進撃の開天斧
バチバチバチ……!
火花を散らしながら、まだ戦いは遠くで続いていた。
そこへ――風の符に乗って、陽翔、飛来!
藍の線群が牙を剥く。
高圧電流とシアー回転がねじ込まれ、まるで電漿のホース。
うねる蛇のように、陽翔をめがけて突っ込んでくる!
「うおっ、来やがった!」
陽翔は拳を振りかぶり、
斧柄のリングにガシッと拳を通す。
ガガガッ!!
開天斧が意志に反応し、超高速スピン開始!
巨大扇風機みたいな風圧の盾をつくり、藍の攻撃を弾いた!
「へぇ、やるじゃん!」
「てっきり吹き飛ばされるだけのヤツかと思ってたけど……」
藍が静かに目を細める。
「今ここで潰しとかなきゃ、将来マジで厄介な狩になりそうだね」
「将来じゃねえよ、今すぐ!お前の"厄介"になってやるよ!」
陽翔が斧を引いて、再び突撃――!
ズバァァァッ!
無数の太いケーブルが四方から飛び出し、網状に交差!
その背後には、工場の機材や積み上げられた鉄のギアたち。
「うっわ、どんだけガード固いんだよ!」
運命の歯車はなおもゆっくり回転しながら、藍を守っているように見えた。
「てか、どんだけ打っても退かないのお前!?」
「……計算ミスった。お前、50%の脳筋じゃなかったわ」
「200%の脳筋ゴリラだったァ!!」
\バァンッ/
突如、スピーカーから謎のBGMが流れ出す。
重低音と電子音にまじった、どこかの未来から来た祈り。
「名のない、怪物──」
――その瞬間、音楽と戦いのリズムがピタリと重なった。
「ふん、線は切れても、鋼棒までは無理っしょ」
藍は地面にどかっと座り込みながら、余裕の表情。
「ランドアートかよ!残念、俺、解体業者なんでぇ!」 陽翔がにやりと笑う。
斧の柄に彫られた経文が光り、金色の文字が浮かぶ。
「切れねぇなら……爆ぜりゃいいんだろッ!!」
ゴォオォッ!!
熱風をまとった斧がケーブルに触れると同時に、
ドカンッ!!!と炸裂!
熱光と衝撃波が走り、線材が逆流して藍の周囲に突き刺さる!
「ッ!!」
地面にいたゾンビたちも、まるでボウリングのピンのようにドドドッと倒れていく!
その流れ弾に巻き込まれそうになった布雷、即回避!
「言ったよな……?」
「攻撃前には、味方に一声かけろって!!」
「……ったく、よく生きてたな、アンタ」
右の符から聞こえてきたのは、
鉄骨コンクリの裏に隠れていたブレイの、あきれた声。
「……すまん、兄貴。
まさか、"まだ生きてた"とは思わんかったわ」
「教え方が良すぎたのか、
それともテメェが半分だけ学んだのか……どっちだ?」
「いやいや、正直ちょっと……楽しそうに見えたし!?」
「へぇ、じゃあもう俺が死のうがどうでもいいってか?
ずいぶんテンション高かったなぁ、お前」
ブレイが半笑いで吐き捨てる。
「だって、俺が勝手に思ったんだよ」
「師匠は、俺が気にかけなくても……絶対やられねぇって」
陽翔は少し照れくさそうに、焼け落ちた園區全体を見下ろしながら、
黒焦げになった屋根の残骸を見つめた。
「ちゃんと"師匠"って呼んでくれて、
……これで死んでも満足だわ、俺」
ブレイの表情はどこか複雑だった。
名門の誇りか、無茶な弟子を育てた責任か。
「この世界に"バーサーカー"はひとりで十分なんだよ!
お前までその席狙うな、ガキ!」
「バーサーカー枠は俺で埋まってんだが!?
