大敵が目前に迫っている
結菜のヤツ、また遊人と喧嘩し始めたぞ。
……今だ!
ティーダは、ちらっと思科を見た。
(あー、コレはヤバいヤツね……)
ティーダさん、絶対タバコ欲しがってる。
ふたりはこっそりと
________________________________________
「ぷはぁ~~~!
やっっっと一服できるわぁ~~~!!!」
午後の校舎裏。
柔らかな日差し、穏やかな風。
花壇の端に、ひらひらと落ちる葉っぱ。
ティーダは慣れた手つきでタバコを取り出し、
シュボッと火をつけた。
「一本吸う?」
「あー……いや、俺、禁煙二ヶ月目だから」
思科はポケットからサングラスを取り出し、
ゆっくりと外した。
「……はぁ???」
ティーダの顔が「意味不明」って言ってる。
「ちょっと待って、あんたが禁煙???
冗談はコードのバグ修正してから言ってくれる?」
「……いや、実はさ」
思科は照れ臭そうに前髪をかき上げ、目をそらした。
「二ヶ月前、
俺の嫁のむおんがLINEで「妊娠しました」って送ってきて……」
「マジで!?!?!?!?!?!?」
ティーダの目が輝く。
「おめでとー!!
初パパかぁ~~いいなぁ~~~!!!
フランチ(愛犬)が犬になる前、
ずっと子供欲しがってたんだけどねぇ……」
「まぁな……肩の荷、ズッシリ来てるけどさ。
子供のためにも、禁煙した方がいいかなって」
思科は、ちょっと恥ずかしそうに視線を落とした。
「ハッ……」
ティーダはポンと肩を叩く。
「よっしゃ!! 頑張りなさいよ、思科!!
さっさとこんな騒ぎ終わらせて、
子供と楽しい未来迎えなきゃね!」
「……そうしたいんだけどさ」
________________________________________
思科の表情が、急にシリアスモードに切り替わる。
「今、ちょっとネット情報の遮断で、
国家情報局と連携してるんだけど……まぁ、
いろいろ揉めてて」
「ふ~~ん?」
ティーダはニヤリと笑った。
「……あんたにとっちゃ、簡単な話でしょ? だって、
あの『藍夜無音』の元メンバーだもんねぇ~~~?」
「ぐっ……」
「昔さ~~~、億レベルのレアアイテム盗んだ挙句、
8,787円 で売り飛ばしたとか……マジでイカれてたじゃん?」
「……しかも、そのお金、八十八歳老人安養協会に寄付したし」
思科は、思い出したくもない過去を小声で呟く。
「ギャハハハハ!!! ホントお前、
昔から意味不明なヤツだったよな!!!」
ティーダは腹を抱えて爆笑。
「てかさ、その寄付の順番、
日本語の数字順で決めたんでしょ? 謎すぎる真面目さ!」
「認めたくないものだな……自分自身の、
若さゆえの過ちというやつを……」
思科は遠くの空を見上げ、哀愁のため息をつく。
「最初は、ただのゲーム攻略感覚だったんだけど……
むおんの親父のネットカフェで、
『藍』っていう天才少年に会ってからさ」
「……」
「どんどん深みにハマっちゃって……。
あの頃、俺らマジで無敵だと思ってたよ」
________________________________________
「で?」
ティーダは煙を吐きながら、思科の目をじっと見つめる。
「結局、国防省の侵入作戦で躓いたんだよね?」
「うん、そうなんだよね……」
思科はぼそっと言った後、少し間を置いて、もう一度繰り返した。
「……そうなんだよね……」
あの日……
「……」
思科の指が、無意識にタバコを取り出していた。
「……あ、やべ」
パチンッ
ティーダが、思科の手を軽く弾く。
「禁煙二ヶ月目でしょ?」
「……あー、そうだった」
思科は苦笑し、タバコをポケットに戻す。
________________________________________
ティーダは、怒るでもなく、ただ静かに見守っていた。
「まぁさ」
ふっと、煙を吐く。
「不安な時に吸いたくなるのが、人間ってもんよ」
思科の吐いた煙は、ゆっくりと風に乗って、遠く――
『北方之城』の彼方へと消えていった。
次章:極北の都 ― スパイ対スパイ、
狩のメンバーと情報本部




