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よろずやひばりの守部奇譚  作者: るびん
奇譚2:生物室の怪と狐のたそがれ
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チャプター2:人体模型は笑わない

近頃学園で噂になっている生物室の怪、夕方になると人体模型がひとりでに動き出すという。ついに藍音のクラスメイトが襲われたこともあり、彼女は紫宿に解決を依頼する。しかし彼が言うには勝手に動いてはいないとのこと。そして仮説を述べるのだが・・・

「どうだった?」

「ああ、色々聞き込みをしてみたが、その結果はほとんど俺の予想通りだ」

「・・・」

「どうした?」

「いや、なんだかんだでやっぱり紫宿ってすごいんだな~って」

「おまえ、まだ俺のこと信じ切れてないのか?」


 放課後、並んで生物室に向かいながら話している紫宿と藍音。


「生物室か・・・」

「ん、どうした?」

「いつも使う時は普通に席に着いて皆と授業を受けるだけだからなんともないけど、よく考えたら不気味なところなのよね・・・」

「そうだな。人体模型だけじゃなく色んな標本だってあるし、ホルマリン漬けなんかもあるな」

「うぅ・・・」


 紫宿の言葉にまざまざと生物室の中を想像してしまい、少々腰の引けた藍音。


「着いたぞ」

「う“っ」


 しかし心の準備が出来る前に生物室に辿り着く。

 と、そこで不意に声を掛ける人がいた。


「雲雀っ!」

「ん?」

「え?」


 急な背後からの怒鳴り声にも似た、そしてキンと金属が鳴ったかのような鋭い声。

 紫宿と藍音は自然とそちらを振り向いた。


「雲雀っ!せっかく私が教室まで赴いたというのに、いないとはどういうことですのっ!?」

「・・・また面倒な人が」

「知り合い?」

「ああ、厄介な先輩だ」


 そう言われて相手をよく見てみると、確かに女子用制服のリボンが紫色だ。しかし小柄で、一年生がリボンを忘れて姉に借りたと言っても通用しそうだ。

 だが強気な瞳と流れるような二条の髪は美しく、なかなかの美少女に見え、そして纏う雰囲気と口調から、どこかの令嬢ではないかと思わせる。

 そう、この子は先日喫茶ひばりに客として来ていた常連の子だ。


「先輩、俺は先輩が来るなんて知らなかったんだから」

「あなたもよろずや店長を名乗るなら、そのくらい察しなさいな」

「えと、無茶苦茶な人ね」

「だろ?」


 そのまま先輩は腕を組んでツカツカと歩み寄ってくる。そして彼らの目の前で立ち止まると、ビシッと紫宿を指差して言う。


「依頼しますわ!」

「・・・また?」

「また?とは何ですか。依頼人を無下に扱って、それでもプロと言えますの?」


 紫宿なら依頼人を無下に扱うなど決してしないだろう、しかしこの先輩の場合は話は別だ。これまで数え切れないほど依頼・・・それも、大半がなんてことのないものだったのだから。

 クラスメイトが無くした消しゴムを探せだの、近所で噂の変質者を捕まえろだの、現在はほとんど使われていない地域の公民館が掃除もロクにされていないから手伝え、などだ。

 最も依頼などと言えなかったものは、ちょっと大きな買い物をするから荷物持ちをやれ、というものだった。

 この先輩は可愛らしい外見から結構人気があるのだが、紫宿からするとこの人は高飛車でわがままで噛み付いてくるような物言いで、更に紫宿を少しライバル視しているようなところもあり、”その正体”を知っている彼からするともうどうしようもない。そうクラスの友人たちに愚痴ることもあるのだが、誰もそんな先輩の姿は見たことが無いと言って信じない。それどころか、先輩は紫宿の事が好きなのだ、とからかわれる。

