始業式バトルロイヤル☆剣道部の姫野明羽、部長のイスをぶん獲れッ!?
(朝の靄が晴れて、江雨高校にまた陽射しが戻ってきた——)
【スマホのアラームが鳴る。画面に表示されるリマインダー】
〈ピピッ!「剣道部・姫野明羽の応援。部長決定戦 8:30AM」〉
【部室の机に座る中川薰。編みかけの毛糸を手に持ったまま、ふと手を止める】
「もうすぐ陽翔が迎えに来て、応援行く時間ね……」
「昨夜、衫山藍の前じゃ怖くて占えなかったテーマ、今のうちに占っておこ」
「人類の運命とか……?」
【中川が目を閉じてタロットを挟むカット】
中川は手を合わせて、タロットの束をそっと挟んだまま目を閉じる。
——パシッ!
【机の上に落ちたタロットカードのアップ】
一枚のアルカナが、ぱたんと机に落ちた。
【肩をすくめて笑う中川】
「……『愚者』、か」
【カードの絵柄イメージ、細い板を跳ねて渡るパッカーン頭の人形】
(どこまでも深いクレーター。その上に足ふたつ分の幅しかない木の板……)
(その上を、頭パッカーンな笑顔の人形が跳ねながら、後ろの人にこう言ってた——)
『ハハッ、大丈夫大丈夫☆ 落ちてないし!』
「……チッ、皮肉すぎるっての……」
——と思った瞬間。
【部室のガラス扉が豪快に開く】
ガラララッ!!
「先輩、職業病かよ! 朝っぱらから占いとか!」
始業式の日、テンション高めの遊人が部室に飛び込んできた。
「ルーティンワークよ、ルーティン」
中川はタロットを黒いもふもふポーチに放り込み、毛糸を手に取りながらあくび。
「あ〜〜〜眠っ……」
「先輩、まさか徹夜?」
「……“クライアント”が多くてね」
「クライアント多いってマジで!? それ、風紀委員長が陽翔を“模範生”って呼ぶレベルじゃん! もしくは、国語の先生がオレのラノベを校報に載せようとするノリ!!」
「はいはい(棒読み)、じゃあ早くその“名作”(苦笑)を書き上げて、江雨中にご披露でもしてみたら?」
「書けないのはさ、師匠が微妙だから、弟子も微妙になるっていう、あれだよね〜」
(今日の薰先輩、眠気でデバフ中……! 今こそ口撃勝負、勝てる気しかしないッ!)
「いや、君の能力がアレなのは認めるけどさ」
「でも、それあたしのせいにされても困るのよね〜」
「……自分の実の父親にすら聞けないとか、マジで情けなさすぎ」
「そんなチキン弟子に、どんな神レベルの師匠がいても、才能のムダ遣いってヤツよ」
「うっそでしょ!? オレはただ、タイミング待ってるだけだし! ティーダ先生がそのうち教えてくれるって信じてるから!」
「知る勇気がないだけじゃない? 哀れねぇ〜〜〜」
「いや〜、もし相手が国家レベルの大物だったら、逆にみんながビビるでしょ!?」
「あの子を彼女だって、認める気ないんだろ?」
「結菜のこと、ちゃんと認めてやれよな」
「そんなビビリ野郎が、親父に認めてもらえるワケないでしょーが!」
「先輩……朝っぱらから刃の斬れ味エグすぎっス……」
中川は頬杖ついて、うっとり顔でこっちを見つめてくる。
キラッキラな目で——
(えっ……こっちはまだLv.1なんですけど!?)
