英雄の息子として、生きてみろってか
【遊人side】──ゾンビ堂、喧嘩三巴戰、開幕。
──靈狩、登場。
偽裝解除。
嘴砲開始。
目の前の“偽神父”──
どう見ても165cm前後の中年男。
白人っぽい風貌に、短めの金髪。
アゴにはヤギヒゲ。
そして、あの目つき。
細くて、冷たくて──
しかも、
その瞳はまるで金で鋳造されたかのように、
硬質な光を放っていた。
──高性能AIみたいな、超絶演算中のヤバいやつ。
(どこが伝道師だよ……)
(反派オーラ、MAXじゃん……)
思わず口をついて出た。
「いやいや、神父じゃなくて、神経イってる側だろ──」
蓮が、その姿を見た瞬間──
……ガチでキレた。
語調はまさに、【宿敵登場】テンプレのアレ。
「十狩の中位──その第三位。」
「死者を操る悪魔、“霊狩”──トロスキー。」
「伝道師ごっこは、もう終わりだ。」
ザリ……ッ。
蓮が水龍剣を構えると、
床が「カチ」って音を立てた。
空気、変わった。
……なのに。
霊狩は、一歩も退かず。
むしろ、口元をクイッと上げて、挑発スマイル。
「意外だね──」
「まさかこの小さな教会で、俺の本体を見つけるとは。」
黒い杖を、ふわりと掲げると。
──ゾンビ巨怪、ダイブ開始。
(おいコラ!)
(なんで俺!?)
(そこに蓮いるだろ!? しかもそっちが本命だろ!?)
「『無料の軽食』も全部ウソだった!
今さら気づいた俺、バカじゃんかぁーー!!」
巨屍は、俺の《禁鞭》を正面から受け止めた。
……けどな。
蓮の攻撃までは、カバーできねぇだろ?
水龍剣が、一直線に霊狩へ突き刺さる。
蓮は戦いながら──俺の叫びを聞いて、
……ぷっと、笑った。
「いいね。ようやく気づいたか。」
「たった一回の『無料の軽食』で、
雷字人が釣れるんだもんなぁ。」
「この世界、思ったより──チョロいわ。」
【遊人side】──無料の軽食と、英雄の息子
「……マジで、俺ってチョロすぎ?」
雷光の中、俺は叫んだ。
「俺、生まれた時からさ、
先代の雷字人──つまり、俺の父親に捨てられたんだよ!」
「“世界のために犠牲になった英雄”とか言われてさ、
息子の俺はずっと空腹で、
ポケットの中も空っぽだったっつーの!」
「一回の『無料の軽食』に感動する俺が悪いんじゃねー!
この世界が悪いんだよ!」
蓮が、眉をしかめた。
「無道……君の父親のことか。
……それは、本当にすまなかった。」
(うそ、蓮が謝った!?)
(……ってか、その声、めっちゃ沈んでる!?)
「ただの無責任な親父だよ」
「謝るほどの価値もない。」
そう言ったけど──
まさか、蓮がそんなふうに言うなんて。
ちょっと、意外だった。
そのとき。
ゾンビ巨怪が再び突っ込んできた。
腕の太さ、俺の脚の二倍。
胸筋、焼肉にしたらバカ売れしそう。
──でも、下半身が細すぎ!
バランス悪っ!
あれ絶対、即席で作ったやつじゃん!
「これは……!」
蓮が剣を構える。
「この世界の人間、
君に謝るべきだと思う。」
俺は下半身に狙いを定めた。
その瞬間、蓮の《水龍剣》が空間を斬った。
「お前、俺の無責任親父を知ってるわけ?」
「仏城の長老たちが、
“英雄たち”のことを話してくれた。」
「ティダ先生も似たようなこと言ってたけど、俺は納得してない!」
「でも、ちゃんと聞くべきだったと思うよ。」
「雷二──雷球の舞ッ!!」
鞭が巻き上げた砂塵に、電気が吸い付く。
それが雷球となって、
まるでビリヤードのブレイクショットみたいに飛散し──
巨怪の全身に、バチバチと噛みついた!
ドカァン!
雷球が炸裂!
ゾンビ巨怪はひざをついて、呻き声を上げた。
「君の父親を、そんなふうに言ってほしくない。」
「俺は誇りに思うよ。
──今、“英雄の息子”と共に戦っているから。」
蓮の《水龍剣》は、鋭く、鋭く、突き込んだ。
霊狩はたまらず後退し、
建物の梁へ跳び移って、天井裏に逃げ込んだ。
「お前、執明楼の“優等生”って感じじゃないな……」
「優等生だって、人間だからな。
謝ることだってある。」
「ま、さっきの謝罪──受け取っとくよ。」
「この戦いが終わったら、
ちゃんとした“無料の軽食”を奢るよ。」
「マジで?」
「……無道の息子だからな。」
「一言で、約束な?」
(あれ、なんか、ちょっと照れてきた……)
「おーい!
君たち卦者のイチャイチャ劇場、
そろそろ終わってくれるかなー?」
梁の上から、霊狩が顔を出して叫んだ。
「……俺、主役なんだけど?」
「俺、そっち系じゃねーからな!」
「だれが誰とイチャイチャだよ、吐きそう!」
「……蓮、このオッサン、そろそろ始末してくんね?」
その間にも、巨怪は膝をついたまま、呻き続けている。
俺は《禁鞭》を長く伸ばして──
一気に鞭を打ち込み、
ゾンビ巨怪をまるで粽みたいにグルグル巻きにした。
そこへ、蓮の一閃。
《水龍剣》が唸り──
ゾンビ巨怪の首が、斬り落とされた。




