大乱闘2
そこには、空中に浮かび呪文を唱える【広範囲魔術師】がいた。
「え、ウィズイズ、本当に来たの!?」
暗殺姫は思わず声に出した。前世でも今世でも、行けたら行くって言って来たヤツは初めてである。
「おまえが来いって言ったんだろ」
「とりあえず、君のことは私の歴史に刻んでおくよ」
「何をだよ!」
ガルドはわーわー言い合っている暗殺姫と広範囲魔術師を尻目に、船員に指示を出した。今がチャンスだと。
再度、砲台から鉛玉が飛び出した。
「闇の追跡、月光からは逃れられずに、ただ朽ち果てよ【月光の追跡】」
広範囲魔術師は瞬時に呪文を唱え、彼から放たれた白い矢が全ての砲撃を空中で撃ち落とした。そして、最初に唱えていた呪文の詠唱を開始した。そう、途中から。
普通の魔法使いは、呪文の詠唱を途中で停止させると途中まで練り上げられた魔力が暴発し、魔法発動は失敗に終わる。広範囲魔術師は、練り上げられた魔力を卓越した魔力操作と膨大な魔力で詠唱を中断、再開させたのだ。
「こ、これが・・・。これが【異名持ち】・・・」
人魚は思わずつぶやいていた。本当に自分はあのような化け物と同じ壇上に上がってしまったのか。
詠唱が進むにつれて漆黒の隕石が天上を覆っていく。今生き残っている【海賊ギルド】たちは、呆然と天を仰いでいた。
「おおっと、ヤバいな。マーメイド君はどこだー・・・。いた!」
隕石の状態を確認した暗殺姫は、魔法発動までの時間が短いと感じ、人魚の確保に向かった。人魚は海賊船の甲板にいる。暗殺姫は人やその場に置き去りにされたテーブル、桟橋を飛び、駆け抜けて人魚の背後に降り立った。
「んじゃ、船長さん。マーメイド君借りてくね」
暗殺姫は人魚を小脇に抱えて、ガルドに向かってイェイ!とピースをした。そのまま、甲板から飛び降りた。
「ンおおおおおぉ!!!!」
「ひゃっほー!!!」
ぶつかる!っと思い、情けない声を上げる人魚に対し、楽しそうに笑う暗殺姫は対照的だった。
音も立てずに地面に降り立った暗殺姫は人魚を離した。
「いいかい、これから見るのはネームド最高峰の技と技のぶつかり合いだ。そうそう見れるもんでもないし、しっかりと見とけ」
それから私から離れるなよ、と言い、暗殺姫は人魚に背を向けて広範囲魔術師に相対した。
「・・・これが闇を司る神の権能。邪神よ、力を見せつけろ!どうしようもなく穢れたこの世界に!【終焉の黒隕】!」
天を覆うほどの大きさの隕石が眼前に迫ってくる。人魚は死を肌で感じた。人魚は目の前に迫る隕石にどうすることもできず、すがるように暗殺姫を見、凍り付いた。暗殺姫は死を恐怖するわけでなく、喜々として、笑っていた。
暗殺姫はさあ来い、と両手にプラスドライバーとマイナスドライバーを構えた。
そして、轟音とともに隕石は地面に落下した。
人魚は物凄い衝撃波が近づいてくるのを見た。もう終わりだ。と目をつぶろうとした時。
「ちゃんと見とけよ?大丈夫だから」
その言葉にハッと目を開くと、隕石の衝撃波をマイナスドライバーとプラスドライバーでパリィしている暗殺姫がいた。
意味が分からない。衝撃波など、パリィできるものか。
しかし、現実は違わない。明らかに、衝撃波を物理ダメージとみなしてパリィしているのだ。
人魚は思わず、その繊細なプレイヤースキルに目を奪われた。
どのくらい時間がたっただろうか。数分、いや、数秒だったのだろう。衝撃波の全てを捌き切った暗殺姫が振り向くと同時に轟音が通り過ぎて行った。
「見たか?これが、【異名持ち】の力さ!」
暗殺姫は大げさに両腕を広げながら笑って言った。