【主狩(しゅしゅ)Side】主狩語り──智慧なき者に未来なし
【主狩Side】
荒野。
崩れた塀と砕けた瓦礫の中、
余裕など一切なく──
俺たち三人は、何もないこの地へと足を踏み入れた。
青黒く沈んだ街角。
天から降り注ぐ、水銅色の白いライトが、
俺たちの着ている「「魔舞結社」のフード付きジャケットを、
まるで薄く滲む血のように照らしていた。
地面に指をすっと滑らせる。
砕け散った──不空成就仏のネックレス。
わずかに、体温が残っていた。
(……トロスキ。)
霊狩の本名を、低く呟いた。
「最後まで大人しくしていれば、こんなことにはならなかったのに。」
「戻る道もあったはずだ。」
「だが──自分で、それを壊した。」
「《シヴァの舞》の奥義書を奪い、
雷水解の連携奥義に討たれた……
それが、お前の報いだ。」
「“霊狩”を名乗るにはおこがましいな。」
「上位の狩者にもなれず、所詮はただの下っ端。」
「ほんと、バカだね〜」
魔法少女みたいなツインテールの少女──魂狩は、
クスクス笑いながら手を叩いた。
「ご命令、すぐに頂ければ。」
「卦者の掃除、今日中に戦線を展開してもよろしいですか?」
──そばかす顔の《空狩》、工藤 蒼が、片膝をつきながらそう言った。
顔を見るまでもない。
「まったく、意味がない。」
「最初から、あいつらに期待などしていない。」
「卦者が八人?六十四人? 数など関係ない。」
「全員まとめても、瓦礫のような紙くずだ。」
拾い上げた破片を指先で弄びながら、
その濁った声で、呟いた。
「人類という種は──」
「自らを“万物の霊長”などと呼び、」
『知恵ある者が生き残る』なんて、都合のいい理屈で、
他の生命を切り捨ててきた。」
「だが俺にとって、生存そのものは価値ではない。」
「他の生命に、いかなる恩恵をもたらせるか──それが全てだ。」
「共存を学ばぬ知性など、」
「ただの煌びやかな病原体に過ぎない。」
それを聞いた空狩は、静かに頭を垂れる。
「御意。心得ました。」
そして、煌びやかな馬少女のような美貌の魂狩 ミロ(こんしゅ ミロ)が、
少しだけ肩を落としつつ、胸を張って、
俺をチラリと見やる。
「はぁ……まったくもう。」
「わかってるってば……それがあなたのご意思でしょう?」
「でも、一応聞くわよ。」
「気が進まない任務だし、」
「あの女──私の心の中じゃ、とっくに死んでるから。」
「だから、こう言い聞かせるの。」
「“ご命令は、絶対”。」
「そうよ、主狩さま。」
ミロはふっと目を伏せ、
ひと呼吸おいてから──
「……無念大人。」