第1章-EP02 翔太との出会い
涼子が入社してから数年が経ち、社内では彼女の美貌と仕事ぶりが話題になっていた。男性社員の間では憧れの的だったが、涼子自身はまったく興味を示さず、次々と告白してくる男性たちを軽くあしらっていた。
彼女にとって、「本当に自分を受け入れてくれる相手」こそが重要だった。
そんなある日、新しく営業部に配属された佐々木翔太26歳の青年が涼子の前に現れた。
彼は爽やかで人懐っこく、誰とでもすぐに打ち解ける性格だった。
(……ふうん。今までの男とは違うタイプね)
「高橋さん、今度のプロジェクトでご一緒することになりました。よろしくお願いします!」
翔太は初対面でも物怖じせず、まっすぐ涼子の目を見て微笑んだ。
——その瞬間。
涼子の中で、何かが引っかかった。
(え……この感じ……なんだろう?)
涼子は、自分が思わず彼をじっと見つめていることに気づき、慌てて視線を逸らした。
彼の瞳には、自分を恐れる気配がまるでなかった。
それどころか、そこには妙な安心感すら漂っていた。
(……まさか)
胸の奥で、ある言葉が蘇る。
——「28歳で、あなたは運命の人に出会うでしょう」
涼子は微かに喉を鳴らした。
(バカな、そんな予言……)
頭では否定した。しかし、翔太を見た瞬間に走ったこの微かな違和感が、どうしても無視できなかった。
その違和感を確かめるように、涼子は彼との距離を縮めていく。
最初はただの業務上のやりとりだったが、彼の何気ない優しさや、誠実な態度が涼子の心を揺さぶっていく。
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ある日、二人は仕事帰りに同じエレベーターに乗り合わせた。
涼子はふと、翔太に対する気持ちを試したくなった。
「ねえ、翔太くん……あなた、私のことどう思う?」
突然の問いに翔太は驚きつつも、真剣な表情で答えた。
「高橋さんはすごく優秀で、綺麗で、ちょっと近寄りがたい雰囲気があります。でも……なんか、不思議と安心するんです。」
——「安心する」?
涼子の胸が、かすかに波打った。
今まで誰一人として、彼女に対してそんな言葉を口にした者はいなかった。
(……この人、やっぱり他の人とは違う)
確認するように、涼子は小さくテレキネシスを使った。
翔太のネクタイが、するりと彼の首からはずれふわりと浮き上がる。
「えっ!? な、なんか今……?」
翔太は驚いたように首元を押さえた。
(さて、ここで引くのが普通の男)
涼子は内心でそう思いながら、彼の反応を見守った。
しかし——翔太は、わずかに戸惑った後、肩をすくめて笑った。
「いやー、気のせいですよね! ……疲れてるのかな?」
——怖がらない。
涼子は、一瞬息をのんだ。
普通の男なら、「えっ!? 今何したの?!」と距離を取るはずだ。
だが翔太は、疑問には思ったものの、受け入れることを選んだ。
(……やっぱり、この人……)
涼子は、ふっと微笑んだ。
(もしかすると、私のすべてを受け入れてくれるかもしれない——)
その考えが浮かんだ瞬間、涼子の中で何かが弾けた。
心の奥に長年閉じ込めていた「期待」が、止められないほど膨らんでいくのを感じる。
(ふふ……ふふふ……)
次の瞬間、涼子の目が怪しく光った。
(これは……試してみる価値があるわね)
こうして、涼子と翔太の運命的な関係が始まるのだった。