寝言エスパーと筋肉猿”の午後五時
「おめでとーッ!!明羽アニキ~~!
チョーかっこよかったんだけどォォ!!」
キラキラキラキラ〜〜〜(※黎花、目が完全に星)
≪表情タグ:崇拝/テンアゲ↑↑≫
バッ!!(※全力ダッシュ)
ツルッッ!(※剣道場で滑る寸前)頭上エフェクト:スライディング寸前アイコン(足元注意!)
「一撃で部長の座ゲットとか、
ラスボス攻略と何が違うんよ、それッ!?」
「いやいや、盛りすぎ〜」
ガシガシガシッ(←後頭部ワシャワシャ)
≪表情タグ:ドヤ笑顔≫
明羽は超豪快に笑って、
「アタシ、そんなボス倒せる系じゃなくない?
……てか、元部長が弱すぎた説ない?」
ピコーン!(LINE通知音)
「このくだり、
絶対録画して姬野家のグルチャに送らなきゃ!」
遊人はスマホをスッと出し──
カシャッカシャッカシャ!
REC:ON(3方向同時マルチアングル)
≪頭上ステータス:実況中毒者≫
「……ていうか、もう送った。」
「送った!?
はやっ!!」
──そしてその頃。
慎之助は。
ピタァ……(※時間が止まる音)
≪頭上タグ:SYSTEM ERROR≫
≪表情エフェクト:目が虚無、背景に砂嵐≫
≪魂ステータス:圏外/ただいまログアウト中≫
「……あの人、放課後までこのまま立ってそうじゃね?」
「ワンチャン、あり得る。」
ゴゴゴゴゴゴ……(←沈黙という名の圧)
「……あっっ!!」
パァンッ!(←額を叩く音)
後列の観客席で、遊人が突然ひとりで発光した。
「体……体検っ! あと、残りの“卦者”……仲間……!」
ワタワタとスマホをスワイプし、
急いで『銳金旗部隊』の共通チャットを開く。
──ピッ。
【遊人】:
《オレ、今 江雨高校にいる。今日が始業式だったみたい。
体検で似た痣見つかった“卦者”、他に誰かいなかったっけ?》
……どうせ既読スルーだろ。
あの人たち、全員ケガ人か激務だし。
……と思ったら。
「ピコンッ!」
──一秒で既読&返信。
しかもティーダ姐さん。
ブワァァン!(←画面エフェクト)
画面に飛び出したのは、ティーダの超・誇張LINEスタンプ!
漫画風・大顔
口がギュィンと逆V、目が額に押し上がり、涙がミサイル噴射。
背景には札束とパイナップル缶がヒラヒラ舞うカオス画面!
下に書かれた文字は──
《《人がいないんじゃなくて、
運命のクソガチャで骨まで削られた結果です!!!》》
「ぷっ……!」
「舞ってんの、戦力じゃなくて……
賞味期限切れのパイナップル缶かよ。」
「今あるのは……カロリーと夢だけ。」
\ブシュン!/
二通目、即着弾。
──ブレイのスタンプだ。
Q版黒影剣士
チビキャラ化したブレイが、
デカすぎる剣を「ドガァン!」と地面に叩きつけ、
背後には終末の嵐と紅い雷が轟く!
《は?頼れるの、
寝言エスパー(=お前)と筋肉猿(=陽翔)だけ!?》
「ちょ、ブレイ兄ぃ……ノリすぎでしょ……!」
さらに、三連打。
──今度はシスコ。
シンプル人形スタイル
座敷に正座して、目が一本線の人形が
タチでスーッと……切腹。
腹からは……青いUSBケーブルがポトリ。
《技術班のオレも外したか……。
残りの5人、たぶん江雨にはいない。》
「ぐっ……」
笑いながらも、
遊人の胸には少しだけ、キュッと何かが刺さる感覚が残った。
──でも、いちばん目に刺さったのは。
チャット画面の上段、
ずらりと並ぶグレーのネームたち。
《99人が通知OFFでログアウト中》
かつての仲間たちのIDは、
いまや全員、グレースケール。
息の気配すら、もう感じられない。
遊人は静かにスマホを陽翔に差し出す。
「なあ、翔……ちょっと見てみ?」
「ん?」
陽翔がタップして、チャットを開いた瞬間──
「ブホッ!」
バチン!(スマホが手から滑り落ちそうになるSE)
「アッツ!?な、なにこの炎上フィールドみたいなチャットはァ!?」
スタンプ三連撃
画面から火柱が吹き上がってるようなインパクト!