 もちろん紫宿だって嫌いではないのだが、毎回毎回振り回されるのは堪ったものではない。

 だが、そんな先輩は意外に面白くもある。


「で、どんな依頼?」

「ふふん、聞いて驚きなさいな。あまりにすごい依頼に、涙を流して喜ぶべきですわ」


 なんとも大げさに胸を張る。

 しかし紫宿はこれにも慣れているのか、溜め息だ。

 ちなみに藍音は、このテンションにすでに付いていけていない。


「生物室の怪を解決なさいませ!」

「・・・は?」

「聞こえませんでした?生物室で最近話題になっている、人体模型が動くということで怖がっている方が幾人もいらっしゃるのです。これを放っておくことなど出来ませんわ、正義の名の元に、正式に雲雀に依頼します。一刻も早く解決なさい!」


 自慢げに一気にまくし立てた。

 しかし少しの間の後、紫宿は大笑いをする。

 いきなりそんな風に笑われては相手だって怒るだろう。


「な、何がおかしいのです!?」

「だって・・・先輩、なんで俺たちがこんなところにいると思う?」

「こんなところ・・・?」


 紫宿を探し出すことに夢中で今自分がいる場所が分かっていなかったのか、彼の指差した教室のネームプレートを見て一瞬固まる。だがすぐに気付いたのか、顔を真っ赤にした。


「な、なな・・・ま、まさか・・・・・・っ!」

「そ。依頼とはちょっと違うけど、ここにいる藍音に話を聞いてさ、調査することにしたんだよ」

「・・・・・・っ」


 先輩は更に真っ赤になる、まさに茹で上がったタコ並に。とはいえ、それもまた可愛らしいのであるが。


「し、しかし!正式な依頼ではないのでしょうっ!?」

「まあな」

「では私が依頼しますわ。もちろん依頼料も払います、それならば文句は無いでしょう?」

「はは。分かった分かった、それでいいよ」

「なんですのっ、その人を小馬鹿にしたような物言いはっ!」

「してない、してない」

「ああもうっ!」


 怒髪天を突くというばかりに怒り浸透、じだんだを踏んでいるかのように怒鳴り散らしている。そしてそのまま勢いをつけて身を翻そうとしたのだが。


「きゃんっ!?」


 ドターンッ!


 自分の足に絡まって思いっきりすっ転んだ。


「あうぅ・・・鼻打ったぁ・・・・・・」


 その通り、先輩の鼻は真っ赤になっていた。相当痛いのだろう、涙目になっていたが、大きな怪我はしていないようだ。


「ほら、先輩」


 手を差し出す紫宿、その表情は必死に笑いを押し殺しているものだ。


「あぅ・・・ありがとうございます」


 その手を取って立ち上がる。そして制服についた汚れを払い落とすと、紫宿に向かって告げる。


「こ、この事は、決して口外なさらないで下さいませね!」

「分かってるって。いつものことだし」

「い、いつものこと・・・?」


 思わず尋ねる藍音。


「ああ、実はそうなんだよ」

「・・・面白い人ね」

「だろ?見た目に反してどこか抜けてるんだよな、この人をいじると楽しいぞ」


 こそこそとそう囁き合う紫宿と藍音。

 そこで先輩は初めて藍音の存在に気付く。


「雲雀、そちらは?」

「い、今頃気付いたんですか?」

「やっぱり抜けてるよなぁ」


 もう笑いの止まらない紫宿。さすがに先輩をここまで笑うのはどうかと思われるが、藍音さえも笑わずにいられない程なのだから仕方が無い。

 本来は頭も良く、優秀な人のはずなのだがどうしてか紫宿の前ではドジになる。性格も普段は穏やかで品もあり、優雅ささえも備えているのだが、やはり彼の前では落ち着きが無く先に述べたようなものになり、表情もコロコロ変わる。


