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ダンジョンが蔓延る現代の生き方  作者: 暁月ライト


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蒼紋

 抵抗も無く、簡単に魔力が流れていく。


「……これは」


「うわっ、綺麗ですね……」


 青い紋様が美しく光っている。これが露店に売ってたら、例え何の能力が無くても買ってしまうくらいには綺麗だ。キラキラと儚く光っている。眩しくはない、優しい光だ。


「……斬るよ」


 言ってから、短剣がさっきよりも遥かに軽くなっていることに気付く。金属の塊であるはずなのに、羽毛のように軽い。

 そして、僕はそれを雑草に向かって薙いだ。


「おぉっ!」


 八磨が声を上げる。殆ど力を入れずに振るったにも関わらず、短剣は殆ど斬った感触も無く雑草を切り飛ばした。


「これは……凄い」


 思わず語彙力を無くしてしまったが、これは結構な代物だ。飽くまで短剣なので僕のような素人がメイン武器に使えるような物ではないが、それでも凄い。


「……売ろう、かな」


「白羽さんっ!?」


 スキルを使うんじゃなかったのか、と八磨は責めるような目で僕を見る。


「だって、これ……絶対高いよ。魔力の消費も安いし、凄く良い武器だ。見た目も良い」


 見た目というのは案外に重要な要素だ。例えば、金属をバターのように切り裂けるスプーンがあったとしても、結構萎えるだろう。使っている中で、敵を切り裂いて手元を見るたびに萎えるのだ。


「でも、正体不明のスキルですよ!? 神性簒奪なんて聞いたことも無いですし、もしかしたら武器を強化できるかも知れないです!」


 いや、多分それは無いと思う。字から察するに、与える能力では無さそうだ。寧ろ、奪う能力だろう。もしかしたら、これが妨害系のスキルでただ能力を奪って武器を弱体化させるだけに終わるかも知れない。


「だけど、もしかしたら……」


 この短剣の能力が、僕個人の能力になる可能性もある。そうなった場合、僕はこの蒼紋をどう扱うことになるのか分からないが、結構夢のある話だ。とはいえ、奪える能力が一個で終わるかもしれないし、もしかしたら神性簒奪と置換されるような形式になるかも知れない。そう考えると益々気軽には使えない。


「やっぱり、売ろうかなぁ……」


「ちょっと、何弱気なこと言ってるんですか。慎重なのは良いことですけど、いつまでも試さないと一生スキルを腐らせたままになっちゃいます。それに、能力を使える対象がこれから出てくるとも限らないんですから、今使わないと寧ろ将来的に損するかも知れないですよ!」


 一理、ある。


「確かにね……」


 神性簒奪。神性を簒奪する。つまり、神性が宿っているものにしか恐らく使えないのだろう。ぶっちゃけ、神性が具体的に何なのかは全く分からないが、神と名の付いているからには有り触れたものではないのは確かだろう。


「……………………良し、使おう」


「未練が透けて見えますね……」


 長い逡巡の末に決断した僕に、八磨は呆れたような目を向けた。


「もし、何かあったらよろしくね」


 僕は念の為に少しだけ八磨と距離を取り、その短剣に意識を集中させた。



「――――神性簒奪」



 僕の手から握られた短剣に白い光が伸び、短剣を包んだ。


「ッ、これは……ッ!?」


 僕の体に、何かが流れ込んで来る。白い光を伝って、短剣から。それと同時に身体中に走るのは鋭い痛み。全身を余すことなく刺激するそれは、まるで電撃が走っているかのようだ。


「ぐッ、何だこれ……マジで、やばい……ッ!」


 続いて、体の内側から燃え上がるような熱が押し寄せる。頭が眩み、倒れそうになるのを何とか持ち堪え、手に持った短剣を強く握りしめた。


「あ、あの白羽さん……か、体がッ!」


「ッ……何これ、本当だ」


 自身の体を見下ろすと、僕の体には短剣にあったような蒼い紋様が走っていた。


「これは……あはッ」


 直ぐに消え去った蒼い紋様。思わず笑みが零れてしまう。もう、身体中に走る不快な痛みも無い。


「あははっ、大成功だッ! 良いねっ! 想定してた中でも、最良のパターンだよ!」


「つまり……これは、この短剣の力を奪ったってことですか?」


 僕は頷き、自身の体に魔力を巡らせる。すると、また蒼い紋様が僕の体に現れ、光を放つ。


「その通り。それに、この感じ……期限も無い。神性簒奪の力も消えてなさそうだ。正に、最良。望み通りの結果だよ、八磨!」


「……テンション高いですね?」


 僕は珍しく満面の笑みを浮かべ、その場で軽く動いて見せた。


「あはは、そりゃそうさ。見なよ、これ!」


「えぇと、速いですね」


 反応の薄い八磨。その背後に回ろうと走り……


「一旦、落ち着きません?」


「……そうだね」


 僕の体は呆気なく八磨に掴まれた。


「じゃあ、計測を始めようか」


「へ?」


 情けない声を漏らす八磨を前に、僕は万能腕時計のタイマーを起動した。







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