表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/113

寝言エスパーと筋肉猿”の午後五時

「おめでとーッ!!明羽アニキ~~!

チョーかっこよかったんだけどォォ!!」

 

キラキラキラキラ〜〜〜(※黎花、目が完全に星)

≪表情タグ:崇拝/テンアゲ↑↑≫

 

バッ!!(※全力ダッシュ)

ツルッッ!(※剣道場で滑る寸前)頭上エフェクト:スライディング寸前アイコン(足元注意!)

 

「一撃で部長の座ゲットとか、

ラスボス攻略と何が違うんよ、それッ!?」

 

「いやいや、盛りすぎ〜」

 

ガシガシガシッ(←後頭部ワシャワシャ)

≪表情タグ:ドヤ笑顔≫

明羽あすはは超豪快に笑って、

 

「アタシ、そんなボス倒せる系じゃなくない?

……てか、元部長が弱すぎた説ない?」

 

ピコーン!(LINE通知音)

「このくだり、

絶対録画して姬野家のグルチャに送らなきゃ!」

 

遊人ゆうじんはスマホをスッと出し──

カシャッカシャッカシャ!

REC:ON(3方向同時マルチアングル)

≪頭上ステータス:実況中毒者≫

 

「……ていうか、もう送った。」

 

「送った!?

はやっ!!」

 

──そしてその頃。

 

慎之助しんのすけは。

 

ピタァ……(※時間が止まる音)

 

≪頭上タグ:SYSTEM ERROR≫

≪表情エフェクト:目が虚無、背景に砂嵐≫

≪魂ステータス:圏外/ただいまログアウト中≫

 

「……あの人、放課後までこのまま立ってそうじゃね?」

 

「ワンチャン、あり得る。」

 

ゴゴゴゴゴゴ……(←沈黙という名の圧)



「……あっっ!!」

 

パァンッ!(←額を叩く音)

 

後列の観客席で、遊人ゆうじんが突然ひとりで発光した。

 

「体……体検っ! あと、残りの“卦者”……仲間……!」

 

ワタワタとスマホをスワイプし、

急いで『銳金旗部隊』の共通チャットを開く。

 

──ピッ。

 

【遊人】:

《オレ、今 江雨高校にいる。今日が始業式だったみたい。

体検で似たあざ見つかった“卦者”、他に誰かいなかったっけ?》

 

……どうせ既読スルーだろ。

あの人たち、全員ケガ人か激務だし。

 

……と思ったら。

 

「ピコンッ!」

 

──一秒で既読&返信。

しかもティーダ姐さん。

 

ブワァァン!(←画面エフェクト)

 


画面に飛び出したのは、ティーダの超・誇張LINEスタンプ!

 

漫画風・大顔

口がギュィンと逆V、目が額に押し上がり、涙がミサイル噴射。

背景には札束とパイナップル缶がヒラヒラ舞うカオス画面!

 

下に書かれた文字は──

 

《《人がいないんじゃなくて、

運命のクソガチャで骨まで削られた結果です!!!》》

 

「ぷっ……!」

 

「舞ってんの、戦力じゃなくて……

賞味期限切れのパイナップル缶かよ。」

 

「今あるのは……カロリーと夢だけ。」

 

\ブシュン!/

二通目、即着弾。

 

──ブレイのスタンプだ。

 

Q版黒影剣士

チビキャラ化したブレイが、

デカすぎる剣を「ドガァン!」と地面に叩きつけ、

背後には終末の嵐と紅い雷が轟く!

 

《は?頼れるの、

寝言エスパー(=お前)と筋肉猿(=陽翔)だけ!?》

 

「ちょ、ブレイ兄ぃ……ノリすぎでしょ……!」

 

さらに、三連打。

 

──今度はシスコ。

 

シンプル人形スタイル

座敷に正座して、目が一本線の人形が

タチでスーッと……切腹。

 

腹からは……青いUSBケーブルがポトリ。

 

《技術班のオレも外したか……。

残りの5人、たぶん江雨にはいない。》

 

「ぐっ……」

 

笑いながらも、

遊人の胸には少しだけ、キュッと何かが刺さる感覚が残った。


──でも、いちばん目に刺さったのは。

 

チャット画面の上段、

ずらりと並ぶグレーのネームたち。

 

《99人が通知OFFでログアウト中》

 

かつての仲間たちのIDは、

いまや全員、グレースケール。

息の気配すら、もう感じられない。

 

遊人ゆうじんは静かにスマホを陽翔はるに差し出す。

 

「なあ、翔……ちょっと見てみ?」

 

「ん?」

 

陽翔がタップして、チャットを開いた瞬間──

 

「ブホッ!」

 

バチン!(スマホが手から滑り落ちそうになるSE)

 

「アッツ!?な、なにこの炎上フィールドみたいなチャットはァ!?」

 

スタンプ三連撃

画面から火柱が吹き上がってるようなインパクト!

