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臨時派遣三人組、現る。──非常時特対本部の名のもとに

『はい、これで……完成っ』

姬野黎花が手際よく皿を並べ、食材を綺麗に盛り付ける。

 

『うわ、今の……』

遊人が、わざとらしく陽翔の隣に座りながらため息混じりに呟いた。

『和服でも着てたら、完全に江雨高校の男子全滅だろ』

 

『ふふっ、そんなことないってば。江雨には私より可愛い子、いっぱいいるよ?』

黎花は笑いながら、お箸を一膳ずつ配っていく。

 

『ふん、誰であれ――黎花に近づきたいなら、まずはパパとアタシを倒してからにしてもらおっか!』

明羽が腕を組みながら、ドンと断言。

 

『うわ、それハードモードじゃん』

遊人が苦笑しながら茶化す。

『まあでも、それでライバル減るって考えたら、アリっちゃアリ? てか、追える人いるのか、それ』

 

陽翔はその一言で、わかりやすく耳まで真っ赤になる。

 

『ははっ、慎之助も陽翔も硬っ! 今日いちばん気楽なの、オレだけ説〜?』

遊人がそう言いながら、ひょいと結菜をなでなで。

 

陽翔はそっぽを向き、姬野家の広いリビングをきょろきょろ。

 

慎之助はといえば――黙って長テーブルの席に着くなり、姬野明羽の真正面のポジションをがっちり確保。

完全に石化モード。

 

しかも珍しく、野菜鍋をほとんど手付かずという異常事態。

視線はずっと、明羽のほう。

……いや、見てるだけで満腹になるかよ。

 

『先日の訪問の際も……我が娘が社工の業務で伺った折に、刃を交えてまでご助力いただき、痛み入る』

連山が、少し堅めの口調で遊人と陽翔に頭を下げる。

 

『いえ、お気になさらず』

遊人が即答。

 

『そうそう。私、非力だから〜。護ってもらわなきゃだったよ』

黎花がにこにこと笑いながら、ぽつり。

 

『コホン! とはいえ、我が姬野家の血を引く者として、無力などとは言えん。助力をいただいたことには、改めて感謝している』

連山が軽く咳払いしつつ、家の威厳を守る一方で素直に礼も述べた。

 

『そっか……じゃあ、今日ので、借りは二つってことか』

黎花がくすっと言う。

 

その時――

遊人がこっそり、隣の慎之助の脇腹を肘でツン。

 

『もう、いっそ身を捧げちゃえば? なぁ?』

 

慎之助、完全沈黙。

 

『おいおい、今日ぜんっぜん口撃できてないじゃん? どしたの、慎之助ェ〜』

 

『……今度まとめて仕返しな』

慎之助が小さく白旗を振る。

 

ピンポーン。

 

玄関のチャイムが鳴った。

黎花と明羽が、声を揃えるかのように立ち上がってドアのほうへ向かう。

 

『本来なら、今日は市役所の予約で、転入生の家庭訪問の予定だったんだけど……』

黎花が扉に向かいながら説明する。

 

『こんなにたくさん来てくれるとは思ってなかったから、日程かぶっちゃったけど――』

 

連山が、真顔で言う。

『それでも今日このご恩、姬野家として、必ずお返しさせてもらうつもりだ』


『でもさ……』

遊人が、お椀を持ちながらぽつりと漏らす。

『開天斧とか、禁鞭とか――そのへん、あんま人に言わないほうが良くね?』

 

『っていうかさ、これニュースに出たら終わりなんだけど!』

 

『絶対こうなるぞ?「高校生、開天斧で黒人撃退!」……オレの人生、完全終了ッ!!』

 

その瞬間、カチャッと音を立てて、姬野連山が箸を置いた。

 

『もちろん、その“斧”の件については――』

 

『われわれは、なーんにも知らん』

 

『うちにはな、もう記憶も、背負うもんも、十分あるんじゃ』

 

『せめて……その時が来るまでくらいは』

 

『気楽に過ごさせてくれや』

 

そう言って、連山はふっと肩の力を抜き、少しだけ微笑んだ。

 

『……ははっ。まさかの“追及ゼロ”っスか、姬野パパ……』

遊人の頭から、冷や汗のしずくがぴょこん。

 

『意外すぎて泣ける……!』

 

『いやぁ、子どもたちのすることや。何も詮索しようとは思わんよ』

連山がのほほんと笑いながら、湯飲みに口をつける。

 

遊人と連山が顔を見合わせて――

 

『あははっ』

『はははっ』

 

ふたり、なぜか同時に笑い出す。

 

遊人(……ってオレ、なんで笑ってんだ!?)

 

『いや、ちょっと待てって!』

 

『姬野パパ、オレが変なムチで怪物ぶったたいてたの見て、なんも思わんの!?』

 

『それな!?』

陽翔も思わずガタッと椅子を引く。

『斧持って黒人とバトってんだぞ!?ツッコミどころ満載でしょ!!』

 

そんな中、慎之助はようやく動いた。

……ひとくち。

……ふたくち。

素雞を無言でばくばく食い始めた。

 

『最後に一言だけ言っとくか』

連山が、ふっと視線を落とし、隣の飛鳥ママをちらり。

 

『“斧”を持つ者も、“鞭”を振るう者も――』

 

『どうか、姬野家を失望させないでくれ』

 

『……さて、この話はここまでにしようか』

 

 

その「ここまでにしようか」が終わるか終わらないかのタイミングで――

 

ピンポーン☆

 

……チャイムが鳴った。

 

『ぶぉッ!?』

連山の持っていたスープが、ビチャっと跳ねた。

 

玄關に向かった姊妹の背後に――

いたのは、まさかの。

 

ティダ。

ブレイ。

そして、鈴木思科。

 

三人の身分証が、開いたドアの風にゆらりと揺れる。

 

【非常時特別対策本部・生活安全支援課/臨時派遣調査員】

ティダ・ウィンディ

【江雨区教育連携防衛局/第一担当官】

鈴木思科

【緊急避難措置・精神安定支援指導補佐】

ブレイ

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