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我らが田中、笑いの勇者なり

──その時だった。

部室の空気が、一瞬だけ静まり返る。

けど──その直前、結菜の耳がぴくっと動いた。

(ん?……なんか来た?)


ダルそうに振り返った結菜の視界に入ってきたのは、

ガラス越しに“ゆらゆら”動く、異様なシルエット。

(……またアイツか)

(しかも、また今日もアレ着てるっぽい……)


白いハチマキに黄色×黒のタンクトップ(明らかに小さめ)姿の慎之助が、

剣道着の下半身に合わせた奇妙なコーデで登場。


腹は完全に露出、白い応援旗をブンブン振っている。


応援旗には赤い文字で:『姫野流☆剣道館 百戦百勝ッ!』


右下には緑色で小さく『田中家青果店 協賛』とあり、

オマケに高麗菜のゆるキャラステッカーまで貼ってある。


「お願いだからさ……応援はしてもいいけど、

できれば“知り合いじゃない”って体でお願いしたい」


「それ応援旗っていうより、八百屋の広告じゃん。

てか今どき、ネオンライト足りてないの? 材料屋紹介しよか?」


「今日は“部長選抜試合”だよ? 剣道部だよ??

これ、風俗選抜オーディションじゃないからな?」


「姬野明羽が剣道部の先輩たちを倒す前に、まずお前が始末される説あるわ」


「や〜め〜て〜! オレ、今日の応援団長なんだしっ!」

「だからこそ、なおさら距離置かせて……」

遊人と結菜は無言でその場を離れた。


「せめてその派手派手大旗、部室の玄関にかざさないで……!」

「今日だけ、他人のフリで通させてもらうわ」


「お前らさぁ! 忘れてないよな!? 血の月の晩——オレがひとりで、

黒いブッチャーからお前ら救った件!!」


「いや逆に、オレらが耐えたから、お前が食べられなかっただけでは?」

「っていうかお前、明らかに“食べごたえ満点”だし……

あいつら(ゾンビ)、たぶんクマの群れ並みに満腹になるぞ」

「それな! お前ひとりを差し出すだけで全員生還とか、逆にありがたいやつ」


「お前の言う“一夫当関”って、まさか“肉壁で犠牲になるやつ”の意味だったとはな〜」

薰は毛糸棒で木魚のマネをしながら、経を唱えるふり。

「最後は、肉身菩薩が泥の菩薩に成り果て……自分すら救えない……」


陽翔が大きく欠伸をして一言。

「ありがとよ、泥菩薩センパイ」

「“言うだけは天下無双、行動力ゼロ”っていうありがたいお言葉、

いただきました〜」



薰は髪をさっとかき上げて、締めの一言——

「アーメン☆」

_

「うぉいぃぃ、いつかぜってー分かるからな!

オレが詩社のためにどれだけ貢献してるか!!」



その瞬間、『田中家青果店 協賛』の緑文字がペロッと剥がれ落ちた——



結菜(心の声):


(ってか……女子目線で言わせてもらうけどさ)


(その“協賛”の緑字、マジでビジュぶち壊してんのよ)


(慎之助、頼むから……剣道部の誰かに中場で連行されませんように……)

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