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人間が狩る時代は終わりを告げた――これから狩られるのは、人間だ!中編


「隊長!!」


「こいつら……いや、もう普通の野獣じゃねぇッ!!」

「進化してやがる……!!」


「以前の連中とは、桁違いの化け物だ!!」


荒い息をつきながら、上兵が叫ぶ。


全身は無数の爪傷にまみれ、鎧には隊員の脳漿と血がべったりとこびりついていた。


「クソッ……これは“喚狩”の影響か……?」


ティーダが奥歯を噛み締める。


血に濡れた長鞭を、握り直す。


________________________________________

「……それだけじゃねぇ」


軍刀を振るい、異形の獣の突撃を受け止めた副官が、ふらつきながら後退する。


その目が、わずかに震えた。


声を潜めるが、恐怖を隠しきれない——


「長官……これは“喚狩”だけの影響じゃない!」


「こいつらの動き……まるでゾンビみたいだ!」


「まるで……もう一人の“狩”——『霊狩』の術法 にそっくりだ……!」


——ゾクリ。


ティーダの心臓が、一瞬だけ冷たく締めつけられた。


「つまり……」


「今、俺たちは二体のボスと同時に戦ってるってことか?」


深く息を吸う。


血が滲むほど、鞭を握りしめる。


恐怖を——力ずくで押し殺す。


「……ってことは」


「この戦場の裏には、最低でも二人の“狩”が潜んでいるってことになるな。」


________________________________________

"狩"との戦いだけでも絶望的。


それが今は——二体同時だと……!?


しかも、ここまでの戦闘で “喚狩”も“霊狩”も姿すら見せていない。


戦っているのは、奴らの手駒に過ぎない。


——なのに、すでにこの惨状。


「……撤退か?」


ある上士が、苦しげに呟いた。


——だが。


「ククッ……」


ティーダは低く嗤った。


冷徹に、一言だけ吐き捨てた。


「ありえない。」


________________________________________

「俺たちの任務は——この防衛線を死守すること。」


「それ以外の選択肢はない。」


「……それに、もう退く道すら残されていない。」


副官が、沈痛な表情で口を開く。


「降伏……? そんなの、論外だ。」


「俺たちの敵は、そもそも人間じゃねぇ。」


「野獣に、降伏の概念はない。」


「——もし"降伏"できるとしたら、それは**“死”だけだ。」


________________________________________

学校正門:地獄開幕


________________________________________

「……こいつら、誰かに操られてるんじゃねぇか?」


兵士が、額に“第三の眼”を持つ青獅子の群れを見つめる。


体が震え、恐怖に満ちた声で呟いた。


——もはや、それは理性を失った人間の声だった。


「……違う。」


「こいつらは……心の底から、人間を憎んでる。」


「狩に操られていようがいまいが、関係ねぇ。」


「こいつらは——自らの意思で、人間を狩ってる。」


「……まるで、何百年も前から人間に狩られ続けた、その報復みてぇに。」


「これは——」


「千年越しの、純粋な復讐だ。」


「……ま、遺言はもうクラウドにアップしてあるしな。」


「ハハ……最期にSNS更新する暇もなしか」


——その言葉と同時に、ティーダは静かに視線を落とす。


カチャッ……


降魔杵ごうましょに巻き付けられた封印の布に、手をかける。


ゆっくりと、それを解き始める。


杵の表面には、無数の傷跡。


静かに、副官の閉じることのできなかった瞼の上へとかけた。


「……すまない。」


「せめて、静かに眠らせてやる。」


フッ……


風が吹いた。


——そして。


ティーダは降魔杵を腰のホルスターにしっかりと納める。


右手に電子長鞭を強く握りしめた。


——今、彼女にできることは、ただひとつ。


戦うこと。


最後の瞬間まで——。


________________________________________

戦場は、もはや戦線を維持できる状況ではなかった。


正門前、生存者——三十名。


もはや、一列に並ぶことすら困難。


それでも彼らは、最終防衛陣形を組み上げる。


二重の同心円を作り、最後の砦を築く。


——だが、それは生存のための最低限の防御に過ぎなかった。


「空を抑えろ!!クソッたれな怪鳥どもに突破させるな!!」


負傷した兵士たちは第二防衛線へ下がり、銃を構える。


だが——


弾丸をすり抜けるかのように亡霊のごとく舞い上がる。


獣の狂気に抗うには——己が獣よりも獣にならねばならない。


________________________________________

もともと百人以上いたはずの国防軍の精鋭部隊。


——今、立っているのは、わずか三十名足らず。。

________________________________________

最初、彼女とともに最前線を支えていた三名の分隊長も、すでに倒れていた。


死体は……どこかにあるのだろう。


だが、今の彼女には探す余裕すらない。


「……クソッ……」


ティーダは奥歯を噛み締める。


もし、師匠から授かったこの降魔杵がなければ——


とっくに彼女も、この地獄の土に還っていた。


この武器には、現代電子兵器の鋭さや破壊力はない。


——だが。


杵の表面には、かつての高僧が刻み込んだ**『楞嚴經』の文字。


それは、単なる装飾ではない。


"念"が刻まれた法具——


それゆえ、獣たちの狂乱すら、わずかに抑え込んでいた。


青獅子たちは、襲いかかる直前、ほんの一瞬だけ——躊躇する。


彼女の視線の先には、累々と横たわる獣の死骸。


——電子鞭、エネルギー切れ。


ティーダの手の中で、最期の頼みの綱だった武器が沈黙する。


——法蘭奇、戦闘不能。


横たわる分隊長。


……すでに動かない。


「クソッ……」


奥歯を噛み締める。


震える指で、倒れた仲間の電子鞭を引き抜いた——。


あるのは、ただ戦うことだけ——。


その時だった。


……ズシン。


……ズシン。


……ズシン。


「……?」


不気味な足音が、ゆっくりと響く。


まるで、死神が刻むカウントダウンのように。


——咚。咚。咚。


そして、それは現れた。


否——


"五つの巨影"が、姿を現した。



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