始まり
白い狼の耳と尻尾、毛皮のフード付きコート、烏天狗の面を付けた和服の人物は、水たまりに倒れて動かない標的を観察していた。
左手に持った依頼書の内容と、標的の安置の仕方が間違っていないかを入念に確認していた。
裏の世界では、実績が大切。いくら名のある【白い死神】とはいえ、依頼どうりに殺さなければ評価が落ちてしまう。
依頼との齟齬がないことを確かめ、その場を離れようとした。
その時だった。
除夜の鐘のような音が鳴り響いたのだ。10回以上鳴り響いた後、運営の言葉である世界からの通告が始まった。
『これより、この世界“Free-Game!!!!”は【セカンドモード】に移行する。新たに、異名持ちの実装を開始する。詳しくは、人生の手引書を確認せよ。』
世界からの通告は、”Free-Game!!!!”の運営がこの世界の神になりきっているもので、上から目線な物言いが多い。
通常はイベントの告知やアップデート情報などをこの世界中に通達するものなのだ。なにか、いつもと違う感じがする。感覚だが。まあ、【セカンドモード】が新イベントで、通知が行われただけだろう。
そんなことを考えつつ、仕事現場から走って離れた。すぐに警察ギルドが感ずいて、鬼ごっこが始まってしまう。
【白い死神】は路地に置かれたゴミ箱を踏み台に、屋根の上にあがって駆けた。
屋根から屋根に飛び移ろうとしたときに視界が揺らいだ。ゲーム本体の異常か、それともバグかなどと考えているうちに体が動かなくなり、屋根から落ちた。
地面とぶつかると思い、目をつぶった。しかし、衝撃やデスログなどは出なかった。
おかしいと思い目を開けると、白い空間にプレイヤーが倒れていた。それも【白い死神】を含めて3人。
戦闘服を見るに、【勇者】と【最強の魔術師】だろうか。本名は知らない。【勇者】に至っては関わりたくないため、すぐにこの場から離れるか殺してやりたい。
頭の中でぐるぐる試行錯誤していると、ほどなくして2人の意識も回復した。
そしてその後、この”Free-Game!!!!”の異常の片鱗を見ることになるのだった。