乱戦バトルロイヤル《再起動》──遊人視点、ここからです
俺の名前は──ま、今はいいか。
どうせまた、
俺のターンなんだし。
ほら、空気読めないやつらが……
また来た。
──前置き? ナシナシ。
いきなり、斬りかかってきた。
二人の刀使いが、
揃ってこっちに突っ込んできた瞬間──
動きがもう、
「三年間ずっとペア練してました!」レベルの息ぴったり具合。
(……いやいやいや!
なんでまた俺が狙われてんの!?)
*
でも──
彼女のほうが、早かった。
「──チッ」
ティダが右手を軽く振る。
まるで、虫でも払うような動きで。
次の瞬間──
手刀が、一人の手首にめり込んだ。
「パキンッ!」
って、音がしたかと思えば──
刀、ポロッて落ちた。
え、もう!?
そのまま、ティダが一歩踏み込んで──
膝を少し折るような姿勢からの、
「ハッ!」
肘打ちが、
もう一人の胸元にズドン。
空っぽのポリバケツでも叩いたみたいな音。
二人まとめて、
まるで爆風に吹っ飛ばされたかのように──
「ボッカーーーン!!」
……無視すんなよ、重力。
後ろから──
さらに三人の刀使いが、
三方向から一気に襲いかかってきた。
……けどさ。
彼女、まったく引かなかった。
むしろ──
前に出た。
「は……?」
右側のやつの懐に、
スッと、身体を滑り込ませて──
そのまま、
相手の手を押さえて──
そいつの刀を使って、
左から来た二人の刃を受け止めたんだよ!?
(……って、おいおい!?
そんなの、
ベテラン武術家しかやらんでしょ!?)
心の中で叫んだ次の瞬間。
彼女の脚が──
ヒュッと長弧を描いて、二人の顔面へ。
「バチンッ!!」
二人まとめて、
スパーンと空中に蹴り飛ばされた。
まるで──
草刈機で吹っ飛ばされた雑草。
もう一人。
背後にいた最後の一人に──
振り向きざまの肘打ち。
ズドン。
「うぐっ……」
そいつは、ぐらりとよろけて、
酔っぱらいみたいに地面へ崩れ落ちた。
倒れた刀使いが、
地面に寝転びながら呻いた。
「こ、こいつ……」
「拳が……《八極拳》……!?」
胸を押さえて倒れた刀使い──
まるで、コンクリの壁に轢かれたみたいな顔してた。
でもさ。
彼女、まったく止まらなかった。
ティダは──
くるりと、一回転。
……いや、別にパフォーマンスじゃない。
ただ、
攻撃の重心を入れ替えただけ。
身体の中心を軸に、
キレイに弧を描くような動きで──
タイミングと角度を、
完璧に計算して──
まだ近づいてすらいない敵を、
先に蹴りで吹っ飛ばした。
「ブォン!」
空気が裂けた。
そいつは、
円の外へ――すっ飛んでった。
そこから──
畳みかけるように、突進。
肘。
膝。
拳。
全部、
ティダの身体の中で、
一番固い部分だった。
……でも、それを──
相手の身体の、
一番柔らかいとこにぶつけるんだよ。
(なにこの人……
素手なのに、動きが刀より鋭い……!)
ひとり、またひとり。
ティダの拳が、
敵を“壊して”いく。
一発、一発が──
完全に、「とどめ」。
追撃は、しない。
ていうか、
必要ない。
……だって誰一人、
その“一撃目”すら耐えられてないから。
……って、
のんびり見てる場合じゃなかった!
肩に乗ってる結菜と一緒に、
俺も──戦場に引きずり込まれた。
*
「ちっ……!」
今度は──
江冬雨の双剣が、俺に向かって振り下ろされる。
見た瞬間、直感した。
(うわ……
こいつ、めんどくさいやつだ!!)
右から、左から。
同時に斬りかかってくる──!
(ッ……!?
なにこれ、重っ……!!)
一本目をどうにか受け止めた瞬間。
腕が、
ビリビリって痺れてきた。
感覚、もうないんだけど!?
あの重さで、
あの速さで、
しかも──キレッキレの軌道。
って、どんな物理演算してんだよコレ!?!?
マジで毎回、
俺の神経をピンポイントで叩いてくる精度なんだけど……!!
*
「結菜ぁっ!!」
俺の悲鳴に、
ぱんっ、と青い光がはじける。
背中から──
盾、展開!
「……ふんっ」
って、間一髪。
次の一撃が来たその瞬間──
「キィンッ!!」
江の斬撃が、
結菜の光輪盾に跳ね返された!
盾の表面で弾かれた刃が、ギャリッと空中で軌道を歪めた。
(サンキュー……!
まじで、今の一撃は死ぬかと思ったわ……)
……一回だけじゃなかった。
むしろ──
結菜のテンション、上がってきたのか。
空中に、
「ポンッ!」「カチンッ!」って音を立てて──
盾が、次から次へと出てくる。
しかも──三枚同時!!
(え、マジ!?)
左、右、前方──
気づけば、俺の周囲に浮かぶ青い輪。
まるで、
オート防衛システム。
いやもう、
完全に『ドクター・ストレンジ』の世界観じゃん!
