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私の前から消えるまで  作者: もも
1/1

一歩

私は彼氏ができたことがない。

というか好きな人ができたこともない。


高校三年生、どこにでもいる普通の高校生。

ひとつ変わってるところといえば、結婚願望がまわりの友達より強いことだ。

みんな、「彼氏が欲しい!」

とよく言っている。

私も彼氏は欲しい。けど彼氏ができても今の年齢から結婚までいくことなんてほとんどない。

どうせいつかは別れることになる。

けど結婚となればそう簡単に離れることができない。

もちろん付き合ってみたいと思う、けど離れることが怖い。愛想を尽かされるのが怖い。

そんな妄想ばかりしているのに今まで彼氏が出来たことがない。

こんな妄想ばかりしているからか?


中学生の時の私は、

『 高校に入ればきっと友達もたくさんできて、彼氏もできたりして楽しい毎日!』

そう思い込んでいた。

しかし現実はそう甘くは無かった。


高校の入学式、私は、どんな人がいるのか、

高校の部活はどんなものがあるのか。

わくわくしながら登校した。

家から1時間15分かかる、少し遠めの学校を選んだ。

いや、選んだというよりも選択肢がそこまでなかった。

小学六年生の時から塾に通っていたが、勉強が全くできなく、そもそも勉強が嫌いだから授業内容を理解しようともしていなかった。だから成績が良いわけない。全体で見ると下の中くらいだろうか。もしかしたらそれ以下かもしれない。それくらい頭が悪かった。


高校の入学式には、中学が同じだった愛菜と行くことになった。同じ中学校から同じ高校に行く人は私と愛菜しかいないらしい。

ちゃんと話したことがなかったが、意外と息が合った。話も面白い。そういえば愛菜は中学の時、一軍の子と仲が良かったっけ。見た目はそこまでパッとしないのにな。と、無意識に考えてしまっていた。


私は周りの人の目が異常なくらい気になる。

ここで転んだらどうしよう。ここで鳥のフンが落ちてきたらどうしよう。私の視線って今どこ向いてる?相手の方ちゃんと見れてるよね?それ以外にも常にいろいろ考えてしまっている。

そのせいか、相手のことも必要以上によく考えてしまっていた。

そんな子と友達になりたくないと言われるのがオチなのはわかっているから今まで誰にも言っていない。もちろんこの先も言わない。


学校に着き、下駄箱の前でクラス分けの紙を見る。

「何組だった?」と聞かれ、四組だった。と答えると「私も!」と愛菜は少しはしゃいでいた。

知っている人が同じクラスで安心した。それと同時に中学まで陰キャだった自分を変えたいと思っていたけど愛菜は中学の時の私を知っているから自分のキャラを変えたりできないな。と思ったり、中学が一緒というだけで愛菜は私と一緒にいることになるんじゃないか?それでいいのか。と少し心配になった。


