傳說的舞姬、爆音一擊、社死未遂(でも味方はいた)
結菜(心の声):
(あの……慎之助先輩のあの連続口撃……完全にラップバトル現場だったよね……)
(てか、あの旗のビジュアル暴力、視覚汚染レベル……上限突破してたし!)
(――って、あれ? あっち……なんか始まってない!?)
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【グラウンド中央・フラッシュダンス開始】
「ん? なんか始まってる……っぽくない?」
「たぶん、ダンス部のオープニングステージじゃない?」
「佐藤陽葵が棟長になってから、毎回始業式のあとにやってるし。」
「これ、もう陵光棟の“恒例オープニングアクト”って感じだよね。」
「三年連続で棟長もダンス部の部長もキープしてんの、
もう“江雨の顔”って言ってもバレないやろ。」
「うんうん、聞いたことあるよ。
ダンス部の“座右の銘”みたいなやつでしょ……」
「えっと……記事メモによると、ダンス部の社訓はこれ——」
「歌えるなら、語らない。
踊れるなら、止まらない。
ダンスは自分、魂のままに。
跳ねるたびに、風を巻け!」
「……わ、ラップみたいに語感よすぎて……ちょ、ちょっとカッコよ……!」
遊人がノートを取り出した。
陽翔が笑いながら、ポツリと言った。
「フフ、そりゃそうだろ。
始業式サボっても……
オレ、毎年これだけは観て帰るからな。
陵光棟の開幕ダンス。」
「この3年間ずっと佐藤学妹がセンターやしな。卒業生も戻ってくるぐらいの伝説やで。」
(慎之助スマホで撮りながら)
「学校のSNSで告知されてたよ。今日の演目、アイドルのRemix版だって〜!」
結菜(心の声):
(あれは……執明棟とか孟彰棟向けの“ザ・真面目始業式”。)
「スーツの先生が、制服の生徒に説教する時間でしょ。」
(でも陵光棟は、芝生で、カバン投げて、
制服脱いで……フラッシュ着替えして踊るのが、始業式なの!)
——ドン、ドン、ドンッ!(節奏入場)
(Cポジに佐藤陽葵。左右に学妹2人ずつ、三角フォーメーション——)
(蛇みたいにしなる腕に、ウエストのぐにゃぐにゃ腰振り……)
結菜(內心)
(あれ絶対“骨盤ダンス”ってやつ!)
遊人が、目を見開いて叫んだ。
「しゃがんで、手ひらき!
いや、あの腰の動き……スマホの画面、爆発しそうなんだけど!?」
「ちょ、ちょっと待って!?
あれ佐藤陽葵じゃね!?」
結菜が、目を丸くして叫ぶ。
「ちょ、ちょ、ちょっと!?
あの子……またセンター陣取ってるし!?
てか、あのオーラ、生徒会長クラスじゃん!!」
(陽葵左手ひと振りで、シルバーの薄布ショート衣装を着た学妹たち25人、ザッと入場!)
30人の美少女、ドッと爆踊り突入ッッ!!
「キレ良すぎてロボットかと思った……けど全員キャラ立ってる!」
——ベースドロップ!《アイドル》Remix副歌の前奏開始!
(陽葵右手で合図、今度は学弟25人が右からドーン!
ノースリーブにシルバーパンツ、筋肉バッキバキ!)
(ヒップホップ系のノリで、リズム爆乗り!)
遊人がテンション高く指さした。
「なんかYouTubeで再生回数一千万超えてるグループみたいじゃん!
って、副歌来た副歌来たーっ!」
「ドンツ!ドンツ!」
(ズンズン!ズンズン! グラウンド横のウーファー爆音祭り!)
(ビートの波、海みたいに押し寄せてくる!)
BREAKパート・空間操作!
(陽葵が右手を高く上げて……ブンッ!)
(全員でWave、そしてスローモーションへ!)
(パッ!パッ!パッ! みんなのステップが完全に拍を取ってる!)
(羽みたいに舞って……一歩ずれるだけで、ビートが変わった!?)
_
「回った!」
(ターン、しゃがみ、手ひらき——
すべてが、音にピッタリ!まるでリズムに句読点入れてくみたい!)
(髪が頬に張りついて、肩のラインにキレ……まるで風を斬る羽の刃。)
(音はないのに、めっちゃ鋭い!)
結菜(心の声):
(……これが“江雨の顔”。佐藤陽葵学姉……!)
