第1章-EP03 涼子の誘惑
【涼子は翔太に興味を持ち、超能力を使って彼を誘惑することにした。】
まずは軽くジャブを打つように、翔太の感情を操作する。彼の脳内に心地よい幸福感と、涼子への親近感がじんわりと広がるようにホルモンを調整した。
「ねぇ、翔太くん」
涼子は彼の名前を甘く響かせながら、机の上のペンを指先ひとつで転がしてみせる。もちろん、テレキネシスで。
「ん? …あれ、今のって…」
翔太は目を丸くしてペンを見つめる。
「ふふっ、不思議でしょ?」
涼子は微笑みながら、彼のネクタイの端をゆっくりと宙に持ち上げた。翔太が驚いて顔を上げると、涼子の妖艶な笑みと目が合う。
「翔太くんって、なんだか放っておけないタイプよね」
彼の耳元にすうっと息を吹きかけながら、脳内に心地よいドーパミンを放出させる。涼子の存在が、まるで麻薬のように彼の心を支配していく。
「ほら、こんなこともできるのよ?」
ふいに翔太の腕がふわっと浮き、まるで見えない糸で操られるようにゆっくりと持ち上がる。
「えっ…?」
戸惑う翔太の反応を楽しみながら、涼子は軽く指を弾いた。すると、翔太の腕はそっと元の位置へ戻る。
「まるで魔法みたいでしょ?」
涼子は悪戯っぽく微笑み、翔太の頬に優しく指先を滑らせる。
「ねぇ、私のこと…もっと知りたい?」
彼の瞳が涼子に引き寄せられ、もう逃れられない状態になっているのを確認し、涼子は満足げに微笑んだ。
===================
【涼子の誘惑がじわじわと翔太の心に染み込んでいく。】
彼女の指先が軽く触れただけなのに、なぜか心臓がドキリと跳ねる。まるで心の奥を覗かれているような感覚。
「どうしたの?」
涼子が楽しげに微笑む。
「いや…その…」
翔太は言葉を探すが、脳がうまく回らない。涼子が発する甘い香り、柔らかな声、そしてふとした仕草まですべてが異様なほど魅力的に感じる。
(なんだこれ…涼子先輩のことが…頭から離れない)
彼女が少し身を乗り出すと、心の奥から突き上げるような高揚感がこみ上げる。ドーパミン、オキシトシン——翔太は知らないが、それは涼子のホルモン操作によるものだった。
「私といると…なんだか楽しくない?」
彼女の声がまるで催眠のように響く。楽しい、心地いい、もっと近くにいたい——そんな感情が次々と湧き上がる。
「た、たしかに…楽しいです」
気づけば、翔太の視線は涼子に釘付けになっていた。彼女が指を軽く動かすと、机の上のペンがフワリと宙に浮かび、くるくると回る。
「すごい…」
普段なら驚くべき光景のはずなのに、それすらも幻想的で、美しく見えてしまう。
「ねぇ、翔太くん?」
涼子はそっと彼の手を取る。
「私のこと、もっと知りたくなったでしょ?」
翔太はもう否定できなかった。涼子の超能力は彼の理性すらも支配し、心を絡め取っていく。
「…はい」
答えた瞬間、涼子の微笑みがさらに妖艶なものに変わる。翔太はもう、彼女の術中に完全にはまっていた。
涼子との会話が終わったあとも、翔太の胸の高鳴りは収まらなかった。
(なんだ、これ…)
普段なら気にも留めない仕草や言葉が、涼子にかかるとすべて魅力的に思えてしまう。彼女の瞳に見つめられた瞬間、体温が上がる感覚。声を聞くだけで心が揺れる。
【——涼子先輩のことばかり考えてしまう。】
仕事を終えて帰ろうとしたとき、スマホの通知音が鳴った。
「翔太くん、今日このあと予定ある?」
送信者は涼子。たったそれだけの短いメッセージなのに、鼓動が速くなる。返信しようとする前に、さらにメッセージが届く。
「もし空いてたら、一緒に飲みに行かない?」
飲みに行く。つまり、それは涼子と二人きりになれる時間が増えるということ。
(行く…いや、でも…)
心のどこかで警戒する声があった。涼子といると、なぜか理性が溶かされてしまう。彼女の魅力に取り込まれるような感覚。
それでも、翔太の指は自動的に動いた。
「行きます!」
夜の街に並ぶネオンの光。落ち着いた雰囲気の居酒屋に入ると、すでに涼子は席についていた。白いブラウスにタイトスカートというシンプルな服装なのに、彼女がいるだけで周囲の空気が変わるように感じる。
「翔太くん、お疲れさま」
涼子が微笑みながらグラスを差し出す。
「お、お疲れさまです…」
グラスを合わせて乾杯すると、涼子はすぐにグラスを置き、じっと翔太を見つめた。
「なんか、緊張してる?」
「えっ、い、いや…そんなことは…」
「ふふっ、ほんと?」
涼子は肘をついて、少し上目遣いで翔太を見つめた。翔太へのホルモン操作を発動している、その赤い瞳の奥が不思議なほど心を惹きつける。
(……やばい、意識が全部持っていかれる)
お酒を飲むほどに、翔太の頭はぼんやりとしていった。話す内容も、次第に曖昧になっていく。それでも涼子の声だけははっきりと耳に届く。
「ねぇ翔太くん、もっと私のこと好きになってもいいんだよ?」
冗談めかして言われた言葉なのに、その一言が頭の中で何度も反響する。好き、もっと、もっと…。
(俺、涼子先輩のこと…)
気がつくと、涼子の指がテーブルの上でスッと動いていた。
「……?」
その瞬間、翔太の意識が一瞬ふっと浮くような感覚に襲われた。目の前の世界がかすかに歪んだように見える。
「もう、大丈夫。これからはもっと私のことを考えて…?」
涼子の言葉が、まるで心に直接流れ込んでくるように響く。彼女の指先が軽く触れるたびに、胸がドキドキと脈打つ。
理性の輪郭が溶かされていく。考えることも、選択することも、すべてどうでもよくなっていく。ただ、涼子のことが好きだという事実だけが、脳内に染み込んでいった。
「うん…」
もはや抵抗する余地はない。翔太の心は、涼子に完全に絡め取られた。