「そんなのも聞けないの? マジで情けな……」
——こうして、始業式の朝は、口撃から幕を開けた。
◆ ◆ ◆
【部室の扉が再び開く。陽翔が入ってくる】
「先輩、今日は珍しく見に来てくれたんですね。始業式のあと、応援団にも参加します?」
「おや、学弟くん! 今日は学校中が“健康診断モード”なんじゃないの? もう出てきたの?」
「ハハ! なにそれ。そもそもオレと遊人は検査なんて受けてないし」
「ほぉ〜、それって……すでに“卒業生扱い”されてるってこと?」
「ちゃうちゃう。文科省が共テ(大学入試)止めたからさ。
みんな今は“卒業生”って扱いじゃないんだよね」
「で? じゃあ、なんであんたら二人は『健康診断』スルー?」
「表向きにはさ、『始業式と一緒に実施して効率化』って言ってたけど——」
「実際は、ティーダたちが“卦者”探すための仕掛けって話」
「だから、オレと遊人は対象外ってワケ」
「なるほどね〜。昨夜の件は慎之助からスマホで聞いたよ。ざっくりだけど。
ざっくり……ざっくりとね〜」
「……『健康診断』で“卦者”見つかるって、ホント?」
「まあ、オレと遊人、二人ともコレ——胎記、あるからさ」
「へぇ〜。でもさ、自分の幼なじみにそんなのあるのに、気づかないんだ?」
「そ、そんなの! わざわざ頭頂部見る機会なんて、あるワケないでしょ!?」
「アハハ!」
「ちなみに、ブレイ先輩が言ってたんだけど——」
「今回、遠赤外線カメラまで仕込んでたらしいよ?」
「そんなヤバい機材あったの!? 聞いてないんだけど〜〜!」
「思科曰く、あの胎記、微妙〜に熱を発してるんだって」
「へぇ〜。でも、それだけで特定できるの? 正直、アヤしくない?」
「てか……オレらと同じ胎記、あと六人もいるんだろ? めちゃ複雑じゃん」
「アハハハ、それな〜!
でもさ、遊人みたいな奴が“世界を守る”とか、
聞いただけで疲れちゃうよね〜」
「は〜〜〜……もういいよ、なんか、情報多すぎだし……」
「で、陽翔くんは大丈夫なの?」
「オレ? まあ……まだ慣れないけどさ。朝陽と大翔を放っとくわけにもいかないし」
「つーか、ここもあいつらの“世界”なんだよね」
「ふふっ、某・無責任ヒーローくんより、よっぽど良心あるじゃん」
「オレだって良心あるし! だからこそ、結菜を載せて世界を守ってるワケよ」
「しかも、まだ報酬もらってないし!」
「ハハハ! マジで変わってないな、あんた!」
「オレも変わってないし? てか、昨日の夜はマジ楽しかった!」
「なんか、久々に“やったった感”あったわ〜」
「……で、次にもっとヤバい展開来るとか、ちっとも考えてないんでしょ?」
「昔っから、陽翔ってそういうとこあるよね〜」
「陽翔くん、いつも“今”を生きてるタイプだもん」
「はぁ〜〜……“世界を守る”とか、聞いただけで眠くなる〜」
「やっぱ先輩みたいにヒマそうなのが一番!」
「ホント、卒業しても全然変わってないよね〜」
「ダルそうな雰囲気とか、まんま」
「って、オイ。ヒマとか言うな。
オレ、ちゃんと遊人のためにセーター編んでるし!」
「ほら、先輩ってば気が利く〜」
「だって、結菜から頼まれてたし」
【中川が箱の上で寝てた小雪を抱き上げる】
「結菜? えっ、ネコって喋れるの? 遊人、聞いたことないんだけど」
「……一応、聞いたことあるよ……」
「このへんの“動物化現象”、けっこう個体差あるらしいよ。
至近距離の身内だけ声が届くとか」
「結菜は昔からあんな感じ。
ベタベタしてて、甘〜い声でさ〜」
「すごっ。先輩って、遊人以外で唯一“小雪の声”聞ける人なんじゃん」
「陽翔くんも、自分の大事な子……探しに行くべきじゃない?」
「先輩、それポエム? 歌詞? それともギャグ? いや、ぜんぶか(笑)」
「昨日、慎之助が言ってたよ?」
「お前と孟彰楼の姫野黎花、なんか運命っぽくね?”って」
「いやいやいや、監兵楼と孟彰楼って……そもそも派閥違うし!」
「で、本音ではさ。どっちの応援に行きたいの?」
「姫野羽明……」
「それ、誰のお姉ちゃん?」
「姫野黎花……」
「で、昨日あの黒いヤバモンスターにボコられた後——
誰が“応援よろしくね☆”とか言ってたっけ?」
「姫野黎花……」
「で、姉か妹、どっちがタイプなの〜? ニヤニヤ」
「姫野黎花……って、いやいやいや先輩、それは話の流れおかしすぎるでしょ!!」
(……ツッコミ追いつかねぇ……)
「名前三連続で答えたら、それもう脳内ロックオン確定じゃん」
「ってかさ、“好きじゃない”とか言っといて、
紙に名前書いて隠してたの、ティーダから聞いたぞ?」
「それ、全然うまく隠せてないし! ダサっ!」
「……さっきの発言、撤回させてもらいます」
(黒歴史、ティーダに全部バラされた……マジチクり魔すぎん?)




