なぜクラスメイトの母親だけが逆齢の美少女なのか!? 後編
「うおぉぉっ! これ、めっちゃうまいっ!!」
慎之助、ガブッ!!
揚げたての湯葉フライにかぶりつき──
そのまま爆速で咀嚼開始!!
ガツガツ! モグモグ!
まだ口いっぱいなのに、
箸を持つ手が止まらない!!
「なぁ、次の分! もう揚がった!?
早く食わせろ!!!」
皿をガン見。
今にも箸を突っ込みそうな勢い!!
「慎之助、落ち着けよ。」
横から、陽翔が呆れたように言う。
「お前、食い意地張りすぎだろ。
さっきから猛獣みたいになってんぞ。」
「違ぇよ! こんなうまい飯、
ガツガツ食うのが礼儀ってもんだろ!!」
慎之助、ドヤ顔。
「なぁ莫思、もう次のやつ揚げてくれた?」
「はい、ちょうど揚がりましたよ。」
莫思は落ち着いた笑顔で、
新しい湯葉フライを皿に盛る。
まるで茶道のような優雅な手つきだ。
「おぉっ! さすが花莫思! 仕事が早ぇ!!」
慎之助、テンションMAX。
「それにしても……」
ふと、慎之助が思い出したように呟く。
「なぁ、こういう時ってさ、
『やっぱ家族っていいよな~』
……とか言うべき場面なんじゃね?」
「はぁ?」
陽翔が眉をひそめる。
「いや、俺のオカンがよく言うんだよ。」
「美味いもん食うと、
『家族の味』とか『母の味』とか言い出すんだけどさ。」
「まぁ、言いたいことはわかるよ。」
遊人がグラスをくるくる回しながら、ぼそっと言う。
「家族の味って、結局は思い出の味だからな。
誰かと食った飯が美味けりゃ、
それが『家族の味』になるってわけだ。」
「ふむ……」
花火煉が静かに微笑む。
そして、慎之助を見つめながら──
「でも──家族って、ずっと続くものかしら?」
「……え?」
慎之助が箸を止める。
「夫婦というのは……
最初どれだけ仲が良くても……」
ふっと、花火煉の視線が落ち着いたまま、
慎之助へ向けられる。
「価値観の違いが大きければ……
一緒にはいられないものですわ。」
「ってことは、花姉さん、離婚したのか!?」
「……まさか……浮気か!?」
慎之助、箸をピタッと止める。
無言で、花火煉の表情をじっと見る。
(なんだこの圧……!?)
慎之助の脳内に、衝撃波が走る。
そして──バンッ!とテーブルを叩いた。
「いや、絶対そうだって!
オカンが見てる朝ドラ、みんなこんな感じだし!」
「ふふ……違うよ?」
花火煉の微笑み──美しすぎる。
けど、その奥にひそむ刃のような冷たさに、
莫思の背筋がゾクリと凍りつく。
「もしそうだったら……
──もう彼を殺してるわよ?」
「ひぃぃっ!?!?」
慎之助、ビクッと肩を震わせる。
寒気がする……背筋が凍る……!!
だが──
「……って、怖ええええ!!!」
思わず椅子ごとガタンッと後ろにのけ反る。
どこのサスペンスドラマだよ!?
「じゃあさ! 他に相手がいたとか!?
こんな色気ヤバいお姉さんだったら、
そりゃもう結婚してても狙われるでしょ!?!?」
慎之助、ギラリと目を光らせる。
興味津々モード発動。
だが──花火煉はただ、ゆるりと微笑んだ。
「ふふ……ありえないわね。」
微笑みと共に、サラリと言い放つ。
「私は……そういう母親じゃないもの。」
──ドンッ!!!(心に響く衝撃音)
慎之助の脳内に、衝撃波が走る。
漫画キャラみたいな青筋と冷や汗が浮かぶ幻覚を見た。
「お前……絶対ラスボスだろ……」
莫思、天井を見上げる。
──なんか、カラスが旋回してる気がする。
……気のせい、だよな?
