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人新世、世界の本当の姿

「口喧嘩で負けた? だから何? 痛くも痒くもねぇし!」

「それに俺、まだお前に利用価値アリ、ってことだろ? なら今回負けても問題ナシ! 次で巻き返せばOK!」

「俺が諦めねぇ限り、試合終了じゃねぇ!!」

 

……で、本題な。

「この世界、何がどうなってんだ⁉ 説明しろ!」

「なんで人間が動物に変わるんだよ! 何かのバグか? 仕様か? ポケ〇ンか⁉」

 

遊人は マシンガンのごとく、ティダに言葉を浴びせた。

________________________________________

親のせいで劣勢? フザけんな。

口喧嘩がダメなら――別の戦場を作るまで。

それに、この世界……どれだけ大人たちにメチャクチャにされたか。

知らなきゃ、戦えねぇ。

知らなきゃ、生きる意味もねぇ!!

根掘り葉掘り聞かないと気が済まねぇ!

________________________________________

「うーん……こりゃ悩ましいわねぇ」

 

ティダは即答せず、チラッと周りを見回した。

……次の言葉が余計な耳に入らないか、確認してる――そんな感じ。

 

そして、無意識に 指がイヤリングに触れた。

水滴型の小さなアクセサリー。

……いや、ただの飾りじゃねぇな。

遊人の 直感が告げる。

あれは――軍用の録音防止デバイス⁉

________________________________________

同時に、鈴木思科が振り返り、軽く手を挙げた。

 

それを合図に、二人の士官が無言で前に進み、スッと六台の病床を押し出す。

動きがあまりにもスムーズすぎて、まるで工場の流れ作業か何かのようだった。

 

気づけば――

遊人を中心にしていた空間は、一瞬でガラリと無人に。

 

残されたのはティダ、情報官の鈴木思科、遊人、そして小猫の結菜だけ。

 

「本物みたいに演じるなんて……」

遊人は ゾワッと背筋が冷え、小さな結菜を抱きしめた。

________________________________________

「地球の4分の1の人類が動物に変えられたのは、一種の『狩』からの“報復”と考えられる。」

「でも、これは“大決闘”の前の前菜にすぎない。」

「この術式は、主狩や他の狩が私たち五行旗に向けた『警告』とも言えるわ。」

「封印の地を諦め、狩を阻むことをやめろというメッセージね。」

________________________________________

「……聞いたけど、意味が全然分からない。標準語で話してくれない?」

遊人は困惑した表情で尋ねた。

 

「『人新世じんしんせい』とか『並行宇宙』って聞いたことある?」

ティダが静かに問いかける。

 

「前者は聞いたことないけど、後者は映画で散々観たよ。」

「わざわざ1話分くらい解説しなくていいからね。」

 

遊人は 軽い調子で返しながら、心の中で思った――

(いや、まさかここで SF用語ぶっこみ 来るとは思わんかったわ!)


「『人新世じんしんせい』って聞いたことある?」

「じんしんせい……?」

遊人は首をかしげる。

 

「まぁ簡単に言うとさ、『人間が地球の支配者になった時代』って話。」

「ふーん? それって普通のことじゃね?」

「いやいや、昔は恐竜の時代とか、氷河期とかあったでしょ? それと同じで、今は『人間の時代』ってこと。」

「……なーるほど。で?」

 

「私たちは『人新世』の中で、人類の祖先が地球上に『八つの封印地』を築いたことを発見した。」


「封印地……って、何それ?」


「ざっくり言うと、地球にある『鍵』みたいなもん。

全部解放すれば、平行宇宙への扉が開く……らしい。」


「おいおい、まんま異世界転生フラグじゃねぇか!」


「まぁね。でも、もしかしたらエジプトのピラミッドとか、イギリスのストーンヘンジとかにも、同じような意味があるのかもしれないわ。」

________________________________________

「で、その理由は?」

「……わかんない。」

「おい!」

「まだ解明されてないけど、でも、確実にわかってるのは――」

ティダが 指をスッと立て、遊人に視線を向ける。

「この八つの封印地の配置と特性が、中国の**『易経えききょう』の八卦はっけ**とぴったり対応してるってこと。」

________________________________________

「……いや、待て待て。平行宇宙に行くのって、意外とアリなんじゃね?」

遊人は腕を組み、考え込む。

「そこには俺たちと似たような世界があるのか?」

________________________________________

「うん、似てるよ。でも――たった一つだけ違う。」

ティダは 静かに言葉を区切る。

 

「そこには、人類という種が存在しない。」

________________________________________

「……は?」

遊人の 眉がピクリと動く。

「しかも問題は山積みよ。例えば――」

ティダが 指を折りながら、順番に数え始める。

 

「その世界がここよりどう違うのか?

