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1章 2

王城。


お茶会に誘われて、お母様と一緒に足を運んだことはあるけれど

子供だけで気軽に行く場所ではない。

パウラ様ほどの方ならば、気軽に行き来するのかしら。


「ふふ、テレーゼさんのその顔を見たかったのよ。

 大丈夫よ、王城とはいえ陛下や妃殿下にお会いするわけではないわ。」


国王陛下や妃殿下にお会いしないのに王城へ?

いったい、誰にお会いするのかしら?

王城ならば、的確なアドバイスをしてくれる大人がいるだろうに、なぜ私に?


疑問が頭の中をぐるぐると回る。



「さぁ、ついたわ。気を付けて降りて頂戴。」


パウラ様の言葉に顔を上げると、そこは離宮の入り口だった。

王城に離宮があることさえ知らなかった私は、この離宮の主が誰かも分からない。


恐る恐る馬車を降り、パウラ様の後に続く。

衛兵が恭しくドアを開け、中ではメイドたちが出迎える。

メイド長らしき人物が一歩前に出て挨拶をする。


「お待ちしておりました、パウラ様。テレーゼ様。

 お部屋にご案内いたします。」



メイド長の後についていくと、重厚感のある部屋のドアの前で立ち止まった。

誰がいるかわからないからか、ドアから威圧感を感じる。


「アマーリエ様、パウラ様とテレーゼ様をお連れいたしました。」

「どうぞ、お入りになって。」


中から凛とした女性の声が聞こえ、ドアが開く。


アマーリエ様ってどなただったかしら。

上流貴族の名前を必死に思い出しているうちにパウラ様が一礼し中に入る。

慌てて真似をする。


パウラ様はアマーリエ様の前に進み、もう一度淑女の礼をする。


「アマーリエ様、お約束通り参りましたわ。

 こちらが以前お話しした、テレーゼさんですわ。」


パウラ様に紹介され、私もアマーリエ様の前で礼をする。

どなたかははっきりとは分からないけれど、離宮にいる以上、相当な身分の方と見た。


「お初にお目にかかります。リートゥス伯爵家長女、テレーゼ・リートゥスと申します。」


「突然お呼びしてごめんなさい。

 私のことはアマーリエと呼んで頂戴ね。」


 アマーリエ様が人懐っこい笑みを浮かべたのを見て、パウラ様が私に向かって言う。


「テレーゼさん、なんとなく気が付いているかと思うけれどアマーリエ様は第一王女殿下よ。」



やはり。



いや。王族の方かご親類だろうなとは思ったけれど、第一王女殿下とは。


最敬礼で礼をし直すと、二人はくすくすと笑っているのが分かった。

どっきり大成功!とでも言いたげな声色だ。



「私、学園に通っていませんでしょう?

 デビュタント前の方とは、あまりお会いする機会がございませんものね。

 みなさん、私の名前も呼ばずに王女殿下としか言わないし。

 アマーリエと言われても、すぐに分からなくて当然ですわ。」


少し不満そうに口をとがらせるアマーリエ様。


年齢は私たちとそう変わらないが、国王陛下の意向で学園に通っておらず、

デビュタント前の貴族が参加できるお茶会などはほとんど参加されていない。

ご尊顔を拝するのは今回が初めてだ。


パウラ様は名門公爵家なだけあり、アマーリエ様と個人的にお会いする機会が多いらしい。

数少ない友達なのだという。



「あなたのことは、パウラさんからよく聞いているわ。

 私もあなたを、テレーゼさんと呼ばせていただくわね。」


アマーリエ様は同世代の子と話せるのが嬉しくてたまらないようで、とても友好的だ。


「それでね、テレーゼさんに来ていただいたのは私のドレスのことで相談があるからなの。」


アマーリエ様に促され、小さめのテーブルに着く。

侍女たちが紅茶を入れ、お茶菓子を用意してくれた。


「私ね、ヤズマ皇国へ嫁ぐことになったの。」


突然の告白に目を見張る。

ヤズマ皇国といえば、陸路と海路を用いて二か月以上かかる場所にある。

東の果てにある国だが、なかなか情報が入ってこず、直接は交易もしていない。


「まだ公式発表はしていないから内緒よ。」


アマーリエ様は、ウインクをする。

あまりの情報に思わずパウラ様を見ると、事前にご存じだったようで私の目を見て静かに頷かれた。


「いろいろと準備もあるし、1年後の予定なのだけどね。

 言葉は共通言語が通じるから良いとしても、なにせ、文化が違うでしょう。

 ヤズマ皇国から教育係を兼ねた侍女が来てくれたのよ。」


アマーリエ様は紅茶を一口飲む。

その隙に、ずっと疑問に思っていたことを伝える。


「アマーリエ様、ご婚約が整いましたこと心よりお祝い申し上げます。

 ですが、私が呼ばれたのはなぜでしょうか。

 ご結婚用のドレスでしたら、デザイナーがいらっしゃるでしょう?」


私の質問を受け、アマーリエ様はティーカップをそっと置き、真剣な顔をする。


「ヤズマ皇国は侍女を派遣してくれただけではなくて、たくさんの贈り物もあったわ。

 アクセサリーも、珍しい紙も、そして私が見たこともないような布もね。


 ねぇ、テレーゼさん。

 私はヤズマ皇国の布を使って、ドレスを作りたいのよ。

 婚礼用ではなく、王宮で着れるようなドレスをね。


 ヤズマ皇国を未開の地だと恐れる者も、それゆえに婚約を反対する者も出てくるわ。

 ヤズマ皇国のものを使うことで、公式発表のまえから少しずつ、我が国の貴族たちがヤズマ皇国を受け入れる下地を作りたいの。」



アマーリエ様の考えには共感できた。


詳しく知りもしないのに、特定の職業、特定の国を蔑む人たちがいる。

ヤズマ皇国もそのような対象になっている国の1つだ。

だからこそ、貴族社会のヤズマ皇国に対する感情を良くしておきたい気持ちも理解できる。



でも、私は儀式にふさわしい衣類に詳しいだけで、デザイナーではない。



「それでしたら猶更、王城お抱えのデザイナーに頼むほうが確実ですわ。

 あの方々なら、舞踏会や儀礼のドレスコードも理解されているでしょう。」


残念そうな顔をするアマーリエ様を見かねて、パウラ様が言う。


「勿論、王城のデザイナーに頼んだそうなの。

 でも反対されてしまったのですって。

 ヤズマ産の生地など使えない、伝統を壊すことはできない、と。

 だからテレーゼさんに頼もうと思ったの。

 新しいドレス作り、手伝ってくださらない?」



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