「火・水・雷・山・天」──五卦バトル、ただし誰が敵かは不明
【段落収束章 × 文字数多め】
たぶん読後、体感10分くらいかかるかも。
……でも、ぜんぶぶち込んだから許して!
「うわ、長っ!」って言われても──
知らん!
今日で全部キメたかったんだよ。
ドォンッ!!
慎之助が掲げたのは──
山紋が刻まれた《山紋盾》。
その正面から、
明羽の火輪を、真正面で受け止めた!
だが──
炎は跳ね返るどころか、
むしろ……盾のふちを這うように、回りはじめた。
まるで境界線を見つけたかのように、
くるくると、水龍の輪郭をなぞるように──
火と水が、空中で交わり……
ゴウウウッ……!
蒸気が爆ぜ、
水蒸気が天へと舞い上がる。
水龍の姿が、徐々に──
「……うわ、マジかよ」
思わず、口から出た。
あの連携火輪、
蓮の《水龍剣法呪》を、根こそぎ焼き払いやがった!!
蒸発──いや、消滅に近い。
龍のヒゲも、角も消えた。
胴体すら、
一節ずつ断たれていくみたいに──崩れていった。
白い霧となった蒸気が、風に流されて──
水龍は、
跡形もなく、消えた。
陽翔は、
まるで水中から投げ出されたかのように──
ぐったりと、慎之助の背中にもたれかかる。
蓮の方も、
ボロッボロだ。
剣を杖代わりにして、
もう片方の手で、明羽の肩に体重を預けてる。
──ギリギリ、立ってるだけって感じだった。
(マジかよ……
あのチーム、完成度エグくない……?)
4人並んで、完全にエンディング直行モード。
あとは主題歌が流れるだけって感じだった。
(……いやいやいや)
(まだ第何ラウンド目よ?)
(もうこんなに隠し玉使っちゃっていいの!?)
俺は額の汗を拭って──
でも、
どこかで、わかってた。
──終わってねぇ。
まだ何かが、来る。
なぜなら──
ブレが、まだ動いてないからだ。
あの人だけは、
一歩も動かずに、戦場の端に立ったまま。
ただ、じっと。
どこかを見据えていた。
俺たちじゃない。
陽翔でも、ティダでも、蓮でもない。
彼が見ているのは──
(……もっと、遠くだ)
(まさか、まだ──
こっちに来てない“何か”があるのか!?)
「っ……クソッ!
なんで俺は、命がけで戦ってんのに──」
「蓮は女の肩に寄りかかってて、
俺は、お前に寄りかかってんだよ!」
「いや、真正面目に戦ってんの……俺の方だろ?」
陽翔が呆れ混じりに慎之助を睨んだ。
「っつーか、マジかよ!」
慎之助はブツブツ文句を言いながら、
陽翔を肩からずり落とした。
陽翔は白目むいて、
バッテリー残量ゼロのスマホみたいな顔してた。
「マジ、ムカついてきたわ!」
慎之助がいきなり爆発!
ごそっと鷹を掴んで──
「このままじゃ、明羽があの執明樓の蓮に持ってかれるだろうが!!」
「──老鷹、ちょっと貸せッ!」
次の瞬間──
そいつは本当に鷹を放った。
シュバァァァァッ!!
空へ舞い上がる鷹!
……だけじゃない。
慎之助本人も、
勢いそのまま左側へ突進!
そして狙ったのは──
よりにもよって、ちょうどその場にいた──
齊藤 蓮。
「裏切り者ーーッ!?!?」
陽翔の絶叫が飛ぶ。
支えを失って、バランス崩した彼は──
バッシャァァァン!!
見事に泥沼に落ちた。
水しぶき、ド派手に舞い上がって──
全身ドロドロ。
「もうこのコンビ、コントかよ……」
俺は思わず、目を逸らした。
──なお、慎之助はというと。
「勝ったのはオレだってばァァァァァーーッ!!」
なぜか叫びながら全力ダッシュ中。
(テンション、完全にバラエティ芸人じゃん……)
明羽の方に、
突如として──
巨大な鷹が、突っ込んできた。
彼女は反射的に剣を構え、
一瞬、本気で斬りにいきそうだったけど──
実際は、空振り。
牽制で数回、シュッと振っただけだった。
そのスキを突いて。
「ぶっ飛ばされろおおおッ!!」
……って感じで、
慎之助、登場。
例の《消防盾》──
じゃなかった、《山紋盾》を引っさげて。
火柱の壁をぶち破り、
左サイドから突撃してきた!
「明羽と一番最初に仲良くなったのは、俺だーッ!!」
「イケメン面して割り込んでんじゃねぇよ、色男があああああッ!!!」
……めっちゃ叫んでる。
そのまま、
ドカーーーンッ!!と
蓮にタックル!