——ベースドロップ!
彼らはそれぞれ呼応して、ポジションを補って、動きを延ばして……
まるで、群れで斜めに飛ぶ鳥みたいだった。
遊人は、ちらっと慎之助を見た。
「チッ……この人たち、マジで分かってるな……全員カメラ意識完璧じゃん。」
「なあ慎之助、今のちゃんと撮ってたよな!?」
「当然や。さっきからリアルタイムで編集かけとったし。」
(タグも即追加済みや。#江雨ソウル爆誕、#陽葵ガチ場支配、#このダンスで沼った)
遊人が舌打ちしながら、ぽつりと言った。
「チッ……この人たち、マジで分かってるな……
全員カメラ意識完璧じゃん。」
くいっと隣を向いて——
「なあ慎之助、今のちゃんと撮ってたよな!?」
慎之助がスマホをいじりながら、当然のように答えた。
「当然や。
さっきからリアルタイムで編集かけとったし。」
(タグも即追加済みや。
#江雨ソウル爆誕
#陽葵ガチ場支配
#このダンスで沼った)
遊人の声がさらに高まる。
「もはやMVの撮影現場やろこれ!」
「副歌終わったあとのとこ……
あれ、泣きそうになったって……!」
観客が一瞬、間を置いて――
そのあと、爆発みたいに拍手が巻き起こる。
わかる人には、わかる。
……そういう“玄人ノリ”だった。
——タッ、タッ、タ……ン……
(拍子がゆっくり沈んでく……)
ダンス陣形が、陽葵のアクションと共にすっと引いて、波のように後方へと消えていく。
グラウンドの真ん中に、一瞬の空白。
残ってるのは、観客の息づかいと……スマホのシャッター音だけ。
四方八方から、歓声が炸裂した!
「ちょ、あの人たち……ダンスで大学受かる気じゃね?」
「さっきの床ターンからの電波ハンド……神業やん!」
「インスタ、もうバズってるし!#陵光レッド軍団で検索しよ!」
陽葵がくるっと振り返って、右手を地面につけて、左手で空気を押す――
その動きは、見せつけじゃなくて……誘ってるみたいだった。
「ちょっとでも音があれば……この子たちのダンス、視界ぜんぶ持ってっちゃうよね。」
「これが陵光棟の“場のチカラ”なんだよ〜!」
「新入生たちがスマホ掲げてるだけで、もう宣伝になってるもん。」
「そりゃ、ダンス部が人手に困るわけないって。」
「先輩っ!ダンス部、入りたいですっ!!」
大量の新入女子、わらわらと舞陣の中央へなだれ込んでいく。
中にはもうキラキラ光ってる子もチラホラ。
ビジュも動きもすでに完成度ヤバい。
……ほんと、後輩ナメたらアカン。
一方、群れとは逆に――
陽葵が自分の長〜いバッグを、すっと背中に戻す。
そして……彼女は、観客席の外れにいた遊人たちの方へと、歩き出した――。
「……まだ立ってんの?
あんたらも、踊れるんじゃなかったっけ?」
遊人が、影から飛び出すように叫んだ。
「え、なにそのロックオン!?
今、影に隠れてたハズなんだけど!?
ねえ!?」
結菜(內心)
(先輩の視線……GPS搭載してる説ある)
(……うん、ごめん。ちょっと心臓、スキップした)
陽葵が、額の汗をぬぐいながら声をかける。
「今年のオープニング、どうだった?
結菜、大丈夫そう?」
風に乗って、ふわっと髪の香りが流れてきた。
「あはっ……ははっ!? な、なにこの……破壞力?」
「え、ビビらせないでよっ!?」
(※慎之助に不意打ちくらってリアルビビり)
「その子、詩社のマスコットなの?
