別れ
瀬戸先輩が家に泊まりにきてエッチをした日から数週間が経過した。
あの日から瀬戸先輩は俺のことを「祐二」と、俺は「霞」と呼び捨てにするようになった。
エッチしてからはお互い遠慮しないようになり(霞は最初から遠慮していなかったが)言いたいことを言える仲となっていた。ただ、学校の中でいきなり腕組んできたり抱きついてくるのはやめてほしい。周りからの視線がとても痛い……
毎日が楽しかった。一緒に学校行って、一緒にご飯食べて、一緒に帰って、くだらない話をしたりしてたまにエッチして……そんな生活が続けばいいと思っていた。
しかし、俺の心の中ではあるひとつの疑問が浮かび上がってきた。
好きという気持ち。俺は本当に霞のことを好きなのか?と。
たしかに一緒にいて楽しい。楽しいけど一緒にいても「好き」という感情だけはでてくることがなかった。
それはなぜか?好きだから付き合ったんじゃないのか?と思うが結論に至ってしまえば答えは簡単。
俺が告白の返事をOKした理由、霞が美人でこんなチャンス2度とないと思ったから。
じゃあ、付き合っていくうちに好きにならなかったのか?
それはいまだにわからなかった。
一緒にいて楽しいと思う感情も、友達という関係でも成り立つということ。
エッチにしても、ただしたいからという理由。
好きだからエッチしたと考えることができなかった。
たしかに、彼女がほしいという願いが叶って今彼女がいる。
付き合い始めたときはそのことがうれしく思えた。
しかし、いざ付き合ってみるとなにか足りない?と思うようになってくる。
「好き」という感情。お互いに好きだからこそ、付き合っていけるのではないか?
俺はどうすればいいか悩んでいた。いっそ別れてしまおうか。
しかし、霞と付き合って楽しいことには変わりない。
このまま付き合っていけば俺にも「好き」という感情が表れるかもしれない。
そう思うと俺はなかなか決断することができず、ただ霞と付き合っているだけという生活が続いた。
そして、別れというものは突然やってくるものだった。
付き合いだして1ヶ月がたった日の放課後、霞と一緒に帰宅しているときだった。
急に「公園にいこう」と言い出した霞は俺の家の近くにある小さな公園に向かった。
霞と俺はベンチに座った。が、会話がない。
いつも一緒にいて楽しいと感じていたがこのときばかりは息苦しく感じた。
そして沈黙を破ったのは霞のほう。
「別れよう」
と、ただ一言だけ。理由を聞きたかった。
しかし、その理由の原因は俺にあるのだとはっきりわかっていた。
それでも、霞の口から理由を聞きたかった。
「どうして?」とたずねると霞は泣きそうな顔でこう言った。
「わからないかな?私たち、付き合って1ヶ月たったけど……祐二の口から好きだって言葉聞いたことないんだよ。一緒に話していても、キスした後でも、エッチした後でも。一度も好きって言ってくれなかった。だからわかっちゃった。祐二は私のこと好きじゃないんだなって。」
そう言うと霞は涙を流した。
俺は霞を悲しませた。泣かせた。好きって言わなかったから。
そんなことはわかっていた。好きだと思わなかったから。
じゃあなぜ付き合った?好きでもないのに。
答えは単純。霞が美人だったから。
そんな理由で付き合っていれば傷つくことはわかっていた。それなのに……
「このまま付き合っていれば私のこと、好きになってくれるかなって思ったりもしたけど、これ以上我慢するのは……やっぱり無理……だから、別れよう」
俺はうなずくことしかできなかった。ここで「別れるのはいやだ」なんて言葉を出したら俺はもっと霞を傷つける。
好きでもないのに傷つけたくないなんて都合がよすぎる。
なんでそんなこと思うのだろう。いっそのこと「はいさようなら」といって別れてしまえば気が楽なはずなのに。
その理由も分かっていた。霞と一緒にいると楽しいから。
だがそれは恋愛感情ではない。
言ってしまえば「友達以上恋人未満」。
霞は俺のうなずきを確認すると、一言「ありがとう」と言って公園を出て行った。
俺は泣くこともできない。悲しくないから。悔しくないから。つらくないから。
好きじゃなかったから。ただ憧れだけの付き合い。
じゃあ、好きになればよかったじゃないか?そうも思った。
でも好きって何?好きってどういうこと?好きってどんな感じ?
恋愛経験が少ない俺にとって、その答えはいくら考えてもわからなかった。
公園のベンチでしばらく考えていたが、結局自分が納得する答えはでなかった。