表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/113

乱戦バトルロイヤル《再起動》──遊人視点、ここからです

俺の名前は──ま、今はいいか。


どうせまた、

俺のターンなんだし。


ほら、空気読めないやつらが……

また来た。


──前置き? ナシナシ。

いきなり、斬りかかってきた。


二人の刀使いが、

揃ってこっちに突っ込んできた瞬間──


動きがもう、

「三年間ずっとペア練してました!」レベルの息ぴったり具合。


(……いやいやいや!

なんでまた俺が狙われてんの!?)


*


でも──

彼女のほうが、早かった。


「──チッ」


ティダが右手を軽く振る。

まるで、虫でも払うような動きで。


次の瞬間──

手刀が、一人の手首にめり込んだ。


「パキンッ!」


って、音がしたかと思えば──

刀、ポロッて落ちた。


え、もう!?


そのまま、ティダが一歩踏み込んで──

膝を少し折るような姿勢からの、


「ハッ!」


肘打ちが、

もう一人の胸元にズドン。


空っぽのポリバケツでも叩いたみたいな音。


二人まとめて、

まるで爆風に吹っ飛ばされたかのように──


「ボッカーーーン!!」


……無視すんなよ、重力。


後ろから──

さらに三人の刀使いが、

三方向から一気に襲いかかってきた。


……けどさ。


彼女、まったく引かなかった。


むしろ──

前に出た。


「は……?」


右側のやつの懐に、

スッと、身体を滑り込ませて──


そのまま、

相手の手を押さえて──


そいつの刀を使って、

左から来た二人の刃を受け止めたんだよ!?


(……って、おいおい!?

 そんなの、

 ベテラン武術家しかやらんでしょ!?)


心の中で叫んだ次の瞬間。


彼女の脚が──

ヒュッと長弧を描いて、二人の顔面へ。


「バチンッ!!」


二人まとめて、

スパーンと空中に蹴り飛ばされた。


まるで──

草刈機で吹っ飛ばされた雑草。


もう一人。


背後にいた最後の一人に──

振り向きざまの肘打ち。


ズドン。


「うぐっ……」


そいつは、ぐらりとよろけて、

酔っぱらいみたいに地面へ崩れ落ちた。


倒れた刀使いが、

地面に寝転びながら呻いた。


「こ、こいつ……」


「拳が……《八極拳》……!?」



胸を押さえて倒れた刀使い──

まるで、コンクリの壁に轢かれたみたいな顔してた。


でもさ。


彼女、まったく止まらなかった。


ティダは──

くるりと、一回転。


……いや、別にパフォーマンスじゃない。


ただ、

攻撃の重心を入れ替えただけ。


身体の中心を軸に、

キレイに弧を描くような動きで──


タイミングと角度を、

完璧に計算して──


まだ近づいてすらいない敵を、

先に蹴りで吹っ飛ばした。


「ブォン!」


空気が裂けた。


そいつは、

円の外へ――すっ飛んでった。


そこから──

畳みかけるように、突進。


肘。

膝。

拳。


全部、

ティダの身体の中で、

一番固い部分だった。


……でも、それを──


相手の身体の、

一番柔らかいとこにぶつけるんだよ。


(なにこの人……

 素手なのに、動きが刀より鋭い……!)


ひとり、またひとり。


ティダの拳が、

敵を“壊して”いく。


一発、一発が──

完全に、「とどめ」。


追撃は、しない。


ていうか、

必要ない。


……だって誰一人、

その“一撃目”すら耐えられてないから。



……って、

のんびり見てる場合じゃなかった!


肩に乗ってる結菜と一緒に、

俺も──戦場に引きずり込まれた。


*


「ちっ……!」


今度は──

江冬雨の双剣が、俺に向かって振り下ろされる。


見た瞬間、直感した。


(うわ……

 こいつ、めんどくさいやつだ!!)


右から、左から。

同時に斬りかかってくる──!


(ッ……!?

 なにこれ、重っ……!!)


一本目をどうにか受け止めた瞬間。


腕が、

ビリビリって痺れてきた。


感覚、もうないんだけど!?


あの重さで、

あの速さで、

しかも──キレッキレの軌道。


って、どんな物理演算してんだよコレ!?!?


マジで毎回、

俺の神経をピンポイントで叩いてくる精度なんだけど……!!


*


「結菜ぁっ!!」


俺の悲鳴に、

ぱんっ、と青い光がはじける。


背中から──

盾、展開!


「……ふんっ」


って、間一髪。


次の一撃が来たその瞬間──


「キィンッ!!」


江の斬撃が、

結菜の光輪盾こうりんシールドに跳ね返された!


盾の表面で弾かれた刃が、ギャリッと空中で軌道を歪めた。


(サンキュー……!

 まじで、今の一撃は死ぬかと思ったわ……)


……一回だけじゃなかった。


むしろ──

結菜のテンション、上がってきたのか。


空中に、

「ポンッ!」「カチンッ!」って音を立てて──


盾が、次から次へと出てくる。


しかも──三枚同時!!


(え、マジ!?)


左、右、前方──

気づけば、俺の周囲に浮かぶ青い輪。


まるで、

オート防衛システム。


いやもう、

完全に『ドクター・ストレンジ』の世界観じゃん!