 

陽翔はビクビクしながら指先を振って、

まるで実際に火傷でもしたかのような動きで叫んだ。

 

「ってか……ブレイ兄まで崩壊参戦って、

これ……マジで終わり近くね?」

 

「……フラグ立てるなって。」

 

遊人はふぅっと溜息をつき、スマホを閉じる。

 

そのまま、首を仰け反らせて体育館の天井を見上げた。

ボロボロの蛍光灯。チカチカして、頼りない光。

 

「……なあ。

 今、この場所に……

 まだ誰が残ってるんだろうな。」

 

 

一方その頃──ステージ上。

 

「ちょっとちょっとーッ!

  パパぁぁ聞いてーッ!!」

 

姬野明羽あすはがスマホを頬と肩で挟んで、

ステージから爆走ダッシュ!

 

≪表情タグ:SSR当たった人の顔≫

口元は太陽まで届きそう。

テンション、天井突破中!

 

「今日ね、あたし!

 正式に! 完全勝利ぃぃぃ!!」

 

「それでさ、陽翔くんと慎之助が

 ダンス部の百人くらい連れてきてさ!

 もうマジ超絶バフかかってたんだけどォォ!!」

 

「でさでさ! 黎花にも命一個借りた~って言われたし!

 なんかウチ、あの子に借金だらけだわww」

 

電話の向こうからは、

姬野連山れんざんの低くて朗らかな笑い声。

 

「そしたら今夜は感謝祭でも開くか。」

 

「YES!パパ最高ッ!!」

 

パチンッ!とスマホをたたみ──

 

「おいっ!今夜、パパがゴチるってよー!!」

 

「来なかったら……

 ウチのキッチン爆破してやっからなァァァ!!」

 

「そんでついでに、

 お前らも一緒に巻き込むから覚悟しとけぇぇぇ!!」

 

ドッカーン!(※爆破ポーズつき)

拳を突き上げ、

ドヤ顔で決めポーズ。まるで必殺技発動!

******

遊人ゆうじんは、まだLINEのスタンプを見ていた。

 

画面に映るのは──

ブレイのQ版アバター。

チビキャラがデカい剣をドンッと地面に叩きつけ、

背景には真っ赤な雷と終末風のエフェクト。

 

浮かび上がる文字は──

 

《は?頼れるの、寝言エスパーと筋肉猿だけ!?》

 

「はぁ……」

 

スマホをパタンと閉じて、

世界滅亡セミナー帰りみたいな顔になる遊人。

 

「なあ、陽翔はる……」

 

「ん?」

 

「……オレらさ、

 この世界、最初からログインできてなかったんじゃね?」

 

陽翔は水を飲みながら、黙って頷く。

 

「今さら気づいた?」

 

「ウチら、放置クラス組だし。」

 

「体育はほぼ脳死、試験は勘、

 人生最大の成功はコンビニの補充で怒られなかったこと。」

 

「それでさ──

 世界救ってこいって?」

 

「この脚本、芸人のフリップネタですか?」

 

「オレはただ……

 一生部屋にこもって、呼び出されない隠者になりたかっただけだよ……」

 

「人類滅亡のトレンドさえ、スルーしたい派なんですけど……」

 

──冷えた放課後の風の中、

二人は壁にもたれて座り込んだ。

 

空気が、一秒だけ黙った。

 

その横で──

 

慎之助しんのすけがそっと手を上げる。

 

「えっと……あの、今夜ご飯行くなら……

 オレも、行っていい?」

 

三人、目が合った。

 

陽翔がコクンと頷く。

 

「いいよ。連れてく。」

 

遊人はため息まじりに笑って、

 

「放置クラス革命──

 三人衆、ここに爆誕ってことで。」

 

 

そのときだった。

 

ずっとそばで黙っていた中川薰なかがわ かおるが、

ふっと口を開いた。

 

「……あ、今夜ちょっと依頼入ってて。」

 

コンビニの店内放送くらいのテンション。

 

「ごめん、ボクはパスで。

 みんな、楽しんできて。」

 

遊人が、ちょい首を傾ける。

 

「え、待って?

 いつから仕事してんの、君。」

 

薰は、くすっと笑った。

 

「受注制だよ。

 たまにね……

 “過去”を話したい人が来るんだ。」

 

その声はどこか他人事のようで。

まるで──夢の向こう側から届いてるみたいだった。

 

そして、去り際。

 

「……じゃ、ボクはこっちの“夜会”へ。」

 

そう呟いて、

中川薰の姿は、曲がり角の先へスッと消えていった。

 

 

──今夜、

彼を“呼んだ”のは……誰だ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくれてありがとう! Twitterでも活動中 → @kaoru0naka ご感想お待ちしています!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