巨人は二度甦る?でもこっちの斧は、二回転するぞ!
風に混じって、誰かの呪文のささやきが聞こえた——
その瞬間、ヒュオオオオ……と不気味な風が吹き荒れた。
「……は?」
「……ウソだろ?」
「おいおいおい、マジかよ……」
遊人、陽翔、ブレイの三人が同時にフリーズした。
バラバラにして焼き尽くしたはずの死体のパーツたちが……
フワアアッと空中に浮き上がり、
ガチャン!カキン!ガコン!と変形ロボみたいに自動でドッキング開始!
最後には——
ドンッ!!
二階建てレベルの、ゾンビヴォルデモート風キメラモンスターが完成していた!
「誓って言う……! さっき俺、アイツらをたこ焼きのかつお節レベルにスライスしたんだが!?」
陽翔の額から、汗がツーッ……。
ブレイはというと——
若者二人の混乱などどこ吹く風。
無言でしゃがみこむと、肩から提げた白いロングバッグから、
次々と試験管を取り出していた。
その表情は、いつも通りの無感情。
完成した怪物の身長は、ほぼビル二階分。
グオオオオオオオッ!!!
その咆哮はまるでホラー映画のドルビーサウンド!
そして追い打ちをかけるかのように——
ズドォン!!
どこからともなく、一本の松の幹が回転しながら飛来し、
そのまま怪物の手のひらにジャストイン!
その幹を包むように、謎のミニ竜巻がグルグルと巻きつき……
シュウウウウッ……!
空気中の塵や胞子をどんどん吸い込んでいく!
モコモコッ、ブチッ!
そして出来上がったのは——
サボテン進化形!?
とげとげフル装備のモーニングスターだった!!
「ちょ、武器に自動トッピング機能ついてんの!?どんな課金仕様だよこれ……!」
遊人が思わず叫んだ。
ツッコまなきゃ正気を保てない異様さに、
他の全員も口をつぐむしかなかった。
「フンッ!この完璧なる芸術作品、凡人どもに理解できるワケないじゃん?」
「十狩の中でアートセンスあるのは、ボクと“眼狩”くらいっしょ?常識だよね?」
どこかの黒い祭壇の前——
水晶玉に映るモンスターをうっとり見つめながら、
靈狩は鼻をこすって満足げに呟いた。
そのキメラモンスターは、紫黒の肌にパッチワークの肉片だらけ。
縫い目と筋が無数に交差してて、まるで限定版スニーカーのコラボデザイン!
しかも胸元には、発光ギミック付きドクロがドーンッ!
完全に……ホラー雑貨のライブコマースじゃねーか!
「いやいやいや! ビジュアルの暴力が強すぎるって……!
もうログアウトしたいんだけど!?ガチで!」
コンテナの屋上で、遊人は思わず毒づいた。
「ふざけるな、遊人! 弟と黎花はまだ中にいるんだぞ!」
陽翔の声には、焦りがにじんでいた。
「大丈夫だって! 逃げるとしても、まずは二人を“安全ログアウト”させてからにするよ!」
遊人は、苦笑いを浮かべながらウィンクした。
「……家族の命が惜しいなら、ちょっとだけでもアレの注意を引いてくれ。邪魔するな」
ブレイは、肩の白いバッグから試験管を取り出すと、淡々と組み立てを始めた。
「うん……ティダからもらった説明書、どうしても頭に入らん。しゃーなし、直感でいく」
「アフリカン刀おじさん! 今そのノリでプラモデル組んでる場合じゃないってば!」
遊人がガッとツッコミを入れる。
だがブレイは一切反応せず、ただ静かに言い放った。
「戦いってのはな……まず“情報”だ。お子様」
フッ……とブレイが小さく鼻で笑い、
肩の動きだけで銃口を上げた。
——キュイン!バシュッ!!
特撮感満載の透明試験管弾が射出され、
ゴオッ!!
怪物がそれを一瞬でキャッチ。
そして——
バキィィィン!!!
粉々に握り潰した。
「Perfect……よし、お前に潰してもらうのが狙いだった」
ブシャアアアッ……!