てか、その旗! なんか“桃太郎パーティ”思い出したんだけど!?」
陽葵が、腹を抱えて吹き出した。
「ちょ、腹筋やばいんだけど!」
しゃがみ込みそうな勢いで、口元を押さえて笑いが止まらない。
詩社のメンバーたちも、もう見ていられないほど。
涙まで浮かべて、陽葵は本気で崩れ落ちそうだった。
遊人が、片手を上げて申し出る。
「違うんすよ。今日だけ、ウチの部員じゃないっす。」
「弁明させていただきます。」
陽葵が笑いをこらえながら、さらに追撃を入れる。
「このままやと、江雨詩社、田中學長のせいで“お笑い集団”に認定されちゃうよ!?」
「ぷっ……あかん、腹痛い……!」
そして、ふいに結菜の方を向いた。
「でも、結菜、大丈夫そう?」
中川薰が、慌てて話題をそらすように言った。
「結菜は……元気だよっ!」
「うん、全然大丈夫っ!」
薰がちょっと笑いながら、結菜をチラ見して言った。
「でも残念だったなー。
詩社の宣伝写真、撮る前に猫になっちゃってさー」
遊人が肩をすくめて、笑い混じりに返す。
「今撮ったら、“ペット部”に分類されるわ、それ」
薰がにっこりしながら、さらに追撃。
「そうだよー?
遊人はもう、彼女のペットってことで♪」
陽葵が吹き出して、ケラケラと笑う。
「大丈夫だって〜。
もう“猫モデルの専属お世話係”ってことで!」
遊人が、少し不思議そうに問いかける。
「え、陽葵学妹ってもう行くの?
ダンス部の後片付けとかは……?」
陽葵が手をヒラヒラ振って、ゆるく笑った。
「んー、今日はいいかな。
三年になったら、別の方向に行こうと思っててさ」
「後輩たちは、“兼部でアドバイザーして”って言ってくるけど……
今はね、軽音部に集中しようと思ってる」
薰がそっと声をかける。
「もしかして……“深海白紅”のこと?」
陽葵が、えへへと笑いながら頷いた。
「そーそー。
工藤白のバンド、メンバーのひとりが……九官鳥になっちゃって」
「それでね、思い切って“ダブルボーカル制”にシフトしようかと。
夏のオーシャンフェス、本気で狙うなら、今しかないし!」
遊人が、ちょっと驚いたように言う。
「ってことは……
後輩、ボーカル路線行くのか?」
陽葵は、左目をつぶって、舌をちょこんと出しながら――
顔の前で、両手をぴたっと合わせて、
「てへぺろポーズ」で答えた。
「実は……けっこうチャレンジかも」
そう言いながら――
みんなで陽葵のあとをついて、グラウンドの反対側へ。
そこには、こぢんまりした軽音部のステージ。
部員は少ないけど、注目度はバチバチに高い。
後任ボーカル・工藤白は、去年の音楽祭で準優勝した実力者。
彼を目当てに、江雨の女子ファンたちが周囲に集まりだしてた。
陽葵が、ちょっと照れくさそうに笑いながらつぶやく。
「うちの彼氏、工藤白ってさ……
去年の音楽祭で準優勝したんだよね」
「だから、江雨のファンの子たちも……
リハのときから結構、周りに集まってくれててさ〜」
結菜(內心)
(……なにかが、地下から……湧いてくる感じ)
——ギュイイィィン……(チューニングの音)
「ちょ、なんか音した?今の……チューニング音?」
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「えっ、軽音部!?
“深海白紅”……ついに登場きたー!!」
グラウンドの脇に、ゆっくりとスピーカー付きの台車が運ばれてくる。
赤と白の手描きバナーが、風にバサッと開いた。
【深海白紅 Shinkai Crimson-B】——登場。
中央に立つのは、サングラスにギターを抱えた少年。
動きは控えめ。でも……そこにいるだけで、線が引かれるような存在感。
結菜(內心)
(……あの人……あれが――)
「工藤白っ!?」
遊人が思わず叫ぶと――
「フフ……いよいよ、だね」
汗を拭きながら、陽葵がぽそっと笑って言った。
(ギターカウント、3、2、1……)
――ジャアアアン……!!
最初のコードは、冬の星空みたいに澄みきってた。
中央に立つ少年――工藤白が、静かにギターを鳴らす。
目を閉じ、低く、穏やかに……歌が始まる。
「(♪……願いは ただ一つ)」
そして――
陽葵がマイクを高く振り上げ、全力で叫んだ。
「(♪あいっしてぇぇぇ〜〜〜〜〜っッッ!!)」
【……爆☆走】
「……え?」
「……え???」
「ごほっ!? ごほごほごほっ!!!」
遊人がむせるレベルで咳き込んだ。
(音程っ!? 今、軌道逸脱したよね!?)
