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一 平穏な日常と「事件」










   かくて「剣士」は、「妖刀」と出会う


      ~「赤い宝珠と守護聖剣」前日譚
















    登場人物


 ステファン・ボールズ  都市連合の剣士

 オハラ         ボールズの剣の師匠

 グレイル・フォークナー 領主、隻眼の元剣士

 ミハエル・フォークナー グレイルの息子、オハラのもとで剣を学ぶ

 ケイト・モーラー    ミハエルの幼馴染、同じくオハラのもとで修行する

 エダ・ブリストル    帝国の元剣士、ソールの師匠

 フェリアン・ソール   帝国の剣士

 ゼダン         大荒野の隊商を率いる商人、ボールズの旧友

 クラカド        モーラー家の情報員

 レイナス・グローバー  不死の魔法士

 黒の剣士        正体不明の剣士



   一


 道場に差し込む日差しも、以前より暖かく感じられ、大陸の北に位置する「都市連合」にも遅い春がやってきた。

 ステファン・ボールズは道場の上座に座って、後輩二人の掛り稽古の様子を見ていた。

 木剣を持つのは、ミハエルという十歳過ぎの少年。

 相手をするのは、ケイトというミハエルより少し年上の少女で、こちらは木剣ではなく木槍を構えている。

 互いに、真剣な表情で打ち合っていて、剣と槍のうちあう乾いた音が、道場に響いていた。

 そんな二人の様子を見ながら、ボールズはふと昔を思い出した。

 かつては、もっと大勢の門弟が、この道場で剣の修行をしていて、今の二人のように各自が互いに剣の腕を磨いていたものだ。

 みな「剣士」となることを目指していた。

 けれど、全員が「剣士」になれるわけではない。

 そもそも、この地において、「剣士」とは、遥か昔にそうなるように、血統になにがしかの「魔法力」を施されたものをいう。

 だから、剣を使いこなすだけでなく、それ以外の身体能力も、常人をはるかに超えている。

 いうなれば「剣を使うため」「戦うため」に生み出された特殊な人間ということだ。

 目の前の二人も、先祖代々、「剣士の血」を受け継ぐ家系で、ゆくゆくはその家に伝わる「守護聖剣」なる剣を受け継ぐのだという。

 ただ、長い時代を経て、その力が必ずしも発現しない者も多くなったらしい。

 ボールズの家は、代々剣士をしていたわけではない。

 けれど、彼には「剣士としての才」が発現した。彼の血筋もまた、遥か昔に「剣士」となるべく、作られたものだった。

 その頃は、大陸の南にある「帝国」という勢力と、たびたび武力衝突を起こしていて、大きな戦争に発展したこともあった。

 だから、より多くの「剣士」が必要だった。

 当時、少年だったボールズも「剣士」である以上、やがては戦場に立つ。

 その気概を持って、修行を続けた。

 けれど、十年と少し前、「都市連合」と「帝国」は戦いをやめ、平和条約なるものを結んだ。

 ボールズが、剣士として戦場に赴く必要は、無くなってしまった。

 ともに、修業をしていた仲間も、離れていった。

 まず最初に、もともとその「血筋」を持たないものが、普通の生活に戻っていった。

 そして、「剣士の血」を持っていながら、その力が発現しなかったもの、平和な時代に剣士がなじまないと悟ったものが、道場を離れていった。

 けれど、ボールズは道場にとどまって、修業を続けた。

 時には、盗賊を捕縛する仕事を請け負うこともある。

 もっとも、その程度では、「剣士」としての腕のふるいようはない。

「何か、大切なものを守るために必要なもの」

 師は、「剣士の心得」を彼にそう教えた。

 今、目の前で稽古をする二人も、ただ「剣士の血」を代々受け継いでいるというのではなく、師と同じことを口にして、修業をしている。

 けれど、ボールズは、剣士には、戦いこそが必要である、と信じている。

 そして、必ずそういった時が来る、そう思っている。

 どん!と、鈍い音がして、ボールズは顔を上げた。

