異名持ちの縛り
「見たか?これが、【異名持ち】の力さ!」
暗殺姫は大げさに両腕を広げながら笑って言った。
「声に出ないぐらい驚いた?でもこれは、異名持ちの中でも特殊。安心して」
暗殺姫はニヤニヤしながら、尻もちをつく人魚に目線を合わせていった。
ほどなくして、暗殺姫のウィンドウにはWINNER、人魚のウィンドウにLOOSERの文字が表示された。
「ほらほら、早くいかないと怒られるぞ」
上空にいた魔術師がウィンドウを確認しながら地面に降りてきた。
「怒られるって、誰にですか?」
「ん?あー、いろんな人。これから、異名持ちの注意事項とかを聞いてもらわなきゃいけないんだ」
「注意事項?」
そーそーっと暗殺姫は続けた。
「異名持ちになると、今までのルールから外れるんだ。異名持ちが誕生したら捕まえて、重要なルールを伝えることが異名持ち内で決まっているんだ」
「くっちゃべってないで、歩けよぉ」
魔術師がたまらず口を開いた。時間がないんだと。暗殺姫はごめんごめんと軽く謝り、人魚の手を引っ張て立たせた。続きは歩きながら、と。
「軽いのだと・・・そうだ、マーメイド君。君のプレイヤーネームは?」
人魚は何を言っているんだ、という顔をした。それから口を開き、止まった。そして、どんどん顔が青ざめていく。
「ま、そういう関係のことだ」
ついに来てしまった。人魚が絶対に縁のないと思っていたところ。クラン【攻略組】のホームハウス【城塞】。第一大陸ファースティア第二の都市セカールを代表とする場所だ。
さあ、いくぞと魔術師に声を掛けられ、真っ白な【城塞】に見惚れていた人魚は慌てて魔術師を追いかけた。暗殺姫は、城塞につく前に、じゃ、またね!と手を振って消えてしまった。その時の魔術師の顔は、怖かった。とても。
魔術師は城塞の門番に近づき、ウィンドウから紋章を提示した。紋章は紫色で本とエルフの横顔が書かれているものだった。
門番は、広範囲魔術師様、ようこそいらっしゃいましたといい、門を開けた。
門をくぐり、城塞の建物内に入った。城塞内を歩いている間、何人かとすれ違ったが、みな忙しそうに早歩きで去っていく。
やがて、建物内で一際大きく、豪華な扉の前についた。扉には、翼の生えた獅子が向き合っている絵が彫られていた。
「広範囲魔術師様。ようこそいらっしゃいました。みなさまお待ちでございます」
豪華な扉の前に立っていた、蝙蝠の翼をもつメイドが挨拶を述べ、扉を開いた。扉の中は、大きな机が一つに、その周りに並ぶ椅子とそれに座る人。何より目を引くには、正面にある巨大な翼の生えた獅子の像。たしか、【攻略組】の象徴だったか。その獅子の目の前の椅子に座る、一際オーラを放つ存在が口を開いた。
「【陸に上がれる人魚】君。緊張しているのかい?取って食ったりしないから、座りたまえ」
ニコッと笑い、強者は言った。人魚の隣にいたはずの魔術師は、強者の隣の椅子に座っていた。
「し、失礼します・・・」
音をたてないように、強者の機嫌を損ねぬように、そっと人魚は座った。
「よし、主役は揃ったね。メイメイド、始めてくれ」
「承知いたしました」
強者のが声をかけると、先ほどのメイドが人魚の隣に立ち、口を開いた。
「それでは、第156回【異名持ちの会合】を開催いたします」