その空気を、遊人はあっさりスルー。
ワイングラスを揺らしながら、気だるげにつぶやいた。
「愛があってもさ……
結局、人はそれぞれの人生を歩むんだよねぇ。」
「心が繋がってても、境遇が違うとズレるもんさ。」
「目の前に見えてる世界も、進む未来も──
全部、人それぞれってワケ。」
そう言って、花火煉が注いでくれたワインをひと口飲む。
「うぇっ……やっぱ苦ぇな、赤ワイン。」
陽翔、渋い顔でグラスを置く。
その横で、慎之助と莫思は仲良く黒糖ミルクティーをズズズッとすすっていた。
花火煉は、遊人の言葉に静かに頷いた。
しばし沈黙。
そして、ゆるやかに彼を見つめる。
「遊人君、よくわかってるわね。」
微笑みは穏やかで、柔らかい。
けれど、その瞳の奥には、深い思慮が滲んでいた。
「でも……」
そっと、ワイングラスの縁を指でなぞる。
その指先は、どこか考えを巡らせているように静かで、
落ち着いていた。
「若いのに、そんな悟ったようなことを言うのは……
少し寂しい気もするわ。」
花火煉は、ふっと小さく息をつく。
そして、穏やかな微笑みを浮かべながら、
静かに言葉を紡ぐ。
「恋ってね……焼きたてのパンみたいなものなの。」
「熱いうちにかぶりつかなければ、
冷めてからどれだけ語ったとしても……
その本当の味は、もう変わってしまっているわ。」
「若い時間の楽しさも、きっと同じね。」
遊人はゆっくりと視線を上げる。
そして、小さくつぶやいた。
「……花姉さんって、ほんとに不思議な人だよね。」
ワイングラスの中で揺れる赤い液体をぼんやりと見つめる。
ふと、自分が思っていた以上に、
彼女の言葉が心に響いていることに気づいた。
「遊人君って、なんだか感傷的なところがあるわね。」
花火煉がふっと微笑む。
「私の推測では……遊人君は太陽が魚座で、
金星が双子座にあるんじゃないかしら?」
花火煉は、そっとベジタリアンチキンを包み、
陽翔の皿に乗せた。
遊人は、手を止める。
一瞬、きょとんとして──
「すぐに僕の星座を当てるなんて……
花姉さん、隠れた才能あるね。」
苦笑い。
なんとも言えない表情で、肩をすくめた。
「星座のことなら、中川薫先輩が詳しいよ!」
慎之助が、急に乗り出す。
「あの人、タロット占いで商売してるし、
お金も稼いでるんだ!」
「お前の重点は『お金を稼ぐ』ことで、
先輩の学問ではないだろう!」
陽翔が、ため息混じりに睨む。
「お金を稼ぐことが、一番大事な学問だよ!!」
慎之助は、ドヤ顔で拳を握った。
──しかし、その数分後。
慎之助、完全に力尽きる。
ぐったりと座り込み、腹を押さえる。
莫思が厨房からピータン豆腐を持ってくるが──
「もう……無理だ……!」
首を横に振る。
「また適当なこと言ってる!」
遊人が呆れたように言う。
メインディッシュを食べ始めたばかりなのに。
「中川先輩か……時間があれば、
私と莫思に紹介してくれる?」
花火煉が、穏やかな声で尋ねる。
「彼はまだ高校に入ったばかりで、
何も知らないんですから。」
「問題ないよ!」
慎之助、バンッと胸を叩く。
「花ママ、喧嘩のほうは陽翔がいるから、
君の子供をいじめるやつはいないし──」
「国語のほうは遊人が教えてくれる!」
「莫思の三年間はもう安泰だな!!」
慎之助、どっしりと座る。
左手で陽翔の肩を叩き、
右手で遊人の頭をポンポンと叩きながら、
満面の笑み。
まるで弥勒仏。
しかし、莫思は思わず笑ってしまった。
「それで……お前は莫思をどうやって守るつもりだ?
口だけじゃないだろうな?」
陽翔が冷静に問いかけると──
「僕は……ゴホッ!?」
慎之助、突然むせる。
自分の唾液で。
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食卓の空気が落ち着いたころ、
遊人が花火煉に尋ねた。
「ロンドン、良くなかったの?
