2賞 18
さらに詳しく話を聞き、手紙を開封する。
そこにはお守りへの賛辞と、明日の放課後に三人で離宮へ来るようにと記されていた。
控えていたメイドの一人に、お二人への言伝をお願いした。
「お針子の件は書かれていないけど…お守りは気に入って下さったようね。」
「それはもう。
さっそく守護石を運ばせて中に入れてみたと、仰せでした。」
お忙しいだろうに、アマーリエ様は行動が素早い。
さっそく試して下さったのは嬉しいが、使い心地はどうだろうか。
アマーリエ様の帯に使ったようなしっかりしている生地ならば良いが、柔らかな生地だと石を感じて気になるだろうか。
明日、お話を聞けるのが楽しみだ。
学園は、昨日と同じように視線を感じた。
私になにか言いたげなクラウディア様とパウラ様に対し、挨拶だけで済ませて続きは目で制する。
手伝いを希望する声掛けならば嬉しいが、妙な噂が広まるのは避けたい。
馬車乗り場へ向かう時間をずらし、こっそりとパウラ様の待つ公爵家の馬車へ乗り込む。
クラウディア様もすでに乗っていて、端から見ても分かるくらいにわくわくしていらっしゃった。
「離宮へ行くのは初めてだわ!アマーリエ様と個別にお会いするのも初めて。
とても楽しみなの。」
「緊張はされないのですか?」
私は初めて離宮に向かうとき、不意打ちだったとはいえど、とても緊張したのだ。
いまも、緊張はしている。まだまだ慣れそうにない。
それにもかかわらず、クラウディア様はこの状況を楽しめるなんて。
「パウラ様ほどではありませんけど、私も王城には何度か登城してますもの。
それに、お守りも気に入って下さったなら、改善点等お話をお聞きしたいわ。」
その言葉通り、離宮に着いてからもクラウディア様は堂々と振る舞っていた。
離宮内をキョロキョロと見てしまったり、品のあるメイドたちに傅かれてアワアワとしてしまう私とは大違いだ。
ヤズマ皇国側との話し合いで使用した部屋に通される。
両壁側の侍従らが使用していた椅子の数は減っているが、大きなテーブルの左右に椅子が並べられている点は変わらない。
パウラ様、私、クラウディア様の順に座ることにした。
アマーリエ様がいらっしゃると、私たちは淑女の礼で迎える。
「連日呼び立てて、ごめんなさいね。
早くお話をしたくて。さあ、座ってちょうだい。」
アマーリエ様の後ろの椅子には、アヤメさんとソウビさんが座り筆記具を用意していた。
紅茶が振る舞われたところで、本題に入る。
「クラウディアさん。お守り、素晴らしい出来映えだわ。刺繍が繊細で、デザインも美しい。
王族向けのは貴女にお任せしたいくらいよ。
販売用のも、作るのはお針子たちであっても、家紋以外の刺繍デザインは貴女がしたら良いわ。」
アマーリエ様に手放しで誉められ、クラウディア様は目を潤ませる。
クラウディア様も、鬱々とした思いはありながらも、個人としての任を果たす機会が無かった方だ。
裁縫の腕前を誉められただけではなく、刺繍デザインという仕事を一任された喜びはひとしおだろう。
着座したまま、クラウディア様は深々と頭を下げる。
「ありがとう存じます、アマーリエ様。
一生懸命、勤めさせていただきます。」
アマーリエ様は優しく微笑む。
「刺繍なし、刺繍片面、両面、家紋入りとさまざまな商品展開が出来るはずよ。
石の有無や生地の柄ででさらにバリエーションも広がるわ。
いまはまだ使える布も少ないけれど、これから先を見据えて考えてちょうだいね。」
アマーリエ様は、お守りについて色々考えていたようだ。
生地や守護石だけではなく、刺繍で値段の差をつけたり種類を増やすのは面白い。
いまは体力的な問題や子育てなどでお針子として働いていないが
趣味として裁縫や刺繍を続けている元お針子たちを動員する案も、アマーリエ様が出して下さった。
アマーリエ様の発言を書き留めていたアヤメさんたちの手が止まったのを見てから、パウラ様が口を開く。
「彼女たちの定期収入となりますし、良い案だと思いますわ。
我が国は農作業や漁業など自然を相手にする職業をしている男性とそれを手伝う女性 という家庭が多いでしょう。
不作の時や、怪我をしていままでのような労働が出来なくなった場合に備えて、女性も収入を得る職につくべきだと考えていますの。
彼女たちを取りまとめる組織を作り、登録制・出来高制で買いとるようにいたしましょう。私が立ち上げますわ。
ただ、今回は急ぎですから正規のお針子見習いたちにもお声掛けさせていただきます。
同時に、肩飾りも元お針子たちにも委ねましょう。」
組織をつくる、さすがパウラ様だ。
取りまとめる人が必要だとは感じていたが、誰に声をかけたら良いか、私には皆目分からない。
そして女性たちの収入、生活のことまで考えているとは。
人脈の広さ、人の使い方はもちろん、視野の広さもパウラ様を上回ることは出来ないだろうな。