「こいつにはうちでアルバイトしてもらってるんだ」

「月ノ宮藍音です。よろしく、先輩」

「な・・・ば、バイトですって!?雲雀、どういうことですのっ!?」

「ど、どういうことって?」


 急にまた怒鳴り散らす。もちろんそれがどうしてなのかは紫宿にも分からず、いつもと少し違うその勢いに思わずたじろいだ。


「前に私が手伝いましょうかと申しましたら、遠慮なさいましたでしょう?」

「ああ、そういえば」

「それなのに、彼女にはお願いして・・・どういうことですの?」


 少しだけ先程までとは違う怒り方だった。それを紫宿も感じ取ったのか、なだめるようにして言う。


「だって、先輩は三年だろ?大学受験とかあるじゃないか」

「う・・・そ、そうですけれど・・・」

「なのに働いてもらったりしたら悪いよ。そりゃ先輩がアルバイトをしてくれたら大助かりだったけど、それで先輩に迷惑が掛かるのなら、俺は御免だ。そうするくらいなら、俺が苦労する方がよっぽどマシだよ」

「雲雀・・・・・・」


 しばし怒りは収まらないかに見えたが、溜め息を一つ吐いて顔を上げると、その表情は平静を取り戻していた。


「ふぅ、あなたはそういう方でしたわね・・・」

「え、何?よく聞こえなかったけど」

「なんでもありませんわ」


 今度は急にニッコリ笑ってみせる。

 それは紫宿の言うところの社交モードだ。


「よろしく、月ノ宮さん。私は雪月花 速梨ですわ」

「せつ・・・キャラクター通り、すごい名前・・・」


 もちろんその藍音の呟きは小声で、速梨には聞こえていない。

 彼女が差し出した手にしっかりと握手をした。


「ちなみに、この人が俺以外にも霊能力を持つ人の一人だ」

「えっ・・・」

「ひ、雲雀っ!それは他言無用と!」

「藍音は大丈夫だよ、先輩。守部のことも知ってるし」

「はあ、あなたがそう言うなら・・・」


 なんと速梨も紫宿同様の力を持っているということに藍音は驚いたが、先ほどまでのやりとりと紫宿の言葉から、この人は信頼に足ると思った。


「じゃあ、雪月花先輩も守部なんですか?」

「違いますわ。私は近くの神社に住み込みで巫女の仕事をさせていただいております」


 紫宿が藍音にさらりと霊能力があることを明かしたことに戸惑った速梨であったが、彼女が守部のことまで知っていること、紫宿が大丈夫だと言ったことに胸を撫で下ろしたのか、お互いに簡単な自己紹介をした。


「ちなみに、先輩なら霊能力で人体模型程度を操るのは造作ないよな」

「な、何を言っているのですかあなたは。そんなことするわけないでしょう・・・出来ますけど、というか操作系は得意分野です」

「え、じゃあ先輩が犯人なんですかっ?」

「そんなわけないですわーーーっっ!!」


 再度顔を真っ赤にして怒るも、紫宿と藍音は笑っている。見事な連携プレーだった。

 そしてとどめと言わんばかりに紫宿が続ける。


「ところで速梨先輩、どこに行くつもりだったんだ?」

「え?」

「さっき方向転換して転んだろ?どうしてだ、速梨先輩はいつも依頼には同行するじゃないか。だったら生物室はここだぞ」

「・・・そ、それは・・・えっと・・・き、気分ですっ!」

「気分?」

「え、ええ!ちょっと向こうに歩いてみたくなったのですわ」

「なんで?」

「う・・・え、ええと・・・そ、そうですわ!あちらで桜が舞ったように見えましたので、不意に追ってみたくなったのです」

「い、意味不明ね・・・今、夏だし・・・」


 藍音が速梨の言い訳に呆れたように笑う。

 紫宿は彼女の苦しいにも程がある言い訳に大笑いしながら、さすがにこれ以上いじめるのは可哀相かなと思った。


「まあ、先輩で遊ぶのはこれくらいにして」

「なんですって雲雀っ!?」


 毎度毎度こうなのである。

 紫宿は、からかえばからかうほど慌てて意味不明な言い訳をするこの先輩をいじめるのが楽しくてしょうがない。そしていつも最後までその事に気付かない速梨なのだ。


「さっそく調査を始めようか」

「う、うん・・・」

「むぅ・・・なんかはぐらかされた気もしますけれど、よろしいでしょう」


 だがそこで肝心なことに気付く藍音。


「あのさ、鍵は?」


 そうである、基本的に特別教室は鍵が掛かっている。そもそも標本などを始めとした貴重なものが納められているのだ、それは当然だろう。しかし、紫宿が職員室で鍵を借りたような節は無かった。


