティングで会話。
「ちゃんとご飯食べてる? 変な女の人に話しかけられてない?」
「食べてるし、話しかけられてないよ!」
翔太の顔を見られるだけで安心するが、やはり涼子のストレスはじわじわと溜まっていく。脳内ホルモン調整の能力で翔太の感情を薄く感じ取ることができるが、逆にそれが不安を煽る。
さすがにすぐにシンガポールまでは飛んでいけない……。
涼子の翔太電池残量 110% → 50%
【出張Day8~Day11】
涼子は会社に出勤しているが、日に日に明らかに不機嫌になっていく。最初は表情が険しくなる程度だったが、やがて涼子の”機嫌”は周囲にまで影響を及ぼし始めた。
出張11日目の朝、オフィスの空気は異様だった。
「……なんか今日、社内の空気ピリピリしてません?」
「さっき◯◯先輩がめっちゃキレてた……普段あんなに穏やかなのに」
「それだけじゃないよ、プリンターが紙詰まりしまくるし、PCもフリーズするし……なんか嫌な感じがする」
社員たちがざわめく中、涼子はデスクでじっとスマホの画面を睨んでいた。翔太へ送ったメッセージは未読のまま。
(忙しいのかな……それとも、なにかあった……?)
嫌な予感が拭えず、涼子の不安がじわじわと膨れ上がっていく。その感情に引きずられるように、周囲の機械トラブルはさらに頻発。空調の設定が勝手に変わり、シュレッダーが勝手に動き出し、ついにはオフィスの照明がチカチカと不安定に点滅し始める。
そんな中、部長が何気なく口にした。
「翔太くん、向こうでうまくやってるかなぁ?」
その瞬間——
「……ッ!」
涼子の全身に電流が走るような感覚が広がり、反射的に指を握りしめた。
パキッ……
どこからか、不吉な音が響いた。
「……え?」
社員たちが一斉に周囲を見渡すと、オフィスの窓に細かいヒビが入っているのが見えた。
「……え、なに? 地震?」
「いや、揺れてないし……」
「まさか、涼子先輩の……?」
ざわざわとした不安が広がる中、涼子は小さく呟いた。
「やばい……翔太くんになにかあったら……私、この会社を跡形もなく消し去っちゃうかも……」
彼女がポツリと呟いた瞬間、オフィスの照明がバチバチッとスパークし、完全にダウン。
「キャアッ!」
「うわっ、停電!? え、なに、なに!?」
悲鳴とどよめきが広がる暗闇のオフィス。涼子はハッと我に返り、急いで“記憶の掃除”を発動する。静かに目を閉じ、オフィス全体に薄い霧のようなエネルギーが広がると、社員たちは「……あれ? 何の話してたっけ?」と記憶を失い、いつもの日常に戻っていった。
しかし。
記憶を消しても、窓のヒビはそのまま残っていた。
涼子はそれを見つめ、ギュッと唇を噛む。
(……本当に、翔太くんがいなくなったら、私……)
このままでは本当に何か起こる——そう察した涼子は、静かに会社をあとにする。。
涼子の翔太電池残量 40% → 10%
【出張Day12~Day13】
涼子は会社を休み、家から出なくなる。
翔太も涼子と連絡が取れなくなり、不安になる。
その間、涼子の状態はどんどん悪化していった。
些細なことでテレキネシスが発動し、カップを取ろうとしただけで棚ごと吹っ飛ばす。
無意識に能力を抑え込もうとして逆に脳に負担がかかり、立っているのも辛くなる。
翔太の感情を感じ取る力が鈍り、「何を考えているかわからない」ことが恐怖になる。
しまいには、意識がもうろうとし、そのままベッドへ。
「……早く帰ってきて……翔太くん……」
それが、涼子が発した最後の言葉だった。
翔太の帰国まで、あと1日——。
涼子の翔太電池残量:不明(限界突破寸前)