【遊人side】部長、お願いってアリですか?
【遊人side】──校園中午、詩社の幽霊IGアカウントにて
ティーダが最後に見せた、
あの影のような後ろ姿が──
なんか、心に引っかかってた。
俺とティーダは、
どっちも一回死にかけたことある。
だからかもしれない。
──次はもう、会えない気がして。
気づいたら、詩を書いてた。
そして、
放置してた詩社のIGグループに、久しぶりの投稿。
『彼女は、火の盾。』
はじめて見たとき、
笑ってるようで、
どこか遠かった。
風に髪が揺れるたび、
火傷しそうな勇気の匂いがした。
誰のためでもなく、
黙って立ってた。
あの戦場で、一人きりで。
カッコ悪く逃げた俺とは、
まるで違ったのに──
不思議と、目が離せなかった。
たぶん、
「恋」じゃない。
でも、「忘れたい」でもなかった。
だから、言葉にして残した。
君が、
俺の中の何かを、燃やしたってことだけ。
──江雨 遊人
「……みんなは戦って、活躍できてるのに。
俺ができるのは、誰にも見られない詩を書くことだけって、
マジで悔しいな……」
スマホのインスタ画面、
投稿前の下書きページを見つめる。
十秒間、動けなかった。
(……消そっかな)
でも──
(いや、ダメだ。
ここで迷ったら、また“下書き沼”に沈む……!)
──ポチッ。
投稿ボタン、押しちゃった。
……そして、すぐ後悔した。
(なにが「火の盾」だよ俺……!)
(戦闘直後にポエム爆撃って……よく投稿したな!?)
二分経過。
いいね、ゼロ。
五分経過。
変わらず、ゼロ。
(……まあ、そりゃそうか)
(このグループ、詩社メンバー以外、誰もフォローしてないし)
削除ボタンに、指が触れかけたそのとき──
ぽふっ、と肩に乗った結菜が、
そっと言ってくれた。
(結菜)
「すごく、いい詩だったよ。
“誰にも見られない”なんて、そんなことない。
私は見てたもん。
ちゃんと、心に届いたよ」
……
(……反則じゃん、
そんなの聞いたら、消せるわけないだろ
……ん?
スマホの画面が、ぽんっと光った。
──「1件のいいね」
@sunflower__aki
目を細めて、
アカウント名を、もう一度確認した。
(……え?)
(これ、陽葵のアカウントじゃん!?)
なんで?
いや、マジでなんで?
あの子、こんな幽霊部活のアカウント、フォローしてたっけ?
ていうか──
(俺の詩、見てたの!?)
ドキッ、と心臓が跳ねたその瞬間。
──ピコン♪
LINE通知が来た。
──「佐藤 陽葵」からのメッセージ。
画面に視線を落としつつ、
なぜか、もう一度さっきの詩の投稿を開いてしまった。
……なんか、消したくなくなった。
それでも、つい口に出ちまう。
「……よりによって、陽葵かよっ」
(恥ずかしいって!
戦闘後のポエムに“いいね”とか、
「SNS羞恥トラップ」すぎだろぉぉぉ)
でもまあ──
ちょっと、嬉しかったのは否定できない。
LINEチャット(遊人 × 陽葵)
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陽葵
井上先輩の今期の作品、すごく好きでした!
中川薫先輩が言ってたんですけど──詩って、代筆もアリなんですか?
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遊人
(ちょっと照れ)
いやいや、オレなんて全然
正直、国語しかまともな成績取れてないし。
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陽葵
あの、お願いしてもいいですか?
……その、わたしの詩も、書いてほしくて。
ちゃんと依頼って形で。
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遊人
えっ、マジで?
先に言ってよ、お金絡むやつ!?
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陽葵
もし大丈夫なら、数千円くらい出せます!
でも、雰囲気は似せつつ、別の詩にしてもらえたら嬉しいです。
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遊人
んー……ちょっと時間はかかるかも。
テーマとか、ある?
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陽葵
(ちょっとだけ間)
……テーマは、「わたし」です。
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遊人
ふむ。
なんか……女の子が、自分のプロフィール写真を
「こう見せたい」って選ぶ感覚に近いのかな。
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陽葵
ち、ちがいますよ!?
やきもちとか、そういうのじゃなくて!
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陽葵
ただ……
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陽葵
誰かの詩があるなら、
自分のも欲しくなるの、自然なことかなって思っただけです。
(スタンプ:自分のデフォルメキャラがぺこりとおじぎ)
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陽葵
だから、
よかったら一篇──お願いします。
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陽葵
(えっと……言うのちょっと恥ずかしいけど)
高三になる前に、自分のことを文章にしてみたかっただけで。
文字も歌も苦手だから、ダンス以外は全然……
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陽葵
(もし先輩がよければ)
数日後、小町の「魔舞結社スタジオ」に行きます。
そこ、実は白くんとも知り合った場所なんです。
そのとき、もし都合よければ──受け取り、お願いします!
【遊人side】──まさかの依頼、まさかのテーマ
(いや……これは新しいタイプの依頼だな)
スマホを見てたら、
肩の上にいた結菜が、ぽんっと跳び降りた。
画面に、ちょこんと肉球タップ。
「OK」スタンプが送られてる。
(ちょっ……勝手に送ってんじゃねーよ)
でも──
(なるほどな……あいつ、きっとこう言いたいんだろ)
「その子が残したい自分らしさ、ちゃんと汲み取ってあげてね」
……ま、ここまで頼まれて断る理由もないし。
ってことで、
この案件、とりあえず薫にも投げといた。
(何かいい案出してくれるかもしれんし)