四組にはいじめも人の悪口を言う人もいなく平和だった。愛菜とも仲良くなり楽しかった。

入学から一週間が経ち、部活動紹介の紙が配られた。中学の時はテニス部に入っていたが、どんなに練習しても上手くなれなかったから高校では別の部活に入ろうと思っていた。

そこで目についたのが野球部のマネージャー。

お父さんが夏の甲子園へ行く時に私も一緒に連れて行ってもらってたら自然に野球が好きになった。

見るだけでは物足りず、自分も野球がしたいと思い、小学校四年生から六年生まで男の子に混ざって野球チームに入っていた。

中学でも野球を続けたかったけど

「男に混ざってスポーツなんておかしい!」と

からかわれたことがあり、もうやらないと誓った。

けどマネージャーなら、からかわれることもないだろうし、と少し悩んでしまう。

入りたいと思ったけど、過去のトラウマがあり、私が入る場所じゃない。と、その時は言い聞かせた。

しかし自分がなりたかったものをいざ目の前にすると、少し迷ってしまう。

やっぱり入ってもいいんじゃないか?他の誰よりも頑張って役に立つようにすればいいんじゃないか?と、考えているうちにそう思ってきた。

休み時間になり愛菜が私の席に来る、思いきって

「私、野球部のマネージャーしてみたいんだけど、どう思う?」と聞いてみた。

「合ってると思う!なんか想像できる、、やってみなよ!」

愛菜は、バカにすることもなく真剣にそう言ってくれた。


その日の放課後、職員室に行き、野球部の顧問の先生に部活の見学をしたいと頼んだ。

顧問の先生は、「今日はちょうど部活が休みだから、明日から入部体験の期間ならいつでもいい。ジャージでグラウンドに集合な。」と言ってもらえた。

「明日行きます。」と答えて職員室を出た。

今日は愛菜が用事があって急いで帰ったから一人で下校する。

下駄箱で靴を履き替えていると、他の一年生の声が聞こえた。

「お前何部にすんの?」

「俺はバイトしたいし帰宅部でいいかなー」

たしかにバイトもしたいよな。心の中で思った。

「俺、野球部入る。」

はっきり聞こえた。

「野球部なんて絶対忙しいじゃん!バイトもできないし全然遊べないぜ?」

「ここの野球部まあまあ強いんだよ。だからここ入ったし、別に遊べなくても野球したいから」

この人は野球部に入るのか。と気になり振り向いた。

向こうもたまたまこっちを見ていたらしく目が合ってしまった。

急いで目を逸らしてしまった、不自然に思われていないかと不安になった。

「ふーん、強いならスタメン入るのも大変だろ。頑張れよ!」

「当たり前だ」

と、声は遠ざかっていった。


私も少し時間をおいて学校を出た。

身長170センチくらいの細身の人だった。あの人も明日来るのかな。気になった。


家に帰って、制服からパジャマに着替えている時に、「お母さん、明日野球部の見学行ってくる」

「野球はもうやらないんじゃないの?またやる気になったの?」

「違うよ!選手じゃなくてマネージャーしたいの!」

「なんだ、てっきり選手の方かと思っちゃった。」

これだけの会話にお母さんは大笑いしてた。


私の両親はどっちも少し抜けている人。その遺伝子を受け継いだんだから、もちろん私もバカだ。


次の日、リュックをパンパンにして家を出た。

何が入っているかというと、中学の部活で使っていたジャージと高校のジャージ。どっちを着ればいいかわからなかったから、どっちも持ってきた。それとお弁当がリュックには入っている。今思うと小学校の時は教科書とノート合わせて10冊は入っていたから随分重かった、よく持てたなとあの時の自分を感心した。

愛菜からは、顧問の先生と話せた?怖そうな人だった?と質問攻めされた。


授業中は適当に先生の話を聞くフリして、いろんな事を妄想する。休み時間は、愛菜と雑談。あっという間に放課後になった。

職員室に行き、顧問の先生のところに急いで行った。しかしもう部活に行ったそうだ。

私も行かなくては、

と思ったが、どこで着替えればいいんだろう。荷物はどこに置く?仮にトイレで着替えたとして、グラウンドに行って先生がいなかったら?考える前に行動をしないと。

校舎裏に行き、野球部の部室の前に来た。

深呼吸して、ノックをする。


コンコンコン


「なんだよ。大橋か?」


ガチャ。ドアが開いた。


「あ、あの野球部の見学がしたくて来たんですけど、、顧問の先生には昨日伝えてあって、けどさっき職員室に行ったらもう部活に行ったっていわれて、どこに行けばいいかわからなくて」