「ふふ、心配ない。俺を誰だと思ってる?」

「え?何言ってるの、紫宿?」

「雲雀、鍵が無くては中に入って調査など出来ませんわよ?」

「二人共、まだまだ俺のことを分かってないな」


 そう言って懐から何かを取り出す。


「それ・・・針金?」

「ま、まさか雲雀・・・」

「その通り」


 カチャカチャ


 もうお分かりだろう、紫宿はその針金を扉の鍵穴に差込み、何やらカチャカチャと始める。それはそう、さながら泥棒だ。


「ちょっと紫宿!?」

「な、なんてことをなさるのですか!?」

「あと少し・・・よし」


 カチャリ


「う、嘘・・・・・・」

「開きましたわね・・・」

「守部たるもの、これくらい朝飯前なのさ」


 絶対に違う、そう思った藍音と速梨だった。


 ガララ・・・


 やけに大きな音を立てて開かれる生物室の引き戸。中は不気味なほどに静かだ。


「ちょっと暑いな」

「当たり前ですわ、この暑い日に閉めっきりだったのですから」


 部屋の中はなんてことはない普通の生物室。授業で使う黒板はそろそろ新しいものに変えた方がいいのではと思われるほど白くくすんでいる。その教室の後ろの方には、棚に収められた標本、ホルマリン漬けにされた生き物の入った瓶、何に使うのか分からない不思議な器具などがものを言わず立ち並んでいた。


 ぐっ


「ん?」


 急に制服を後ろに引っ張られた紫宿。

 はてなんだろう、と振り向く。


「あ、あはは・・・ご、ごめん、掴ませて・・・」

「べ、別に怖くなんかありませんわよっ!た、ただ、ちょっと不気味なだけですわ・・・」


 藍音と速梨が腰の引けた様子で彼の制服を握りしめていた。確かにその気持ちも分かる、それだけ音の無い生物室とは不気味なものなのだ。しかし、紫宿にとっては昼間から何を怖がっているんだか、である。

