大乱闘1
海エリア【絶海】の最南端に位置する島、ノートス島は【海賊ギルド】の拠点として使われている。
ノートス島の北に船着き場があり、そこではパーティーが行われていた。
「異名持ち【陸に上がれる人魚】誕生を祝ってぇー、乾杯だあああ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」
海賊ギルド長、船長ことガルドは、集まった船員と共に酒を煽っていた。あちらこちらから船員の、遂に、ネームドギルドになることの嬉しい悲鳴が聞こえてくる。
とても気分がいい。船長であり、ギルドマスターである自分がネームドになれなかったことだけは残念だが。
「やったな、【陸に上がれる人魚】!」
「まさか、アンタがネームドになるなんて思わなかったよ」
「マーメイド!今度また一緒に海中探索行こうぜ!」
「異名で呼ばないでくれよ、恥ずかしい・・・」
【陸に上がれる人魚】は、いつも一緒に探索している仲間と楽しそうに談笑していた。
ガルドは甲板から船長室に戻り、ずっと大事にしまっていたワインを開けようとしたとき、声をかけられた。陸に上がれる人魚だ。
「船長、こんなに大々的に祝ってもらえるなんて、うれしすぎます!」
笑顔で声をかけた青年は、青い髪の中世的な顔立ちで、女の子と見間違えるほど可愛らしい。思わず恋をしてしまいそうだ。相手もガルドも男だが。
「おう、かっこいい異名をもらってよぉ。まったくうらやましいぜ」
ガルドは【陸に上がれる人魚】の後ろに回り込み、肩に手をまわした。
もう、酔ってますね。とつぶやいた人魚は、悲しそうな顔をしながら言った。
「僕のことを【陸に上がれる人魚】って呼ぶのやめてくださいよぅ。某歌のパクリみたいだし、ダサいし、生足って、恥ずかし過ぎますぅぅぅぅぅぅ!」
「なんでだよ、かっこいいだろ?」
平然とかっこいいという俺を見て、人魚は宇宙人を見たかのような顔をした。
「かっこいいの感覚、陸に置いてきたんですか?」
「おい、船長に向かってぇ・・・」
言葉を続けようとした瞬間、大声が鳴り響いた。
「ピンポンパンポーン!えー、【海賊ギルド】の諸君。大人しく、【陸に上がれる人魚】君を渡してくれー。ほんの、一日程度だから。【陸に上がれる人魚】君、聞こえてるよねー?君に話さないといけないことがありまーす!!繰り返すー・・・」
「せ、船長!ヤツです!【暗殺姫】です!」
船員は船長室の扉をノックもせずに開いた。
船員に連れられてガルドと人魚は甲板に出ると、祭り会場のど真ん中で、船員たちの攻撃を華麗に避けながら話し続ける【暗殺姫】を見つけた。
「暗殺姫!自分から首を差し出しに来るとは、こっちの手間が省けたわ!感謝する!」
「首を渡しに来たわけじゃないぞー。早く、【陸に上がれる人魚】を出せ。」
「てめえになんか、大切な仲間を渡すわけねぇだろうが。決闘だ!」
暗殺姫の目の前に、決闘のウィンドウが表示された。
内容は、【海賊ギルド】VS【変人クラン】。海賊ギルド勝利時は暗殺姫の首を、変人クラン勝利時は人魚の身の受け渡し。
どう考えても勝利条件が釣り合ってないが、決闘を承認した。
「クランに喧嘩売るとは、いい度胸だな」
「クランをつぶしたギルドになれるとは、ネームド誕生も含めていい日和だぁ。おまえら、大砲の用意!」
「あいあいさー!!」
慌ただしく大砲の準備を始めた海賊たちを横目に、暗殺姫はクランメンバーにチャットを飛ばした。
「海賊ギルドと決闘。対複数戦だからヘルプ」
「おまえ、また喧嘩売ったのかよ。オレは剣仕上げ中だから無理」
「行けたら行く」
暗殺姫は迫りくる海賊刀を避けながら思った。
鍛冶をしている【神匠】はともかく、【広範囲魔術師】のいけたらいくはどうなのか。来る気ないだろ、それなら行かないとはっきり言ってくれ。それに、【性なる騎士】に至っては既読もつかない。さすが【性なる騎士】。きっと、おなごの家で遊んでるんだろう。
「大砲よーい、撃てぇぇぇい!!」
「あいあいさー!!」
海賊船から大砲が撃たれる。暗殺姫は砲撃の間を駆け抜けて交わした。大砲の次の充填に入った時、次に魔法が飛んできた。
「魔法でヤツの動きを制限しろ!対人部隊、首をとれ!」
「あいあいさー!!」
魔法の攻撃で舞った土煙が消えると、暗殺姫の周りは海賊たちに囲まれていた。海賊たちはみな、ニヤニヤと獲物を追い詰めたといわんばかりの顔をしている。
海賊たちはそれぞれの武器を構えながら襲い掛かってきた。
数を減らさなきゃ、どうしようもないな。暗殺姫は避けるだけでなく、攻撃に打って出ることにした。
暗殺姫は、頭上から振り下ろされた海賊刀を一歩踏み出て避け、避け際に今日の業物プラスドライバーを急所の右わき腹に叩き込んだ。クリティカル音が鳴り、刺された海賊は粒子となって消えた。
一歩前に出たところに、大剣が横なぎに通り過ぎた。飛んで大剣を避けた暗殺姫は、さらに飛んできた矢を両手に持ったプラスドライバーとマイナスドライバーで、空中で弾き飛ばした。そのまま空中で身をひねり、真下にいた海賊の眉間を貫いた。粒子となっている中を通り、次の海賊の心臓を突き刺した。暗殺姫は海賊たちを手玉に取るように、一切のダメージを受けることなく海賊を消していった。
ただ、時間かかるな。陸上の後は船上の魔法使いたちに船長が待っている。これじゃ、日が暮れちゃう。こういう時に、あの【広範囲魔術師】がいれば早いのだが。
「大砲部隊、準備でき次第撃ちまくれ!!!」
「うぇ、味方もろともかよ。」
暗殺姫は悲鳴を上げながら逃げる海賊に紛れ、走り抜けて避ける。すると突然、正面から真っ直ぐに剣が突き刺された。暗殺姫は首をひねり、間一髪避けた。
「ほぉーん。海賊ギルドにも暗殺者系がいたんだ。この混乱に乗じて殺りに来るなんて、プロを名乗れるよ」
「くそ、逃したか・・・」
暗殺姫は才能ある後輩の首を飛ばし、船に向かって駆けた。この大砲の嵐ならば、そのうち陸上部隊は全滅するだろう。
「闇夜に現れる、漆黒の天使。彼は我らに終焉を告げる・・・」
暗殺姫は聞き覚えのある声に走るのをやめ、天を仰ぐ。そこには、空中に浮かび呪文を唱える【広範囲魔術師】がいた。