ランドセルの天使
セイバンの天使の羽のランドセルのCMから思いついた短編小説です。
半年後に小学校に上がる少年ダイは、新しいランドセルを買ってもらった。両脇に羽の浮き彫りがあって、すごくかっこいい。ところが、背負ってみると、片方だけ重い。どこも破損していないのに。
「なんだよ、このランドセル」
ダイはランドセルを放り投げた。すると、
「痛い」
と声がして、女の人が倒れていた。
「あ、あんた、誰?」
ダイはおそるおそる聞いた。女の人はダイに向き直り、深々とおじぎをした。
「私はセイバーと申します。ランドセルが出来上がるまで見届ける天使です」
「このランドセル、片方が重いよ」
「実は私、羽を片方怪我してしまいまして、完成できないのです」
「羽を怪我?」
「はい、羽が治らないと完成できないのです。完成すると天に帰れるのですが、未完成なのでランドセルから離れることができません」
「じゃあ、僕が治してあげるよ」
ダイは、毎日少しずつセイバーの羽の破れた部分に紙を貼り付けた。羽は少しずつきれいになっていった。
最後の一枚を貼ろうとしたときだっ、ダイは紙を丸めて捨てた。
「どうしたのですか?」
セイバーが聞くと、ダイはセイバーに抱きついた。
「羽が完成すると、セイバーはランドセルから離れて、いなくなるんでしょ?それなら、羽は完成しなくてもいいよ」
「でもこのままではダイのランドセルは片方だけ重たいままです。早く軽くしないと」
「重くてもいい」
セイバーは離れようとしないダイに困惑した。
「ダイのランドセルが完成して天に帰ったら、次のランドセルを作るためにまた帰ってきますよ」
「僕のところに帰ってくる?」
「それはわかりませんが…」
「帰ってきてよ、僕のところに、約束してよ」
ダイは立ち上がり、ゴミ箱から先程捨てた紙を拾って平らに伸ばし、最後の一枚を貼り付けた。
セイバーの羽はきれいになり、光をまとった。大きく羽を広げ、セイバーは飛び上がった。
「ダイ、ありがとう」
「セイバー、僕、探すから、絶対にまた会おうね」
セイバーは見えなくなってしまった。
ダイはランドセルを背負ってみた。軽くて、今までより心地いい。
そして、時が経つに連れて、セイバーのことを忘れていった。
それからダイは大人になり、結婚し、子供ができた。ダイの子供シュウは来年小学校に上がる。ダイはランドセルを買いに行き、ふとセイバーのことを思い出した。シュウがランドセルを選んだとき、ダイは女の人が飛んでいくのを見た。彼女は一瞬振り返り、笑顔を見せた。セイバーだった。
読んでいただいてありがとうございました。
親しい人と別れるとき、わざと忘れ物をする気持ちと似たような感情を表現してみました。