結菜の頭の中に、爆音で警報が鳴り響く。
高音が……ノーハンドで坂道突っ込んで、
曲がって、ズザザって……次元の壁、突破してた。
ステージの中央――
工藤白の目尻が、ピクッとわずかに動いた。
(ギター伴奏:努力不崩潰中)
(伴奏のギター、がんばって耐えてる)
そして――
観客席のどこかから、ぷっと笑いが漏れた。
「さっきまであんなにカッコよかったのに……!」
「ギャップえぐっ!!」
「陽葵先輩……“陽葵”であって、“音葵”じゃないってことね!」
「えっ!? さっきのダンス、あんなに神だったのに……!?」
「ギャップ強すぎん!?
歌い出したらBGM降ってくる系女子だと思ってたのにっ!」
「さすが陽葵先輩……!
“陽葵”な! “音葵”じゃねぇから!! 音ズレてんのよ!」
「なるほどな……才能ポイント、全部“ダンス”に振ってる。
“ボーカル”は初期値のままだったのか……」
「……今の、録っといた。
黒歴史フォルダに保存しとく?」
「……続けて。」
「あはは……ごめんごめん。もう一回行きまーす!」
――ギター、再びイン。
今度は……小さく、控えめに。
さっきの“爆音告白”は幻だったかのように。
(……うん。ゆっくり、ね)
(あの“爆踊り”しながらステージで歌う勇者、
この学校に陽葵先輩しかおらんわ)
(てか、あの“あいしてぇぇぇ”は絶対着信音にされるわ……)
(絶対今夜、IGにネタ動画増えるぞ……)
#陽葵の愛爆走
#音速突破女神
「無理! 軽音部入るわ!!
たのしすぎてムリィィ!」
(まさかの、歌唱事故で勧誘成功!?)
(これが噂の……黒歴史マーケティング……?)
陽葵はマイクをギュッと握って、ステージ中央でぺこりと頭を下げる。
「うぅ……ありがと〜〜……」
「さっきのアレは……テンションがちょっと……HIGHすぎて……!」
「メインボーカルは白先輩です〜〜〜私はオマケでーす☆」
白が静かに振り向いて、ひと言。
「……情熱的な援護、どうも」
――ここは、もう舞台じゃない。
でも、詩社のメンバーだけは、まだその場を動かなかった。
「……音、ズレてたよね」
「全校、聞いちゃったけど」
「ウチの部活、迷言素材でバズりそう……」
耳マイクを外すその瞬間。
わたしは、ほんのちょっとだけ笑った。
笑った、っていうか……
なんか、誤魔化したくなっただけ。
「……リズム、合わせたハズなのに……」
ゆっくりと、ひとりで芝生を降りる。
誰も呼び止めてこない。
誰も、近づいてこない。
――彼ら以外は。
「……来てる」
「詩社の人たち、また来てる」
「励ましに来た顔じゃないな……」
「どっちかっていうと……迎えに来た感じ?」
「……先輩」
「水」
「……飲む?」
顔を上げずに、手だけ伸ばして、そのボトルを受け取った。
冷たさと一緒に、懐かしい声が伝わってくる。
……ここはステージじゃない。
でも、あの人たちは――
まだ、そこに立っていた。
「ご、ごめん……。
オーラ弱すぎるけど……
あたし、めっちゃ頑張ったんだよ……」
陽葵が、しょんぼり肩を落とす。
その姿が、切ないほどに真っ直ぐだった。
「にゃぉ……」
――最初に声を漏らしたのは、まさかの結菜だった。
逆にそれが、周囲の沈黙をえぐってくる。
陽葵が横目で見る。
ファンの女子たちに囲まれてる工藤白。
あのキラキラと、こちらのボロボロ。
その対比が痛いほどリアルで――
「でもでも! マジで上手だったってば!」
中川薰が、空気を変えるように手を叩いた。
「最初から完璧な人なんていないしさっ。
気にすんなってば、うん!」
「いやほんまに……ウチらなんか、
音痴のプロやで?」
慎之助が腹を撫でながらニッと笑う。
「ビジュアル勝負されたら、
うちら秒で終了やん? 秒で!」
「……優しいなぁ、桃太郎……
じゃなかった、慎之助くん……ありがとう」
陽葵がぽつりと呟く。
さっきまで自分の顔のことでからかわれてたのに、
それでも笑ってくれる彼に――
思わず、胸の奥がチクリと痛んだ。
この三人と、ずっと一緒にいられたのは、
やっぱり彼の優しさがあったから。
あたし、歌で挫折しなかったら――
きっと、気づけなかったかもしれない。
彼の、ほんとの温かさに。