黒紫色の血液が飛び散る。
砕けた試験管からは電子信号が発信され、
銃の側面がピコッと緑に点灯。
ブレイはゆっくりと立ち上がり、どこか満足げに微笑む。
「血液、検査完了。毒ガスなし。感染リスクもゼロだ」
怪物が再生した直後——
遊人はコンテナの屋上で、細めた目で遠くを見つめていた。
「おかしいな……さっきの死体の破片、なんで自動で合体できたんだろ?」
ぼそっと呟きながら、手の中の“禁鞭”をくるくると回す。
その様子は、まるで数学の難問でも考えてるみたいだった。
ブレイの声が、下から静かに返ってくる。
「自動合体ってやつか……遠隔シグナル制御の可能性もあるな」
遊人の眉がピクリと動く。視線は怪物の右半身へ——
「……何かが、あいつらを“呼び寄せてる”んだ」
目が止まったのは、怪物の右脇下。
ピカッ……!
一瞬だけ、リズムを刻むように光る点滅。
まだ確証はない。
でも遊人はそっとノートを取り出し、その事実をメモした。
二人の高度な会話についていけず、
陽翔はぽかんと口を開けた。
「……今、怪物の血液検査してたのか?」
ブレイは横目で陽翔を見やり、淡々と返す。
「検査なしで、戦い方決められるか? 命、惜しいならな」
「えっ、まさか……おじさん、医療兵だったの!?」
遊人の口は、まんまるの“O”に。
「そうだ。見てわかるだろ? 慈悲深くて優しそうな、この“天使スマイル”」
「“天使”!? アフリカン・ブッチャーが何言ってんの! 悪魔でしょ、どう見ても!」
遊人はニヤ〜っと復讐の笑みを浮かべた。
その瞬間——
グワアアアアッ!!!
怪物が、ブレイめがけて突進してきた!!
「うわっ、大当たりじゃん大叔!
おめでと〜! 一回無料の“転生体験”ゲットだよ〜!!」
遊人は手を叩いて爆笑した。
ブレイは陽翔をチラッと見ただけで、静かに呟いた。
「全力を出す価値もないな、あんなモン」
肩から、ボロボロの大剣とチェーンソーをゆっくりと下ろす。
刃には無数の傷跡——
まるで何年も死線を共にくぐり抜けてきた戦友のようだった。
ズンッ!
刀が地面に触れた瞬間、地面がミシッと3センチ沈み込む。
ズバアッ!!
怪物の右腕がブンと風を切り、最初の一撃が迫る!
その瞬間——
ブレイの黒いメタルアイバイザーに、赤いラインがパッと走る!
ピピピピ……!
「大胸筋と上腕二頭筋の交点——ここだ」
ググッ!
ブレイの右手がチェーンソーを握り直し、
怪物の肩へ思いきり叩き込む!
ザクッ!!
縫い目だらけの右肩にチェーンソーが突き刺さる。
ブシャアアアアア!!!
紫紅色の血が噴水のように吹き上がる!!
グキンッ!
右腕が外れ、持っていたモーニングスターがズドンッと落下。
地面に突き刺さる——ブレイの目の前、たった三歩の距離。
「……それだけか?」
ブレイは眉をひそめ、目を細める。
まるで点数でもつけるかのような目つきだった。
次の瞬間——
グワッ!!
今度は左腕が振り下ろされる!!
だが、ブレイの動きは一歩早い!
左足で地面の重刀を蹴り上げ——
ドンッ!
刀背が空気を切って「ガンッ」と重い音を鳴らす!
ザクンッ!!
放物線を描くように飛んだ刃が、怪物の左腕にズバァッと命中!
年輪割る薪みたいに……一撃で骨まで届いた。
たった、3秒。
怪物の両腕がスパーンと切断される。
ブシャアアッ!!
肩から吹き上がる血は、まるで派手な噴水ショー!!
「ブラックブッチャーのバランス感覚、やっば!」
陽翔がタイミングを無視してツッコミながら、自分の肩をポンポンと叩いた。
左右対称かチェックでもしてるつもりかよ。
ブレイは一切無視。意識は、完全に前の敵へ。
スッと半身を低くして、右手でグイッと鎖を引っ張る!
キィン!
チェーンソーが手元へ戻る!!
