斧で裂け、天啓は地を穿つ
「黎花を中に運べッ!」
陽翔が叫ぶと、朝陽、大翔、慎之助が阿霞姉を引きずってコンテナハウスの中へ──
木の扉がバタンと閉まる。
「遊人っ、これ!」
結菜が禁鞭を投げる。
遊人はそれをキャッチ、即座に構える。
ズズズズ──ッ!
ゾンビの群れが津波のように押し寄せ、
遊人と陽翔は一瞬で引き裂かれた。
「ちっ、挟まれたか……!」
遊人は扉の前に立ち塞がる。仲間を守るために。
禁鞭を硬質化。バチバチと電流が走り、短棒のように変形。
「来いや、無痛の亡者ども──ッ!」
振り下ろすたびにゾンビが弾き飛ぶ。
けど終わりがない。
倒しても、次。倒しても、また次。無限コンボ状態。
「……くっ、体が……押される……っ!」
背中がどんどん扉の縁に追い詰められていく。
──その時。
「ピュ〜ッ♪」
聞き慣れた口笛が響く。
陽翔だ。
指を噛んで、血の匂いを漂わせて──
ゾンビたちの注意を引き寄せる!
「……っ!!」
群れが遊人の前から、陽翔の方向へ潮のように流れていった。
「賭けるしかねぇ……ゾンビは、木は登れねぇ……はず!」
陽翔がダッシュ。
跳ねるように松の幹へ取りつき──
二歩。たった二歩で枝を掴み、木の腹まで一気にジャンプ!
──正解だった。
ゾンビたちは登ってこられない。
……だが、それも束の間。
「嘘だろ……ゾンビって、ゾンビを登るのかよ……」
一列目が踏み台。二列目、三列目がその上を踏みつけていく。
「人間ピラミッドじゃねぇ、ゾンビタワーだこれ!」
タワー状に這い上がるゾンビたち。
陽翔の高さまで、じわじわ迫ってくる。
「クソッ、バランス悪すぎ!」
木の上、体勢も悪く、まともに戦えない。
一体を蹴っても、六体が同時に来る無理ゲー状態。
「これ……『進撃の喪屍』で見たやつじゃねぇか……」
全身に寒気。恐怖が込み上げる。
──その瞬間だった。
背後から、ゾンビが一体──飛びかかってくる!
(……死ぬ!?)
走馬灯のように、記憶が駆け巡る。
「慎之助……口は悪いけど、根は優しいやつだったな……」
「遊人、多分、誰もいない街で一人で泣いてんだろ……」
「俺たち……孤児院の正月、毎年二人だけだったよな……」
(まだだ……まだ死ねねぇっ!!)
「俺は──生きたいっ!!!」
その瞬間。
空から、斧が飛んできた。
ズドンッ!!
ゾンビの後頭部に直撃。
そのまま、柄が跳ね上がり──陽翔の頭上へ!
「……もし君が仲間のために命を賭けるなら、天はその背を守るだろう」
月光が、雲間から差し込む。
斧の刃が純白に輝く。
金色の文字が浮かび上がった──
マタイ福音書 第25章41節:
『呪われた者よ、我を離れよ!悪魔とその使徒と共に、永遠の火に投げ込まれよ!』
「天啓かよ……!」
神々しい月光が斧を照らし、
その光は下にいる陽翔へと伸びる。
天と地を結ぶ、一筋の──聖なるライン。
陽翔が跳ぶ!
斧の柄を掴んで、振り下ろす!
ズガァァァァァン!!!
地面が砕け、衝撃で松の木が燃え上がる。
ゾンビタワーごと、すべて爆炎に包まれ──消し飛んだ。
煙の中──
ひとり、立っていた。
──陽翔。
上半身のシャツが裂け、筋肉が露わに。
背後の木々は──
ゴォォォ……!!
燃え尽き、黒く裂けた幹が、空間さえも断ち割ったかのように──
闇の中に、亀裂として浮かび上がる。
「……あれ、本当に“現実”かよ……」
黎花の瞳に映ったその姿は、まさに──
地獄の門を斧で切り裂く、天啓の戦士だった。