そして蓮はというと──
ポーンッ!
まるでホームラン打たれた球みたいに、
華麗に空中へ吹っ飛んでいった。
「やべっ!」
明羽が急いで法陣を解く。
蓮に火が燃え移るのを防ぐため──
《火の護法陣》も、これで消滅。
そして。
天鷹も、ちゃっかりブレの肩に帰還。
──が、問題はそこじゃない。
蓮が……
蓮が、空中から……
ズドォォォォン!!と落ちてくるぅぅうう!!
このままじゃ──
顔面から激突コースだった、その瞬間──
彼女が、現れた。
空から、ふわっと。
黒い、
五つの帽子のツノを揺らしながら──
黒帽女、降☆臨。
「雷・水・火・天・山……」
「五人の卦者による乱戦、終了でーす♪」
空中から、
まるで深夜ラジオみたいなトーンで広報開始。
「優勝者は──慎之助くんでーす。おめでと~♪」
──で、その本人は。
空中で。
蓮を──
お姫様抱っこしてた。
しかも──
やたらと安定してる。
なんだその、プロ仕様のお姫様抱き……。
(……いやいやいやいや)
(こっちはバトル漫画の世界だよな!?)
(いつから結婚式場にシフトした!?)
(……いやいやいやいや)
(この画面、怖すぎんだろ……!?)
だって蓮が──
完全に固まってたんだもん。
まるで、蛇に睨まれたカエル。
目線、泳がすこともできず。
(……うわ、コレ、
たぶん一生いじられるやつ)
そして……
場が、
一瞬で静まり返った。
誰もが、わかっていた。
あの女だ。
《眼狩の戦い》に現れ、
陽翔を攫っていった──
あの、謎の女。
そのときだった。
ブレが、動いた。
背中から──
でっっかい二振りの剣を、引き抜いた。
いやいや、待て待て。
あれ……剣っていうか……
もはや鉄鋸。
サイズ感、FF7で見たことあるやつ。
片方を、地面にドンッと突き刺した瞬間──
ビィィィィン……
地面が震える。
殺気の圧が、物理的。
(マジで、やる気だ……!)
なにせ、《火狩》と正面から殴り合えるってウワサの人だぞ!?
周りの誰も──
一歩も、動けなかった。
俺は、てっきり。
次の一手は、《黒帽女》との衝突だとばかり……
だが、
彼女は、
ゆる~く腕を上げただけで──
親指を、肩越しにクイッと後ろに指した。
それだけ。
ただ、それだけだったのに──
ブレが、ピタッと動きを止めた。
まるで、
電源を抜かれた戦闘アンドロイド。
(えっ……?)
(まさか……他にも味方が?)
その瞬間、
俺の脳内に、警報が鳴り響いた。
(しかも、その味方って──)
(わざと学園の外に残してた!?)
(……ブレの動きまで計算済み!?)
冷や汗が、一気に噴き出す。
この女、
次元が違う。
そのとき、電流みたいに脳裏をよぎった。
──敵は、江冬雨じゃない。
あの女だ。
もし今、俺が《鞭》を使って彼女に攻撃を仕掛けたら……
少なくとも、
今この場にいる──
九地の砦、巨木門、姬野家、佛城の連中には、
「俺は黒帽女に歯向かう側」って認識される。
つまり、
“内通者リスト”から、俺の名前が一旦消える。
そして──
彼女は、それを読んでいた。
俺の思考、
全部お見通しって顔で。
しかも──
軽く、目元で笑って──
コクッと頷いた。
(……え、いいの!?)
(てか、なんでそこで通じ合ってんの俺ら!?)
彼女は──
蓮を、そっと地面に降ろすと同時に、
俺の《禁鞭》を、
ひらりとかわした。
まるで、
風を抜ける影のように。
……いや、当たり前だけど。
本気で当てるつもりなんて、
ハナからない。
江冬雨相手に命張るより、
この黒帽女相手に小芝居打つ方が──
どう考えても、
体力的にも精神的にも、楽で済む。
ルーザーの知恵ってのはさ、
「省エネ」から生まれるんだよ。
俺が鞭をぐるぐる振り回して、
芝居の最高潮を演出してた、その時──
背中に、気配。
サッと、誰かが立った。
「……ティダ?」
振り返ると、そこにいたのは彼女だった。
「私が江を見てる」
ティダの声は、
驚くほど静かだったけど──
一撃で核心を突いた。
彼女は、気づいていた。
江冬雨が、
俺の動きに合わせて背後を狙ってるってことを。
そして──
俺も、そのことに気づいてることを。
そして──
彼女も、
俺がそれに気づいているってことに気づいてる。
(……この感じ、)
(マジでやりづらいわ)
江冬雨は──動かない。
……たぶん、自分が不利だって、
よくわかってるからだ。
そりゃそうだ。
《九地の砦》の刀使いたち、
ティダにコテンパンにやられて、ほぼ戦力ゼロ。
あのまま前に出てたら、
次のバトルに出場すらできねぇよ、あれは。
一方──
蓮と陽翔は、完全にガス欠。
その場でぐったりと寝そべってる。
明羽はというと、
じーっと前を見据えて、なにか考えてるっぽい顔。
で、慎之助?