光でできた魔法陣が、

空間に描かれていく──


盾と盾の間隔も、バラバラにズレてて。

グルグル回ったり、

パッと瞬いたり──


そのまま、前にグイッと押し出されて──


「ゴツッ」


江冬雨の額に、ヒット。


(……おお。

 盾、ただの防御じゃないんだ)


それは、もう──


ほぼ《空間の壁》。


視界も斬撃も、

押し戻してくる光の結界みたいだった。


*


「っち……!」


そのとき。

江冬雨の動きに、ついにブレが出た。


刀はまだ速い。

威力もある。


──けど。


結菜のタイミングずらしが、

完全に効いてた。


まるで水の撒かれた床みたいに、

足元が滑る。


斬撃も、

すれ違いで空を切る。


(よっしゃ……!)


初めて見た。


あの江冬雨に、

「隙」ができた瞬間──


(この人、たしかに強いけど──

 俺たちと戦ったこと、あったっけ?)


(ないよね?)


(だったらさ……)


(古い攻略パターン、

 新しいレイドにそのまま通用すると思うなよ?)


*


江冬雨の刀、

斬撃の軌道がどんどん変わってきた。


でも──


俺の肩の上には、

浮遊型ランダム干渉ユニット・結菜(仮)がいて。


たまに、

俺が太刀を突き出す。


こっちは軽く小突いただけなのに──


江冬雨のほうが、

「うっわ、来るっ!」って顔して大きく後退したりして。


(あー……ビビってるな。

 結菜がまた何か撃ってくると思ってる。……実際、撃たないけど)


(こっちの次の一手が読めないんだな)


(……まぁ、俺自身も読めてないけど)


(肩の上のこの猫型ユニット、

 次、何してくるか俺にもわかんねーから)


*


気づけば──


俺と、結菜と、江冬雨。


三人で一緒に、

青い光と刀の残影の中で、

ぐっちゃぐちゃに斬り合ってた。


でも、わかった。


江冬雨の動き、

明らかにズレてきてる。


ステップも、

ほんの少し、ブレてる。


*


……そしたら、だ。


江冬雨が、スッと距離を取った。


俺たちの正面から、

一歩、二歩──下がって、


その目が、

俺の後ろをチラッと見た。


(あ……コレ、わかったぞ)


(俺と結菜のコンビじゃ勝てないから、

 後ろの刀使いたちに──応援頼もうとしてる)


……けどさ。


(それ、無理だと思うよ?)


(だって──)


(あんたの仲間たち、

 今、めっちゃ寝てるからね?)


そのとき、俺はようやく理解した。


ティダの肘打ち──

あれ、どの刀よりも速ぇ。


*


斬りかかってきた刀使いの顎、

「ガクッ」って外れた瞬間、もう戦闘不能。


そのままティダが──

左右の掌を交差させて、次の敵の喉元へ。


「ゴッ!」


体ごとぶつかって、

そいつを後方へ吹き飛ばす。


ぶつかった先にいた刀使いまで、

ドミノみたいに倒れてった。


(え、なにこれ……連鎖爆破?)


*


ティダの掌──

あまりにも速すぎて。


他のやつらの目じゃ、

動きが見えてないレベル。


ってことは……

当然、刀で反応なんてできるわけもなく。


(そっか……)


(ティダが速ければ、

 もはや刀なんて脅威じゃないんだ)


膝を蹴り上げ──

頭を叩き──

体をひねって、後ろにターン!


空間感覚、

お前ほんとに人間か?


ってくらいのバランス感。


まるで背中に目でもついてるかのように──


また一人、刀使いが沈んだ。


*


(こ、こんなに効率いいの……!?)


(……え?)


(もしかしてティダって──)


([人間兵器]とか、そっち系!?)


……終わってなかった。


ティダのラスト一撃──

もう、人間の動きじゃなかった。


助走。

ジャンプ。

両膝を──

ドンッ!!って、相手の胸に叩き込んだ。


相手、刀を構える間もなく……

吹っ飛んだ。


空中でスピンかかって、

そのまま壁に激突。


(いやいやいや、あれ人間のジャンプ力じゃないよ!?)


*


そして──


「バッシィン!!」


今度は──鞭。

ティダの手から、ヒュンって伸びて。


六歩先のやつらまで、まとめてなぎ払った。


保齡球かな?


バッカーン!


敵、全員スプリットなしのストライク。


*


風鈴が並んでる路地を、

台風が横切っていった感じ。


音も、

画面も、

ぐっちゃぐちゃ。


でも、ティダだけは──


その真ん中で、

一ミリも乱れてなかった。


スカートの裾さえ、ピクリとも揺れてない。


*


……ほんの、数十秒。


倒れた音だけが響いて、

起き上がるやつなんて、一人もいない。


残ってんのは──


ティダ、一人。


しかも、平然。


*


「……あれ?」


「このレイド、難易度設定バグってない?」


思わず、横に二歩下がった。


このまま俺のほうに向き直られたら──

マジで敵認定されそうで、怖すぎる。


*


俺と江冬雨、無言。


並んでティダを見つめてたら──


俺の口、自然に開いて、

下顎落ちそうになってたそのとき。


*


……風が、変わった。


目の端で──

赤い火と、吹きすさぶ風が見えた。


そっちに、俺も、江冬雨も──

自然と、意識を引っ張られた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくれてありがとう! Twitterでも活動中 → @kaoru0naka ご感想お待ちしています!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