 ミハエルが、壁際でしりもちをついている。

 一方で、ケイトが、「どうだ」と言わんばかりに、仁王立ちしていた。

 ミハエルが、剣も間合いに入ろうとして、ケイトの槍にカウンターを食ったというところか。

 あれくらいの年齢であれば、少し年かさのケイトのほうが、体力も技術も上なので、こうなることは明らかだ。

 とはいえ、彼にももう少し頑張ってもらいたい。

「どれ」

 ボールズは、立ち上がった。

「稽古をつけてやろう。二人一緒に、かかって来い。」

 ボールズが、木剣を手にすると、ケイトは嬉しそうに槍を構え、ミハエルは、たった今ケイトに食らった一撃の痛みをこらえるように立ち上がって、剣を構えた。

 ボールズの右手側にミハエルが、左手側にケイトが立ち、得物を構えて間合いを測っている。

 もっとも、ボールズにとっては、二人とももう間合いにに入っているのだが、それに気づくには、二人ともまだ修行が足らないようだ。

 それでも、彼は二人が仕掛けてくるのを待った。

 先に仕掛けてきたのは、より間合いの広い槍を持ったケイトだった。

 手にした槍を、鋭く突きこんでくる。

 それも素早く、十回以上も連続で。

 けれど、ボールズは、その突きをすべて見切って、軽く剣で受け流す。

 一方で、ミハエルは、そのすきを窺っているのか、動こうとはしていない。

 ただ、気配を探っているのは、ボールズにも分かった。

 ケイトが、一度引いた槍を今度は横に振りかぶって、ボールズに向かって横なぎに振る。

 彼は、剣で槍の勢いを止めると、そのまま槍の柄をわきに抱えて、ケイトの動きを止めた。

 そこに、すかさずミハエルが斬り込んできた。この一瞬を狙っていたように。

 ミハエルの剣の打ち込みも早かった。

 瞬きをする瞬間に、これまた十回以上剣を打ち込んでくる。

 ただ、残念なことに、これまたすべてボールズに見切られていた。

 彼は、最小限の剣の動きで、ミハエルのすべての打ち込みをはじき返した。

 ミハエルが打ちつかれて下がるのと同時に、ボールズは脇に抱えていたケイトの槍を放した。

 ケイトも、いったん後ろに下がる。

 二人とも、肩で息をしていた。

「どうした?二人一緒にかかって来い、と言ったはずだぞ?」

 剣の構えを解いて、ボールズは挑発するように言った。

 得物を構える二人が、目配せする。

 何かを仕掛けようとしている。

 再び、ケイトが前に出て、槍を突き出してくる。

 鋭さは、先ほどと変わらない。

 それでも、ボールズはそれを難なく見切って、剣で受け流す。

 ただ、今度はミハエルが、違う動きをした。

 ボールズの動きを見定めようとするのではなく、ケイトの背後に移動するようにして、彼の死角へと回り込んだ。

 そして、ケイトが槍を突き出しているさなかに、ボールズの死角から飛び出して剣を振り下ろしてきた。

 こういう時の二人の連携には、見るべきものがある。

 幼馴染として、長く付き合っているせいもあるだろう。

 ボールズの死角を突いてくる、という作戦も、悪くはない。

 けれど、残念なことに、彼と二人の実力差は、いささか大きすぎた。

 死角を突かれた、といっても、ボールズにはミハエルの動きも読めていた。

 ケイトの槍を大きくはじいて動きを鈍らせると、剣を腰だめに戻してから、一気に斬りあげる。

 剣が、ミハエルの脇腹に入ったところで、そのまま彼の体をケイトに向かって投げつける。

 どすん!と、大きな音を立てて、二人が床に転がった。

「ちょっと、ミハエル、早くどいてよ!」

 下敷きになった格好のケイトが、声を上げる。

 けれど、ミハエルのほうはまともにボールズの剣を受けてしまったので、すぐには動けなかった。

 稽古は、そこで終わりになった。

「ケイトは、時折、槍を大きく振り回すな?多人数を相手にするときに牽制にはなるが、相手が恐れずに間合い深く入ってきたら、対応が遅れることになるぞ?」

 ケイトとミハエルは、床に正座をしてボールズの話を聞いていた。

「ミハエルは、二度目の時に死角から打ち込んできたのは、褒めてもいいが。

 高く飛びすぎたな?