どうして花姉さんは戻りたいの?」
花火煉はグラスをゆっくりと傾ける。
そして、ふと遠くを見るような目をした。
「人が重大な決断をするとき……
たいてい単純な理由じゃないの。」
「一方では、悲しい思い出から遠ざかりたい。
そして故郷に戻ることは、
母の元に帰るようなもの。
心が一番癒されるわ。」
「それに……私たちが住んでいたロンドンの地域が、
好きじゃなかったのよ。」
「経済的に余裕がなくて、ギリギリの生活で、
やっとのことで部屋を借りたのが……
歓楽街の外れだったの。」
彼女は静かに息を吐く。
そして、ふと微かに震える声で続けた。
「……そこにいる男たちは、
私の赤い髪に変な興味を持っていてね。
そういうのには慣れなかったの。」
花火煉は、ふっと目を伏せる。
そして、すぐに顔を上げた。
「……あぁ、言わなかったことにして!
その地域のことも、今の話も全部忘れて!」
「赤……線?」
陽翔が尋ねる。
だが、その言葉が舌でもつれ──微妙に詰まる。
「つまり、売春宿のことだよ。」
慎之助が、なんの気なしにさらっと言い放った。
──その瞬間。
莫思の顔が、一気に凍りつく。
空気がピタッと張り詰める。
「デブ之助……」
遊人がフォークをツンッと慎之助の手に突き刺した。
「痛っ!? 遊人お前、いちいち痛いんだよ!!」
もがきながら手を振り払う慎之助。
その様子に、花火煉は苦笑いを浮かべるしかなかった。
***
「ふぅーっ、食った食った!」
慎之助が満足げに腹をさすりながら、
椅子にのけ反る。
「お前、どんだけ食うんだよ……」
陽翔が呆れ顔でため息をつく。
「いいじゃん、うまかったんだから!」
慎之助がドヤ顔で開き直る。
「……で、そろそろ手伝う時間じゃね?」
遊人が時計をチラッと確認する。
「そういや、花さんの店、今日から開店準備だったな。」
陽翔が立ち上がる。
「よし、さっさとやるか。」
「うわ、やる気満々だな! さすが力持ち代表!」
慎之助がニヤリと陽翔をからかう。
「バカ言え。お前らがサボると面倒だからな。」
陽翔はそう言いながら、店の奥へ向かい──
ひょいっと、大きな棚を一人で抱え上げた。
「ひえぇ、マジで一人で持てるのかよ……」
慎之助が驚きつつも、軽い装飾品を手に取る。
「俺たちも手伝うか~」
遊人が苦笑しながら、小物を運び始める。
こうして、
三人は花さんの店の開店準備に取り掛かった。
──と、その時。
莫思がふと、感慨深げに呟く。
「でも……先輩たちって珍しいですね。」
「私はこの高校で寂しくなると思ってたんですけど、
まさか同じベジタリアンの先輩たちに出会えるとは思いませんでした。」
「友達と食の習慣が違うと、不便ですから……」
「別に意図的に菜食主義になったわけじゃないよ。」
遊人がサラッと言いながら、箱を運びつつ振り返る。
「僕は小さい頃から肉を食べると吐いちゃうんだ。
陽翔もそうだよ!」
「……ああ、体質の問題だろうね。」
陽翔が頷きながら、店の奥で重い木箱を持ち上げる。
「僕の弟たちは肉を食べても何ともないし。」
「本当だよ。」
慎之助が箸を持ちながら、ふと思い出したように言う。
「僕、昔は家が野菜と果物の店をやってたから、
てっきりその影響かと思ってたんだけど……」
「外で肉の匂いを嗅ぐと、
なんか食べたくなるんだよな!」
「それで?」
遊人が冷ややかに尋ねる。
「……食べれば食べるほど吐いちまうんだ!!」
慎之助は、まるで人生の敗北者のような顔で力なくうなだれる。
「それな。慎之助、何回負け戦すれば学ぶんだよ……?」
遊人が呆れ顔で肩をすくめる。
慎之助が遠い目をしながら**
「肉とは……哀しき運命の輪廻よ……」**とポツリ。
莫思が思わずクスッと笑う。