光でできた魔法陣が、
空間に描かれていく──
盾と盾の間隔も、バラバラにズレてて。
グルグル回ったり、
パッと瞬いたり──
そのまま、前にグイッと押し出されて──
「ゴツッ」
江冬雨の額に、ヒット。
(……おお。
盾、ただの防御じゃないんだ)
それは、もう──
ほぼ《空間の壁》。
視界も斬撃も、
押し戻してくる光の結界みたいだった。
*
「っち……!」
そのとき。
江冬雨の動きに、ついにブレが出た。
刀はまだ速い。
威力もある。
──けど。
結菜のタイミングずらしが、
完全に効いてた。
まるで水の撒かれた床みたいに、
足元が滑る。
斬撃も、
すれ違いで空を切る。
(よっしゃ……!)
初めて見た。
あの江冬雨に、
「隙」ができた瞬間──
(この人、たしかに強いけど──
俺たちと戦ったこと、あったっけ?)
(ないよね?)
(だったらさ……)
(古い攻略パターン、
新しいレイドにそのまま通用すると思うなよ?)
*
江冬雨の刀、
斬撃の軌道がどんどん変わってきた。
でも──
俺の肩の上には、
浮遊型ランダム干渉ユニット・結菜(仮)がいて。
たまに、
俺が太刀を突き出す。
こっちは軽く小突いただけなのに──
江冬雨のほうが、
「うっわ、来るっ!」って顔して大きく後退したりして。
(あー……ビビってるな。
結菜がまた何か撃ってくると思ってる。……実際、撃たないけど)
(こっちの次の一手が読めないんだな)
(……まぁ、俺自身も読めてないけど)
(肩の上のこの猫型ユニット、
次、何してくるか俺にもわかんねーから)
*
気づけば──
俺と、結菜と、江冬雨。
三人で一緒に、
青い光と刀の残影の中で、
ぐっちゃぐちゃに斬り合ってた。
でも、わかった。
江冬雨の動き、
明らかにズレてきてる。
ステップも、
ほんの少し、ブレてる。
*
……そしたら、だ。
江冬雨が、スッと距離を取った。
俺たちの正面から、
一歩、二歩──下がって、
その目が、
俺の後ろをチラッと見た。
(あ……コレ、わかったぞ)
(俺と結菜のコンビじゃ勝てないから、
後ろの刀使いたちに──応援頼もうとしてる)
……けどさ。
(それ、無理だと思うよ?)
(だって──)
(あんたの仲間たち、
今、めっちゃ寝てるからね?)
そのとき、俺はようやく理解した。
ティダの肘打ち──
あれ、どの刀よりも速ぇ。
*
斬りかかってきた刀使いの顎、
「ガクッ」って外れた瞬間、もう戦闘不能。
そのままティダが──
左右の掌を交差させて、次の敵の喉元へ。
「ゴッ!」
体ごとぶつかって、
そいつを後方へ吹き飛ばす。
ぶつかった先にいた刀使いまで、
ドミノみたいに倒れてった。
(え、なにこれ……連鎖爆破?)
*
ティダの掌──
あまりにも速すぎて。
他のやつらの目じゃ、
動きが見えてないレベル。
ってことは……
当然、刀で反応なんてできるわけもなく。
(そっか……)
(ティダが速ければ、
もはや刀なんて脅威じゃないんだ)
膝を蹴り上げ──
頭を叩き──
体をひねって、後ろにターン!
空間感覚、
お前ほんとに人間か?
ってくらいのバランス感。
まるで背中に目でもついてるかのように──
また一人、刀使いが沈んだ。
*
(こ、こんなに効率いいの……!?)
(……え?)
(もしかしてティダって──)
([人間兵器]とか、そっち系!?)
……終わってなかった。
ティダのラスト一撃──
もう、人間の動きじゃなかった。
助走。
ジャンプ。
両膝を──
ドンッ!!って、相手の胸に叩き込んだ。
相手、刀を構える間もなく……
吹っ飛んだ。
空中でスピンかかって、
そのまま壁に激突。
(いやいやいや、あれ人間のジャンプ力じゃないよ!?)
*
そして──
「バッシィン!!」
今度は──鞭。
ティダの手から、ヒュンって伸びて。
六歩先のやつらまで、まとめてなぎ払った。
保齡球かな?
バッカーン!
敵、全員スプリットなしのストライク。
*
風鈴が並んでる路地を、
台風が横切っていった感じ。
音も、
画面も、
ぐっちゃぐちゃ。
でも、ティダだけは──
その真ん中で、
一ミリも乱れてなかった。
スカートの裾さえ、ピクリとも揺れてない。
*
……ほんの、数十秒。
倒れた音だけが響いて、
起き上がるやつなんて、一人もいない。
残ってんのは──
ティダ、一人。
しかも、平然。
*
「……あれ?」
「このレイド、難易度設定バグってない?」
思わず、横に二歩下がった。
このまま俺のほうに向き直られたら──
マジで敵認定されそうで、怖すぎる。
*
俺と江冬雨、無言。
並んでティダを見つめてたら──
俺の口、自然に開いて、
下顎落ちそうになってたそのとき。
*
……風が、変わった。
目の端で──
赤い火と、吹きすさぶ風が見えた。
そっちに、俺も、江冬雨も──
自然と、意識を引っ張られた。