 そして二人が彼の制服を引く力は教室の後ろ、すなわち人体模型に近付けば近付くほどに強くなってゆく。


「あのさ、さすがにそんなに引っ張られると調査しづらいんだけど?」

「そ、そんなこと言われても、怖いんだからしょうがないでしょ~?」

「こ、細かいことを気にしないで下さいなっ!」

「はいはい・・・」


 仕方なく、怖がりながら怒っている二人を背中にくっつけたままで調査に取りかかる。


「・・・間違いなく、何も感じないな」

「そうなの?」

「ああ、先輩もだろ?」

「ええ。誰かに操作された霊力の痕跡も感じないですわ」


 そして、紫宿はまず模型の頭を軽くこんこんと叩く。次に模型とそれを支える棒をつないでいる留め金をいじった。今度はしゃがんで模型の足元を指でなぞる。


「やっぱりな・・・」

「何か分かったのですか?」

「分かったというより、思った通りってトコだな」

「?」


 紫宿の言葉の意味が分からない藍音と速梨は顔を見合わせる。


「怖がらずに良く見てみな。確かに動いた形跡がある」

「えぇっ!?」

「ひっ!?」


 そんな風に言われて、今度は紫宿の制服を掴むどころか彼に直接抱きついた二人。

 普通なら役得と思うところかもしれないが、これは仕事だ、紫宿はちっともそんな感情は持たないでいた。

 代わりに、二人に向かって冷静に言う。


「落ち着けって二人とも。確かに動いた形跡はあるけれど、それはこいつが自分で動いたものじゃない・・・”誰かが動かした”ものだ」

「・・・え?」

「それは、どういうことですの?」

「まず、留め金が緩い。つい最近に何度も外したからだろうな」


 そう言って留め金をくるくる回して取ってみせる紫宿。


「ホントだ、手で取れた・・・」

「ああ。それに、足元だ。自分で動いた、または霊能力で操作したかにしては足の周りの埃の積もり方が変だ」

「なるほど、まるで引きずったかのように埃の無い部分がありますわね」

「そういうこと。自分で足を動かしたのならこんな風にはならない」


 さすがに人体模型の周辺まで掃除を丁寧にするのは当番の人たちも嫌だったのだろう、足元は目で見ても微かに分かるくらい埃が積もっている。

 そこを人体模型から一直線に、引きずったようにして埃の無い部分が線を描いていた。

 それらが意味するものは、紫宿でなくとも分かるだろう。


「じゃあ、人体模型の噂は誰かがこれを動かして作ってたってこと?」

「そういうことになるな。全く、人騒がせな」

「しかし、何のために?愉快犯ですか?」

「それも目星は付いている」

「え・・・?」


 プルルルルルルッ!


「ひやぁっ!」

「きゃあぁっ!?」


 ダダダダダッ!


 突然鳴り響いた音に、脱兎のごとく教室の前方へと逃げ出した藍音と速梨。


「ただの電話だってば」

「ま、マナーモードにしといてよっ!」

「そうですわっ、学園内ではそうしておくべきですっ!」

「今は放課後だっての」


 共に大きな瞳に涙をいっぱいに溜めて叫んだ。

 やれやれ、と紫宿は溜め息をつきながら携帯電話に出る。


「よう、どうだった?」

『カルテは紫宿の言った通り、ズバリだったわよ~』

「ん、そうか。サンキュ」

『まったく、ドラマ見てる最中だったんだからね~。あと少しで犯人分かったのに・・・』

「分かった分かった、帰りに駅前のクレープ買ってってやるから」

『じゃあ許そう』

「このヤロウ、食べられる事が分かったからって現金な・・・」

『なんだよ、その口の聞きよう。お姉ちゃんだぞ~っ』

「はいはい。分かりましたよ、お姉様」

『なんか馬鹿にされてる気がするな~・・・まあいいわ、ちゃんとクレープ買ってきてよ?』

「了解。それじゃな」

『ちょ、ちょっと待ったぁ!出番これだけ~!?』

「ああ」

『じゃあ~、物に触る時は実体化しなきゃだから、カルテを手に取る時に周りに見つからないように見計らって実体化したりの、病院への潜入捜査さながらの大活躍は~!?』

「割愛」

『にゃ~~~っっ!!』


 ピッ


 電話を切る。

 それと同時に恐る恐る近付いてくる藍音と速梨。


「い、今の、泉さん?」

「ああ。ちょっと頼んでた事があってな、それの結果を電話してくれたんだ」


 電話の主を知り落ち着いた二人を連れて生物室を出ると、入る時と同じように針金でカチャカチャと鍵を掛ける。


「これ、誰かに見られたらヤバイですよね・・・」

「ですわね。フォローし切れない光景ですわ」


 幸い、今は放課後なのでほとんどの生徒はすでに帰宅や部活にと足を運んでいたためか、誰にも目撃されることは無かった。


「さ、行くか」

「行くって、どこへ?」

「病院」

「雲雀、どこか悪いのですか?」


 紫宿の返答に、心配そうな表情になる藍音と速梨。だが、どこをどう見ても彼は健康そうで、とてもではないが病院の厄介になりそうな様子ではない。すでに先日の依頼で負った怪我もほとんど完治し、額に絆創膏を一つ張っている程度である。

 紫宿は的外れなことを考えている二人をおかしく思ったが、自分を心配してくれていることも同時に分かったので優しく微笑んで言った。


「俺がどうしたじゃないよ。この一件の張本人を咎めに行くのさ」

「張本人?」


 それ以上は教えてくれない紫宿に、またしても顔を見合わせる藍音と速梨だった。

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