陽翔はビクビクしながら指先を振って、
まるで実際に火傷でもしたかのような動きで叫んだ。
「ってか……ブレイ兄まで崩壊参戦って、
これ……マジで終わり近くね?」
「……フラグ立てるなって。」
遊人はふぅっと溜息をつき、スマホを閉じる。
そのまま、首を仰け反らせて体育館の天井を見上げた。
ボロボロの蛍光灯。チカチカして、頼りない光。
「……なあ。
今、この場所に……
まだ誰が残ってるんだろうな。」
一方その頃──ステージ上。
「ちょっとちょっとーッ!
パパぁぁ聞いてーッ!!」
姬野明羽がスマホを頬と肩で挟んで、
ステージから爆走ダッシュ!
≪表情タグ:SSR当たった人の顔≫
口元は太陽まで届きそう。
テンション、天井突破中!
「今日ね、あたし!
正式に! 完全勝利ぃぃぃ!!」
「それでさ、陽翔くんと慎之助が
ダンス部の百人くらい連れてきてさ!
もうマジ超絶バフかかってたんだけどォォ!!」
「でさでさ! 黎花にも命一個借りた~って言われたし!
なんかウチ、あの子に借金だらけだわww」
電話の向こうからは、
姬野連山の低くて朗らかな笑い声。
「そしたら今夜は感謝祭でも開くか。」
「YES!パパ最高ッ!!」
パチンッ!とスマホをたたみ──
「おいっ!今夜、パパがゴチるってよー!!」
「来なかったら……
ウチのキッチン爆破してやっからなァァァ!!」
「そんでついでに、
お前らも一緒に巻き込むから覚悟しとけぇぇぇ!!」
ドッカーン!(※爆破ポーズつき)
拳を突き上げ、
ドヤ顔で決めポーズ。まるで必殺技発動!
******
遊人は、まだLINEのスタンプを見ていた。
画面に映るのは──
ブレイのQ版アバター。
チビキャラがデカい剣をドンッと地面に叩きつけ、
背景には真っ赤な雷と終末風のエフェクト。
浮かび上がる文字は──
《は?頼れるの、寝言エスパーと筋肉猿だけ!?》
「はぁ……」
スマホをパタンと閉じて、
世界滅亡セミナー帰りみたいな顔になる遊人。
「なあ、陽翔……」
「ん?」
「……オレらさ、
この世界、最初からログインできてなかったんじゃね?」
陽翔は水を飲みながら、黙って頷く。
「今さら気づいた?」
「ウチら、放置クラス組だし。」
「体育はほぼ脳死、試験は勘、
人生最大の成功はコンビニの補充で怒られなかったこと。」
「それでさ──
世界救ってこいって?」
「この脚本、芸人のフリップネタですか?」
「オレはただ……
一生部屋にこもって、呼び出されない隠者になりたかっただけだよ……」
「人類滅亡のトレンドさえ、スルーしたい派なんですけど……」
──冷えた放課後の風の中、
二人は壁にもたれて座り込んだ。
空気が、一秒だけ黙った。
その横で──
慎之助がそっと手を上げる。
「えっと……あの、今夜ご飯行くなら……
オレも、行っていい?」
三人、目が合った。
陽翔がコクンと頷く。
「いいよ。連れてく。」
遊人はため息まじりに笑って、
「放置クラス革命──
三人衆、ここに爆誕ってことで。」
そのときだった。
ずっとそばで黙っていた中川薰が、
ふっと口を開いた。
「……あ、今夜ちょっと依頼入ってて。」
コンビニの店内放送くらいのテンション。
「ごめん、ボクはパスで。
みんな、楽しんできて。」
遊人が、ちょい首を傾ける。
「え、待って?
いつから仕事してんの、君。」
薰は、くすっと笑った。
「受注制だよ。
たまにね……
“過去”を話したい人が来るんだ。」
その声はどこか他人事のようで。
まるで──夢の向こう側から届いてるみたいだった。
そして、去り際。
「……じゃ、ボクはこっちの“夜会”へ。」
そう呟いて、
中川薰の姿は、曲がり角の先へスッと消えていった。
──今夜、
彼を“呼んだ”のは……誰だ?