いちいち奪いにくんなよ、小鬼!」
「じゃあ言うけど――」
陽翔が笑って、斧を担ぎながら振り向いた。
「類は友を呼ぶってな。
五行旗にアンタいなかったら、俺マジでつまんなかったから!」
「……安心していいぞ」
ブレイの声は、少しだけ優しかった。
「俺も似たようなバカだからさ」
「お前がいない五行旗とか、考えたくもねぇわ」
「感慨に浸るのは……命持ち帰ってからにしろ」
「前ばっか見てると、
後ろにいる敵を見落とすんだよ!」
カン……ッ。
金属の義眼がわずかに光を反射し、
ブレイは遠く、夜空に浮かぶ月を見上げた。
でも――
《爆破しても、無意味だった》
煙の奥。
チップの山の上。
そこに――
白い月を背にして、
藍が、静かに腰を下ろしていた。
その更に上――
黒い雲を踏み抜くように。
虚空に浮かぶ、ブラックホールの球体のてっぺんに。
黒帽の女が、悠然と立っていた。
まるで、夜を支配する存在みたいに――。
「……あの筋肉脳、意外と……バカじゃなかったかも」
藍の口元が、苦く歪む。
「天字人とかマジ無理……」
「これ、緩和ケア案件じゃね?」
ゴホッ――!
藍が、口元を押さえて咳き込む。
掌には、じわりと広がる紅。
「八人の印者の中で……力一番ってのは、天字人か」
黒帽の女が、小さく息を呑む。
「……でも一番ヤバいのは、私だよ」
「この園區を選んだのも、ただの偶然だと思ってんの?」
藍が薄く笑い、目を閉じた瞬間。
無数の電線が――ギュルルルッ……と、再び集結を始めた。
「おいおい、敵の弾って無限湧きなん……?」
陽翔がちょっとだけテンション下がる。
「相手がこの俺でありがたく思えっての」
「マジでフェアな勝負したかったくらいだし」
「火狩が来てたら――
お前の周りの符なんざ、瞬殺で灰だよ?
そのまま地獄の底まで、直行便☆」
「なら、今ここで終わらせる!」
ピピッ!
眼狩のチップが月光を反射し、レンズのように前方を照射。
瞬間、青い電線がスパークしながら空間を編み、
スパイダーネットみたいな護壁を形成!
「チッ……!」
その網の内側から、モクモクと毒ガス――
工業廃棄ガスが四方八方にブワァァァッと噴き出す。
陽翔、即座に身を翻す。
目を閉じ、斧に念を込めた――!
「行けッ!!」
ブン――!!!
金色の經文が光る開天斧が、まるでブーメランのように飛翔!
ズドォオオオン!!!
命中。
斧が電線を叩き潰した瞬間、炸裂するように火柱が噴き上がる。
風を切る火の舌、
絶対温度の熱風、
爆裂する空気が――
毒霧を一瞬で吹き飛ばした!
「ハッ……!」
藍が目を開けた瞬間――
斧がクルリと戻ってきて、陽翔の手へ!
「お返し、っと!」
そのままの勢いで――
ズバッ!!
陽翔が振るった斧が、藍の目前へ!
ガキィィン!!
藍がようやく応戦。
鋼鉄棒で受け止める。
ビリビリビリッ……!
青い雷のような電流が、ふたりの間に走った!
藍の背後に、金属パイプがゆっくりとせり上がる。
巨大なパネルを背負い、彼の"象徴"のように寄り添う。
「口だけでかくても、意味ねぇぞ」
「口も!腕も!あるからな、俺はッ!」
陽翔が叫んだ瞬間――
ズキィン……!
藍の脳内に、バチンと電気が走ったかのような激痛が走る。
「……ッ、ちっ!」
次の瞬間、陽翔がふっとんだ――!
ドガァァン!!!
地面を転がる陽翔の身体。
煙と火花が散る中――
バトルは、まだ終わらない。