言葉が混ざって上手く喋れない。私が言いたいこと伝わっているだろうか。


「もしかして、マネージャー希望?」


「はい。」


部室からたくさんの人が飛び出してきた。


「名前は?」「どこの中学?」「野球好きなん?」「俺の事どう思う?」


ここは動物園か?それが野球部の第一印象だった。


とりあえず挨拶をしなくては、


「あべです。よろしくお願いします!」


「おい、お前ら騒ぐな!早く着替えてグラウンド行け!」


「大橋遅せぇよ!あとこの子、今日体験の子だって、マネージャー!」


みんな慌てて部室を飛び出し、グローブを持って走っていく。


この人が部長なのか。


「あぁ、今日の朝言われた子か。

齋藤先生から今日の朝、伝えられてるよ。

大橋です。この野球部のキャプテン。

本当ならマネージャー室があるんだけど、鍵どこにあるかわかんないから今日は部室で着替えて!終わったら適当に荷物置いて、喉乾いた時に飲むものだけ持ってグラウンド来て!」


「わかりました!ありがとうございます!」


すぐに走って行ってしまった。


さすが野球部のキャプテン。体格もいいし、人柄も良さそう。


私も急いでグラウンドに行かないと。そう思い、部室を開ける。

想像以上に汚かった。

パイプ椅子が7個と小さめのロッカー、部室の中心に机が6個、机の上にはノート。

1番奥はちょっと綺麗なソファー、だが『喧嘩上等!』と白の筆で書かれている。綺麗なソファーも台無しだ。

端に20個ほどエナメルが置いてある。でもそれほど広い部室じゃないので端に収まらなくて散らばっている。足の踏み場がない。

それでもなんとかコンクリートの床を見つけ机にたどり着き、リュックを置いて着替えた。

荷物をどこに置こうか迷ったが、ドアの近くの取りやすい場所にした。

水筒を持って部室を出た。


グラウンドに行くまで少し遠い、10メートルくらいの坂もある。最近運動をしていなかった私は息が上がる。


グラウンドの入口に立つ。

サッカー部、ハンド部、陸上部、野球部が活動している。

私は野球部の人たちがいる方へ向かった。


顧問の先生が私が来たのに気づき、

「よく来たな」と言ってくれた。

二人でベンチに座って話をした。


「なんで野球部のマネージャーになろうと思ったの?」


「父と毎年甲子園に行ってて、それで野球が好きになりました。私もこのスポーツをもっと近くで見たい。見るだけじゃなくて選手のサポートもしてみたいと思って。」


「どこのチームが好きなの?」


「オリックスです。」


「ふーん。けど野球部って思ってる以上に大変だと思うよ。友達と遊びに行くことも出来ない。バイトも出来ない。週に一回だけ休みがあるけど、それも平日だから自分の時間がなくなると思うし、あとマネージャーは今どの学年もいない。1年生で見学に来ているのも今のところ君だけ。部活に集中できなくなられたら困るから部内恋愛禁止。メイクも禁止。他の人より校則が厳しくなるかもしれない。それでも大丈夫?」


「はい。大丈夫です。」


頭はもう軽いパニック状態。

思った以上に厳しかった。やはり中学でも野球を続けとくべきだった。そしたら厳しさを知れてたのに。

高校生、華のJKを満喫したい。

彼氏ができたら自転車二人乗りして楽しみたい!

友達とも帰り道にタピオカとかクレープ食べに行ったりできないってこと?


てか、まって私、返事しちゃったよね?


「そうか。意思が強くていいな。」


「あ、はい。」


もうここまできたら引き下がれない。

てかずっとなりたいって思ってたじゃん!

引き下がる必要も無い!

そう自分に言い聞かせた。


「他にも一年生が六人、体験に来ているんだ。二、三年生の試合が近いから一年生はまだグラウンドでちゃんとした練習はさせてやれてないけどウエイトとキャッチボールと主に基礎トレーニングを今やってる。このあと、走り込みする予定だからよかったらタイムを計ってくれ。」


ストップウォッチを渡された。

一日目でマネージャーの仕事が出来ると思ってなかったから嬉しい。


先輩達は今バッティング練習をしている。けど視線がこっちに向いている気がする。

その視線に耐えながら、先生と二人でグラウンドを出てピロティに行った。

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