「靈狩。足でも動かせるって、気づいてないのか?」
ブレイは上を見上げ、まるで独り言のように呟いた。
そして風の中から、ビリビリとノイズ混じりの声が返ってくる。
「ちっ、言われなくてもわかってるわッ!」
ドォォォン!!!
巨象級の左脚が持ち上がり、ブレイを真下から押し潰そうとする!!
「その通りに動いてくれて、助かる」
ニヤリ……とブレイが冷笑し、ワンテンポ早く滑るように後退。
ズバァッ!!!
チェーンソーが怪物の膝裏に突っ込み、
ピンポイントで関節の腱を切断!!
点火——+重力強化!
システム、起動ッ!!
カチンッ!
グリップが赤く点灯し、チェーンソーが超高速回転を始める!!
キュイイイィィィィィィン!!!
ブチブチブチィッ!!!
生肉がミンチになる音とともに、怪物の脛がバラバラに!!
脚が途中で断ち切られ——バランス崩壊!
ドガアアアアン!!!
巨体が背中から落下し、大地に巨大なヒビが走る!
煙と砂を蹴ってブレイがジャンプ!
ドスン!
怪物の胸に着地すると、左手で鎖を引っ張る!
ガキンッ!
もう一本の刀がカシャッと手元に戻る!!
「貫通」
その一言と同時に——
刃が迷いなく、怪物の心臓を突き破る!!
バシュンッ!!
巨体がピクリと痙攣し——
ピタリと、動かなくなった。
「……たった一歩で、ジャイアントが“即死”って……マジで?」
遊人はコンテナ屋根の上で頭を抱え、まるでラストネタバレされた大学生のようなテンションで呟いた。
「……問題ない」
ブレイはゆっくりと鎖を引き寄せる。
カチャカチャ……!
チェーンが巻き戻り、刀が彼の足元へと戻ってくる。
ドスンッと地面に突き立つ様は、まるで散歩の途中で杖を突くかのように自然だった。
「えぇ……オレがやったら、絶対に自分の足ぶった斬ってるぞこれ……」
陽翔が苦笑いしながら、そっと足を後ろに引いた。
「マジであのアフリカ隊長、ハードコアすぎでしょ!?
さっき対決しなくて正解だったわ、ホントに!」
「ざんね〜ん♪ ゲーム、まだ終わってないよ?」
風の中から、あの異国訛りの気持ち悪い声がまた響いた。
ブチブチブチ……!
千切れた血管がケーブルのように這い出し、自動的に腕を再接続!
頭と首も、ツルのような筋肉ネットでグルグル再構築されていく!
ブレイは、ふぅ……とひと息ついた。
「ハロウィン、もう終わったはずだろ。いつまでブラックジョーク引っ張るんだ」
「毒も感染もないが……再生無限。こっちの疲労死狙いか」
「ちょ、なにそれ!? 科学無視にもほどがあるだろ!!」
陽翔が鼻息荒く叫ぶ。
「USB? 人体にオート接続機能とか、どんなアップデートだよッ!」
ブレイの左目のバイザーがピカッと赤く点灯。
「今度は……右フックからだ」
ズバッ!!
重刀を振りかざし、怪物の右腕に真っ向一閃!!
ブシャアアアッ!!!
そのまま左足で地を蹴り、ブレイは空中回転!
ヒュッ!
回転しながら、刃が正確に右腕の接合筋へ突き刺さる!!
「斜め前、37度——」
ブレイが後方へ向けてチェーンソーを投げる!
ズシャアッ!!
鋭い刃が怪物の両目を切り裂く!!
「グワアアアアァァッ!!!」
視界を失った怪物が、モーニングスターを狂ったように振り回す!!
バッ!ブンッ!ガンッ!!
空気を切り裂く破壊音の嵐!!
「おっと〜、手が滑っちゃったなぁ〜?」
ブレイがニヤリと笑い、手から離れた刀が——
ヒュンッ!
陽翔の足元、ピンポイントで地面に突き刺さる!!
「カァァンッ!!」
金属音を聞きつけた怪物が、音の方角へ猛突進!!
「なにこれ!? 主人公システム、いきなり起動した!?」
「マジかよ、こんな機能あったのか!?」
陽翔が目を輝かせながら叫ぶ。
「だったら早く言えって、兄貴!」
陽翔がその勢いのまま跳び上がる!
