決まってたんかい、その連携……!?
「姫家のご厚意は、ありがたく──」
蓮が、ちょっとバツが悪そうな顔で言う。
「でもな、ここは──俺一人で十分だ!」
(……いやいや、水と火って、
ふつう相性悪くね?)
(表面上は援護っぽいけど……なんか、この空気、微妙に噛み合ってねぇような……)
「え〜、そんなこと言わないでさ〜」
明羽がふわっと笑う。
「せっかく《火衛・四面幡》まで張ったんだよ?」
まるで、
「早くしてよねっ!」
って言いたげな顔。
「で? 撃つ? 撃たない?」
「……わ、わかった、ありがと」
蓮が深く息を吸って──
「《十式・幻波・樓捲龍》!!」
次の瞬間。
──ゴオォォォォン!!
水龍が、咆哮した。
その体が、火の壁をぶち破り、
一直線に、陽翔へと突っ込んでいくッ!!
──だけど。
「……え?」
火の壁を突き抜けた瞬間──
水龍のボディが、急にガタガタ崩れ出した。
蒸気が逆流し、
ヒゲは焼け落ち、角はポキッと折れて、
鱗は……一列まるごと蒸発。
(ちょ、ちょっと待って!
このコンボ、逆効果すぎじゃね!?)
(明羽さん、ねぇ……
それ、本当に援護のつもり? ねぇ!?)
叫ぶ暇もなかった。
龍はそのまま、咆哮を上げて突っ込む。
けど、もうそれは「水」の音じゃなかった。
熱を帯びた蒸気と、
焚きつけるような熱風と、
それに混ざる轟音が──
ぐるぐると渦を巻きながら、陽翔に迫る!
そして──第一波の衝撃が、来た。
ドガァァァン!!!
水龍の全身がぶつかる。
陽翔の姿、あっという間に見えなくなった。
まるで──
洗濯機に吸い込まれた米粒。
(うわ……あれ、ヤバすぎんだろ)
その衝撃──
数Gどころじゃない。
もう、ドラゴンの身体そのものが、
マジで生きて動いてる感じだった。
その生きた龍が、陽翔の身体に巻きつき、
ズルズルッと締め上げていく。
まるで大蛇に丸呑みされる寸前、
身体ごと、水の中に引きずり込まれて──
呼吸すら、できない。
いや、もうこれ……
養命酒風呂で強制漢方サウナコース!?
そんなレベルの地獄だ。
ただのパワー比べじゃないんだよ、ここは。
あのプレッシャー……
毛穴からジワジワ入ってきて、
耳鳴りっていうか、ガラスの破片で黒板を引っ掻いてるみたいな──
脳天までキーーーンッて響いてくる。
感覚って感覚が、ぜんぶブッ壊れそうだった。
「う、うわぁああああっ!!」
陽翔、爆発寸前。
髪の毛全部逆立って、
顔面がビリビリ痙攣してるし。
全身電撃マッサージ中ですか!?
(蓮、陽翔に向かって叫ぶ)
「……諦めろッ!!」
──いや、お前の喉の方がヤバくない!?
その絶叫、声帯いま何色だよ!?
てかこの人、
奥義出すたびに自分のHPもゴリゴリ削られてるんだけど!
ボス技じゃなくて、呪いの反動だろこれ……
蓮は水龍剣を、真っ赤な火陣のど真ん中に突き刺し──
唇、震わせながら叫んだ。
「《開天斧》を……渡せ!!」
「む、ムリだからァッ!!」
陽翔、ほとんど泡吹いてるじゃん……。
てか、
もう喋るのやめた。
最後のシャボン玉みたいな息、ぷかって浮かばせたあと、
目線だけで蓮を睨みつけてきた──
(いやいや、
その目つき、
最終決戰の敵幹部かよ!!)
陽翔は──
もうほとんど、
水没寸前だった。
顔、青すぎるって!
蓮はというと、
息も絶え絶え。
あの冷血剣士が、
まるで魚みたいにパクパクしてたし。
水浸しと虚脱。
どっちも口では「まだイケる」って言ってるけど──
(内心劇場、更新済みだな)
(陽翔 → 蓮への視線)
「……テメェ、
いつまで俺を引っ張るつもりだよ、クソボスが!」
(蓮 → 陽翔への視線)
「ウザ……
その魚の死んだ目、
こっちに向けんなっての」
もうさ、勝ち負けとかどうでもいい。
問題は、
──どっちが先に、力尽きるか。
俺、木村陽翔とは
物心つく前から殴り合ってきたんだけど──
学んだ教訓、ひとつだけある。
「アイツのHPゲージ、限界がねぇ!」
削ったと思ったら、
またフルチャージしてくるし。
マジでバグキャラなんだよな、あいつ……
──そのとき、だった。
空から──影が、落ちてきた。
「……は?」
白い人影。
見慣れすぎて、逆にビビるやつ。
間違いない。慎之助だ。
(え、マジで?)
(なんでそんなベストタイミングで登場できんの!?)
彼は、
地面に着く寸前にすでに──
左手の《重盾》を、投げていた。
ヒュンッ!
フリスビーかってぐらい綺麗な回転で、
水龍の頭部めがけて一直線!
──ドカッ!!!
命中した……!
けど──
(ん? なんか、ヤな感じがする)
水龍のやつ──
……体がちょっとビクッとはしたけど。
そのまま、
「ギャアアアアアッ!!」
みたいな咆哮をかまして、
また元気に暴れ出した。
「効いてねぇのかよ……」
思わず、口から漏れた。
「水ってさ、液体だよ?」
ティダが、眉をひそめながら言った。
まるで、
「うん、まぁ当然の話だけど?」
みたいな顔で。
「いくら固体でど突いたって、通り抜けるだけ。
せいぜい、水面に波紋出るくらいっしょ」
……確かに、納得しちゃうのが悔しい。
「蓮センパイっ!」
──そこで、ついに明羽が声を上げた。
いつもの如く、超元気。やたらテンション高い。
「《監兵樓》のあの二人──
ウチが代わりに、シメてあげましょうかっ!」
おっ、来たか!
と思ったのも束の間──
彼女、
スッ……と蓮の背後に後退した。
(え……?)
今から出るんじゃなかったのかよ!?
なんで下がった!?
てか、今……慎之助に、コクッて頷いた?
しかも──
ウインク、したよな……!?
(え、待って待って待って)
(なに? その意味深演出!?)
(え、これって──)
──その瞬間。
「《明王の怒火之輪》ッ!!」
明羽、叫ぶ!
その手に構えたのは、不動明王剣。
高く掲げたかと思えば、空中をなぎ払うように──振り抜いた!
ギュンッ!!
ギュギュギュギュギュギュギュギュン!!!
剣先と空気が摩擦して、
火花が爆ぜる。
炎の輪が、一つ……二つ……三つ……
真っ赤な火球が、
パラボラ軌道で、水龍めがけて放たれた──!
……が。
それと、ほぼ同時。
慎之助が──火球の軌道に飛び込んだ!!
(はあああああ!?)
(いやいやいや、
今の、明羽が放った攻撃でしょ!?)
(まさか、受け止めるつもり!?)
いや、違う──
あの明羽の目……
やっぱり、何か打ち合わせ済みっぽいぞ……!?
あの瞬間──
みんなの視線は、
完全にこっち。
陽翔とティダ、そして俺に集中してた。
でもその間に……
慎之助と明羽のふたり、
あいつら──
(絶対、なんか打ち合わせしてたろ!?)