空間の鍵を開けようとしているのは誰なのか?

そいつの目的は何なのか?

そして、第八の封印地がどこにあるのか?」

 

遊人が「うわ、情報量多っ……」と呟く中、ティダはゆっくりと目を閉じた。

水滴のイヤリングを外し、尖った先をこめかみに当てながら、深く考え込む――。

________________________________________

「姉さんさ、八割は知ってるけど、俺にどこまで教えるか悩んでるだけなんでしょ?」

遊人は ニヤリと笑いながら 言った。

「ふふ……君、見た目はバカっぽいけど、意外と鋭いわね。」

ティダが微笑む。

 

「それ、褒められてるって思っていいの? おばちゃん。」

「……は?」

 

瞬間、ティダの目がギラリと光った。

空気が変わった――否、殺気が走った。

 

「え、ちょ、今のナシ! 訂正しまーす!

ティダ様はお美しい若き女性でありまーす!!」

 

遊人が 土下座モーション に入る前に――

 

「今はケンカしてる場合じゃないだろう?」

鈴木思科が スッと間に入り、冷静な声を挟んだ。

 

「……チッ。命拾いしたな。」

ティダは 腕を組んで深呼吸し、気を取り直す。

________________________________________

「正直に言うよ。」

ティダは視線を真っ直ぐにし、低い声で語る。

 

「人類が主導するこの世界には、どこか“抗う力”が存在しているんだ。」

 

「抗う力?」


「人間は工業の力で地球を作り変えようとした。」

「でも、地球もまた抵抗している――元の姿に戻ろうとする力。」

ティダは 腕を組みながら 言葉を区切る。

「それが具体化した存在が『かり』よ。」

________________________________________

「え、それってつまり……地球の自己修復システム?」

遊人が眉をひそめる。

「そうとも言えるわ。」

ティダが頷く。

 

「『狩』は、人間以外の生物が形成した集団意識。

彼らは 人間を拒絶し、地球の八つの空間封印を解き放とうとしている。」

「そして――」

「そして?」

ティダは一拍置き、ゆっくりと視線を上げた。

「人間が存在しない世界へ逃げようとしているの。」

「……おいおい、バグ修正じゃなくて“アンインストール”しようとしてんのかよ!」

遊人が思わず頭を抱える。

________________________________________

「じゃあさ、いっそのこと 人類を滅ぼせばいいんじゃない?」

「バカ、それができりゃ苦労しないでしょ?」

ティダが ため息をつく。

「それは分からないの。もしかしたら――

十狩じゅうがりは、人類の血で汚れた地球を望んでいないのかもしれない。」

「あるいは、今の地球は人類によって 汚されすぎて、もう元に戻せない から、彼らも住みたくないのかも。」

ティダは 少し目を伏せ、考え込むように呟いた。

 

「いずれにせよ……私の推測だけど――」

「だけど?」

ティダは息を吸い、静かに言葉を継ぐ。

「十狩が目指しているのは、一片の汚れもない、最初からやり直せる世界なんじゃないかと思う。」

________________________________________

静寂が落ちる。

遊人は口を開きかけて――

ふと、ギクリ とした。

「……おい、ティダ。お前、もしかして――」

「何?」

「ちょっとカッコつけすぎじゃね? 台詞が ラスボスみたいになってるぞ。」

「は?」

「いや、“一片の汚れもない世界”って、まんま 最終決戦前の敵のセリフ だろ!?」

「はああああ!?」

ゴンッ!!!