あのピエロは、
もう脳内で「どうやって明羽に声かけ直すか」
シミュレーション始めてた。
(お前はもう舞台から降りとけ)
そして、ブレ。
あの人の《熱感ゴーグル》はまだ動いてる。
じわり、じわりと──
戦場の奥。
あの女の背後、もっと遠く。
誰かを、探している。
……けど、そこに誰がいるのかは、わからない。
ブレは、前に言っていた。
「敵にまだ“伏兵”が残っている時は、
戦場には踏み込まない。
賢い戦士は、な」
──でもさ。
もしかして……あの女も、わかってるんじゃね?
ブレの、その哲学。
たったひとりで、全員を制止してる。
黒帽女──
彼女が出てきた瞬間、
全員の足が、止まった。
だって、思い出させられたから。
──まだ、この戦場には、共通の“敵”がいるってことを。
こんな存在感、ズルだろ。
こっちは鞭を何度も振ってんのに、
一発も当たらねぇ。
あの人、ヒョイヒョイ飛び回って、
まるでエナドリ飲んだ体操選手みたいだったし。
こっちは鞭振りすぎて肩外れそうなんだけど!?
しかも、
髪の毛一本すら、かすらねぇって何……!?
俺が手を振りすぎて、
腕がつりそうになったその時だった。
ティダが、すっと俺の背後を駆け抜けた。
「パス」
その一言だけを残して、
大きく跳躍──
次の瞬間。
彼女の十八番、《連続飛び蹴り》が炸裂!!
七頭身のモデル体型が宙を舞い、
まるでアクション映画の主人公。
「やるわね、鋭金旗のエース。
本気で私を沈めに来た?」
黒帽女が、軽口を叩く。
俺は思わず感嘆して、
そっと一歩、引いて観客席モードへ。
「アンタの八極拳も、なかなかだよ」
黒帽女も構えを変え、
なんと──同じ八極拳を披露。
……って、
おいおい。
あの七頭身ボディで、
スカートの裾を裂いた!?
長くて白い脚が、
一切のためらいなく──
ティダめがけて、一直線に放たれた。
「っ……!」
ティダは、まるで鏡の自分と戦ってるみたいだった。
拳が拳に。
ステップがステップに。
完全な、ミラー対決。
二人のモデル体型美女──
いや、違う違う。
武技の応酬だってば!
けど次に来るのが膝と膝のぶつかり合いだったら──
それはもう、
骨と肉の、物理衝突。
これ映画じゃねぇぞ?
マジで骨折れるヤツ!
八極拳の真骨頂は、「剛」。
打ち合えば、
両者ともタダでは済まない。
ティダも、わかってた。
これ以上は、マズい。
すぐに距離を取り、五歩下がって構えを解いた。
黒帽女も、それに合わせて止まる。
「びっくりした?
実は私、八極拳ではアンタの先輩なんだよね」
ふわっと笑って、
構えをゆるめて一歩後退。
「関係、勝手に作るな」
ティダは眉をひそめる。
「アンタからは、友の気配は感じない」
「フフ……そう言い切れるかな?」
黒帽女は肩をすくめて笑った。
「でも──殺気はない。
いったい、アンタは何者?」
「私が誰かなんて、大した問題じゃない」
黒帽女は帽子の斜めったリボンを正しながら、
「大事なのは、
……私の登場タイミング、完璧だったでしょ?」
その瞬間。
彼女の背後で──
バリッ、と音を立てて、空間が裂けた。
黒い“亀裂”が、
まるで水面にインクを垂らしたように広がっていく。
やがて、それは丸く歪み、
ぐにゃりと揺れる《黒のゲート》が現れた。
──どこかに繋がる、“抜け道”のようなもの。
彼女は、一歩だけ。
音もなく、その中に身を引いた。
……そして、消えた。
俺たちは、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
口も、気配も、誰一人動かせないまま──
戦いは、止まった。
けれど、
──謎だけが、深くなった。
この物語に、少しでも何かを感じたなら──
次の物語も、見届けてもらえると嬉しいです。
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