「僕と莫思は、生まれつきそういう体質ではないけど、
自発的にベジタリアンになったんだ。」
花火煉は穏やかに微笑む。
「だから、莫思が高校の初日に君たちに会えたのは、
本当に幸運だったわね。」
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花莫思が、ふと感慨にふける。
「仏教的な観点から言えば、
先輩たちが善人だからこそ、
この世界の災難を免れたのかもしれないね!」
「へぇ~?」
遊人が眉を上げながら、
慎之助を横目で見る。
慎之助は箸を置き、ふっと笑った。
慎之助がニヤリと笑いながら、茶をすすった。
そこでふと、慎之助が軽く指を鳴らす。
「そういや『善人』の話をしてたよな?」
ニヤリと笑いながら、陽翔のほうを顎で指す。
「……こいつ、善人って言えるか?」
「……なんだ?」
陽翔が聞き返す。
「僕に何か偏見でもあるのか?」
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陽翔は長い梯子に立ち、
花屋の入り口に赤い布を掛けていた。
本当なら看板を設置するはずだったが、
間に合わなかったため、
とりあえず花火煉が用意した布を代わりに掲げている。
慎之助がニヤリと笑い、遊人の肩を肘でツンツン突く。
「陽翔は監兵楼で、
この三年間にこいつに殴られたヤツ、
どれくらいいるか聞いてみ?」
「まるで訓導処の常連だぞ?」
遊人はフッと笑い、茶をすすった。
「そりゃそうだよ!」
「その中には、
お前の左腕をからかった不良も少なくないんだからな!」
陽翔は梯子の上で冷静に布を整えながら、
慎之助を鋭く見下ろした。
「……お前、何が言いたい?」
慎之助はわざとらしく咳払いをして、
胸の前で合掌。
「咳咳咳!僕の存在はな、
お前の発散できないエネルギーに
正義を行う機会を与えるためのものなんだよ!アミダブツ……」
「さもなければ、お前の罪業のせいで、
昨夜は短毛のゴリラになってたはずだ!」
「……は?」
遊人はすかさずツッコんだ。
「そうだよ!そしてお前は、
口だけのアヒルになってたはずだ!」
「やかましいわ!」
陽翔が軽くため息をつきながら、布をしっかり結ぶ。
その横で遊人は荷物を片付け、
ティーカップの最後の一滴を飲み干した。
「さて、準備完了。そろそろ行くか。」
「えっ!?もう行くのかよ!?」
慎之助が不満げに口をとがらせる。
「やっと片付いたところなのに、
もっと食べたかったのに!」
陽翔は遊人のほうを向き、
少し呆れたように言った。
「デブ之助は、
僕たちがいつもの場所に結菜を探しに行く予定だったことを、
すっかり忘れてるらしいな。」
慎之助は肩をすくめ、あっさりと答える。
「僕は他人の彼女には興味ないよ。」
「友達より、綺麗なお姉さんのほうがいいやつ……」
慎之助がニヤリと笑いながら、茶をすすった。
すると、火煉がくすっと微笑み、
慎之助のほうを見つめながら言う。
「ふふっ……慎之助君、家に帰ったら、
夜にお姉さんのことを考えすぎないようにね?」
──ビクッ!!!
慎之助、硬直。
まるで心臓を真正面から射抜かれたかのような表情で、
口をパクパクさせるが、言葉が出てこない。
遊人が面白そうにニヤつきながら、
慎之助の背中をポンと叩く。
「おやおや、これは珍しく……慎之助の完敗?」
_
***
火煉は、去っていく少年たちの背中をじっと見送る。
そして、ゆるりと視線を上げた。
赤い布に書かれた店名を見つめながら、
静かに息を吐く。
この危険な世界で、
これから新しくオープンする花屋はどうなっていくのだろうか。
店名は──
『海王星と猫(Neptune and A Cat)』。