「バカ遊人!!!!!」

ティダの拳が ズドンッ と遊人の頭に炸裂した――。

________________________________________

「なんか ややこしく聞こえる けどさ、俺の直感ではめちゃくちゃ単純な話だよ。」

遊人は 腕を組み、ドヤ顔で言い放つ。

「行くべき奴は行けばいいし、残る奴は残ればいい。」

「別に戦う必要もないし、みんな楽になれるっしょ?」________________________________________

「……それ、本気で言ってる?」

ティダは ジト目 で遊人を睨む。

遊人は「え?」と首を傾げたが、ティダは 真剣な顔のまま 続ける。


「生物の連鎖の中で、たった一つの種が消えただけで、他の種も壊滅的な影響を受けるのよ。」

「へえ、俺らってそんな重要?」

「逆よ。人間は他の生物に依存しなければ生きていけない。」

「あー……そういうことね。」

「もしかりが多くの生物を連れて平行宇宙へ逃げたら?」

「えーっと、動物園が空っぽになる?」

「バカ、それどころじゃない!

人類にとって、それは――『自殺行為』と同じなの!」

バンッ!!

ティダが 机を叩く。

 

遊人は思わず ビクッ とするが、すぐに反論した。

________________________________________

「ちょっと待った!!」

遊人は 指をピンと立て、鋭い目つきになる。

「さっき『万物はお互いに依存してる』って言ったよな?

なら、なんで動物たちは俺たちを捨てて逃げられるんだよ!?」

「……」

「こっちは彼らがいないと生きていけないのに、向こうは俺たちがいなくても困らないってこと?」

________________________________________

ティダは一瞬、言葉を探し――

「まぁ、人類は食物連鎖の中で最も“特別な”存在だからね。」

「おいおい、まさか**『人間は万物の霊長だから』**とか言い出さないよな!?」

「違うわよ。」

ティダは 軽くため息をつき、遊人をまっすぐ見つめる。

「人類が特別なのはね――」

「……ゴクリ。」

「人間だけがいなくなっても、他の生物にとって何の不幸ももたらさない存在だからよ。」

「…………は?」

________________________________________

「だから、十狩じゅうがりは人類を切り捨て、新しい世界への扉を開いて、他の生物たちを連れて行こうとしているの。」

「え、ちょっと待てよ?

それってつまり……

俺たち、人類って――

めちゃくちゃ図々しくね!?」

遊人は 顔をしかめながら、肩をすくめた。

「やっと気づいた?」

ティダが クスクス笑う。

『人間に生まれたこと』 に申し訳なさを感じた。

________________________________________

「どうであれ、だから私たちの先輩たちはずっと『八つの封印の地』を守ろうとしてきたの。

でも――」

ティダは 指を一本立てた。

「残りは最後の一つだけ。」

「へえ、大変だな。……で?」

「そして――君を含む八人の守印者しゅいんしゃは、代々その封印を守る祖先の神器を司ってきたのよ。」

「ん? いや、待て待て待て……俺!?」

________________________________________

「その最後の封印がどこか、俺は知らなくていいよね?」

遊人は 目を閉じ、ティダの次の言葉が精神的ダメージを与えることを覚悟する。

ティダは いたずらっぽく微笑み――

「ダメだよ。しかも――君はもうその場所にいるんだからね。」

「…………は?」

「ここ、江雨学園よ♪」

ティダは ぺろっと舌を出した。

________________________________________

遊人の 脳内に衝撃が走る。

(――ちょっっっ!!!)

(フラグ回収早すぎんだろ!?)

(なに、この“主人公確定演出”!!)

________________________________________

「……口喧嘩で負けてもいいから、一生平凡なNPCとして生きていたかったよ……。」

病床の上で、遊人は 絶望的な表情を浮かべながら、ティダに背を向けた。

________________________________________

「でもね――」

ティダの声が すぐ後ろから響く。

「その責任を引き受けたら、私が君の両親の正体を探し出してあげるよ?」

________________________________________

ピクッ。

遊人の 肩がわずかに動いた。

ティダの 自信満々な態度 に、遊人は 心を読まれていたことを悟る。

無言のまま――

遊人は 不承不承ながらも、もう一度体を翻してティダの方を向いた。



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