ヒュオッ!
風を切る斧が、巨人の胸に一直線――!
「これでどうだぁぁッ!」
「ちょ、マジでスタイリッシュすぎるだろコレ!」
「こんなデカブツ、ぶった斬らなきゃオレの筋肉に失礼だわッ!」
ドゴォン!!
陽翔の渾身の一撃が、巨体に叩き込まれる!
「……この世代の開天斧、君に使われるのが一番の不幸かもな」
ブレイがぼそっとつぶやいた。
「いいから! もっとド派手なモードないのか!?」
陽翔のテンション、MAX。
「想像力、それが君のスキルだ」
「昔、第五封印を守ってた“天字人”は……
開天斧をスイスアーミーナイフにして使ってたぞ」
「じゃあ……ブーメラン斧とか、どうッ!?」
カキンッ!
柄の後ろから、ガッ!と刃がもう一枚出現!!
「うおおおッ!? マジで生えたあああ!!」
陽翔の目がキラッキラに光る。
「うだうだ言ってねぇで、ブン投げるぞッ!」
「せいっ!!」
陽翔が両手で斧を振りかぶり——
ヒュンヒュンヒュンッ!
回転しながらブーメラン軌道で巨人へ一直線!
巨人が咄嗟に避けるが――
くるんっ!
斧は空中で曲がり、背後から後頭部にズバアアアッ!!!
ドッガァァァァアァン!!
巨人が膝から崩れ落ち、胸の青い心臓がバクバクバクッと脈打つ!
「ほらな! やっぱアイツ、進撃のパクリしか能がねーじゃん!」
「……が、終わってねぇ」
ザザッ……ピキピキピキ……!
再び再生開始。
風の中から、あの嫌〜な笑い声。
「ふふっ……ボクの“かわい〜い”アートが、誰かのパクリとか……ありえなくない?」
コンテナの屋上——
遊人が鞭をくるくる回しながら、だるそうに言う。
「陽翔、ブレイ。体力ムダにすんな。心臓じゃねーぞ、アイツの弱点」
「……どういう意味だ?」
ブレイが見上げながら尋ねる。
「右脇のあたりに、ピカピカ光る六芒星があるの見えたっしょ?
アレ、たぶん遠隔コントロールの受信器だよ」
遊人の目が鋭く光る。
「オレが縛るから、準備しときな」
ビシィィィッ!!
遊人の鞭が雷の蛇のように六芒星へ直撃!
バチバチバチッ!!
巨人がその場でビタッと硬直!!
「今だ、ガキ!」
ブレイの声が低く響く。
陽翔が深く息を吸い――
「うおおおおッ!!」
両手で斧をぶん投げる!!
ゴオオオオッ!!
超高速回転の斧が六芒星をドンッと直撃!!
「終わりだッ!!」
二人の声が、ピッタリ重なる。
「ギャアアアアアァァァァァッ!!」
ゴゴゴゴゴッ……!!
巨人の体がバキバキに崩壊し、
灰となって風に舞った。
「はぁ……っ、やっと……終わった……!」
ドサッと尻もちをつき、陽翔が大きく息を吐く。
ブレイは小さく笑い、
そっと巨鷹の羽を撫でながら呟いた。
「おまえ、まだまだ学ぶことだらけだぞ、小さな“天字人”」
コンテナの上——
遊人が頭を抱えて寝転がる。
「やっぱ今日いちばんヤバかったの、巨人じゃなくて……ブレイだよね、どう考えても……」
*****
靈狩 血祭の壇視點:
「チッ……あんなに上手く隠した“シグナルレシーバー”、
まさか“雷字人”に見破られるなんてね……」
「次、“天雷重卦”に遭遇したら……さすがに油断できないかもね」
「ま、でも今は……お子ちゃまたちに構ってるヒマはないんだよね」
靈狩がそう言うと、手元の水晶球に「衫山藍」の姿が浮かび上がった。
「これからは、“眼狩”にターゲット変更、っと」
水晶玉の中の映像が――ヒュンッと切り替わる。
靈狩の視界は、“藍”がいる場所へとシフトしていった。




