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1章 8

扉が閉まった瞬間、パウラ様は叫んだ。

「どうするのよ!難点を無くすなんて無理よ!

 帯を失くしたら、ヤズマ皇国のアピールにならなくてよ!」


「パウラさん、落ち着きなさい。

 帯自体は好評でしたし、次回はヒラヒラ舞わないように、ドレスに縫い付けて貰えば良いわ。」


 でも、だって、

 二人の結論の出ない会話は続くが、扉の外に控えていた兵とメイドがオロオロしている。

 なんだか申し訳なくなり、二人の意識をこちらに向かわせるためにパンと手を叩く。


 「お二人とも、まずはお部屋へ戻りましょう。」




 メイドに案内され部屋に戻ると、アヤメさんとソウビさんが出迎えてくれた。


 「お帰りなさいませ、アマーリエ様。」

 「お召し替えをさせて頂きます。どうぞ、衝立の後ろへ。」


私とパウラ様も、許可を得て後に続く。

アマーリエ様は何が始まるのかと、少し不安そうにしている。


「テレーゼ様、先ほどの指示通りでよろしいでしょうか。」

「えぇ、お願いいたしますわ。」


「テレーゼさん、もしかして、これからしようとしている事を、貴女のお母様はご存知なの? それで、アマーリエ様が退出しやすいように水を向けた、と?」


パウラ様は知りたくてたまらないのか、興奮気味に一気に捲し立てる。

アマーリエ様も聞き耳を立てているようだ。


「伝えてはありましたが、まさかこのような形で応援して下さるとは思ってもいませんでした。」

 「私たちには、教えてくださらないのに。」


分かりやすく拗ねるパウラ様。

事前にお話しないほうが、二人とも自然な対応が出来ると思ったのだ。


曖昧に微笑んだまま、アマーリエ様の帯をほどくアヤメさんを見れば、パウラ様も連れて目を向ける。


アヤメさんはほどいた帯を丁寧に広げ、シワを伸ばす。

ソウビさんは使用していた帯揚げと帯紐を畳む。

アマーリエ様は、二人を労るように見つめる。


「残念だわ、せっかく素敵な帯でしたのに。結わいて下さったお二人にも申し訳ないわ。」

「アマーリエ様。私、これで終わりだなんて申し上げておりませんわ。」


私の言葉に、侍女の二人も頷く。

不思議そうな顔をするアマーリエ様とパウラ様を尻目に

二人はさっと帯を結び直す。


何か言いたげなアマーリエ様を目で制し、作業を見守る。

パウラ様は驚愕した様子で、形を変える帯を見ていた。


「完成致しました。」

「素晴らしいわ!!

 何故こんなことが出来るの? ヤズマ皇国では皆が出来るのかしら?」


パウラ様のはしゃぎっぷりに、侍女二人も思わず目を細める。

変わり結びを初めて見れば、驚くのも無理はない。

私はパウラ様に、本当はまだまだ色々な結び方があることを告げると、全部見たいと言い出す。


合せ鏡でアマーリエ様にも後ろの結び方を確認してもらう。

アマーリエ様も目を丸くして見ていた。そして顔を綻ばせる。


「アヤメさん、ソウビさん!これは本当に素晴らしい技術だわ。

 お話をゆっくり聞きたいけれど、ひとまず会場に戻らなくてはならないわね。

 本当にありがとう、ゆっくり休んでいて頂戴ね。」



再び会場に向かった私たちは、扉の前で深呼吸をする。

メイドが、あ! と声をあげる。


「どうかなさったの?」

「申し訳ございません、パウラ様。

 お召し物がすばらしくて、思わず声が出てしまいました。

 先ほどの垂れたリボンも素敵でしたが、花のようなリボンも大変お綺麗です。

 どうやって結ばれているのか、ずっと見ていたいくらいでございます。」

 

 このような場のメイドは感情を出さないし、長々と話したりもしないが、彼女の目はキラキラと輝いている。

 本心から、そう思っているのだろう。

 

 私は安心した。

 ヤズマ皇国を受けいれてもらうためには、身分に関わらず、ヤズマ皇国の文化が良いと評価されなければならないからだ。





 扉が開き、入場する。

 会場中央に居るシェーファー侯爵の場所までさっと道が開け、皆は興味深そうな目を向ける。

 ゆっくりと歩みを進めるアマーリエ様を見て、驚愕の声が漏れる。


「なんだ。帯とやらを身に付けたままじゃないか。」

「ダンスの実力の無い若手貴族とは踊らないってことか?」

「良くご覧になって!背面が全然違うわ。」

「まあ!あれは薔薇かしら?とはても複雑な結び方ね。」

「あのように結んでも張りがあるとは。帯と言う生地に興味を持ったよ。」



 聞こえているのかいないのか、あるいは無視をしているのか。

アマーリエ様の歩みは止まらない。


アマーリエ様はシェーファー侯爵の前で会釈をする。

「難点を克服してまいりましたわ。

 私と踊っていただけるかしら?」


難点を克服してから踊るということは、シェーファー侯爵のダンスが上手くないと言うのと同じである。

侯爵は戸惑いを浮かべるも王女からの誘いを断ることも出来ず、アマーリエ様の手をとる。



周りの貴族たちは、二人の様子を固唾を呑んで見守っていた。


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