 あれでは、こちらも対応する余裕ができるし、空中で軌道を変えられなければ、相手にとってはよい的になるだけだ。」

 二人は、ボールズのアドバイスを聞いて、それを頭の中でどうするか真剣に考えている。次には、もっと違うアプローチでボールズにかかってくるだろう。

「楽しみなことだ。」

 ボールズは、顔には出さず、心の中でほほ笑んだ。

「ボールズ」

 道場の戸がわずかに開いて、声がした。

 灰色がかった髪の年老いた人物が立って、道場の様子を見ている。

「師匠?」

 道場の主であり、彼らの師匠であるオハラである。

 その姿に気付いて、ケイトとミハエルが、正座のまま深く頭を下げた。

「すまないが、ちょっと来てくれ。」

 彼らの師匠は、そう言って戻っていく。

 ボールズも立ち上がった。

「二人とも、さっきの続きをしておくように。」

 二人にそう言いおいて、彼は道場を出た。

 師匠の後を追って、板張りの廊下を歩いていく。

 背後で、木剣を打ち合う音が聞こえてきた。

 よく手入れの行き届いた中庭を通った先、オハラは私邸に向かっていた。

 横に引く戸を開けると、そこは来客を迎えるための客間だった。

 どうやら、師匠の用事は、その来客に関することらしい。

「お待たせした。」

 オハラが、中の客にそう言い、ボールズが師匠の後に続いて、部屋に入った。

「やぁ、ステファン。久しぶりだね?」

 彼が中に入ると、隻眼の男がそういって彼を迎えた。

「フォークナー卿?」

 グレイル・フォークナー、「守護聖剣」のうちの一振り、「ガレス」を持つ剣士として、都市連合と帝国の最後の戦に参加した人物。

 その戦いで片目を失い、今は剣士を引退した。

 そして、現在は、このあたりの土地を治める領主の任についている。

 そして、ボールズにとって大先輩であり、ミハエルの父親であった。

 ちなみに、「守護聖剣ガレス」は、グレイルの手を離れ、やがてミハエルに引き継がれるのを何処かで待っていると聞く。

 ボールズは、オハラとともに、彼の前に腰を下ろした。

 この屋敷には、イスがほとんどなく、こうして床に直接腰をおろすスタイルなのだ。

 はるか昔、この地にやってくる以前のオハラの故郷での生活スタイルだ、と聞いたことがある。

 はじめのうちは、ボールズも戸惑ったものだが、「常在戦場」、家屋敷の中でも野営をしているのだ、と考えれば、剣士としての心構えとして、納得がいった。

「あの二人は、頑張っているかい?」

 グレイルが、ボールズに聞いた。

 領主とは思えないような気さくさは、むしろ今、世話になっている子供たちの親としての感覚のようだ。

「えぇ、頑張っていますよ。まだ、始めて日は浅いですけど、さすがに剣士の血を引くだけのことはある。」

 それは、決してお世辞などではなく、本心からの言葉だ。

「まぁ、せいぜいしごいてやってくれ。

 ディクスンからも、そう伝えてくれと。」

 グレイルは、そう言って笑った。

 ディクスンとは、ケイトの父、ディクスン・モーラー卿のことだ。

 二人とも、少しでも早く、守護聖剣をを引き継いでほしいのだろう。

「それで、今日こちらにいらした、ご用向きは?」

 挨拶が一段落したところで、オハラが、グレイルに聞いた。

「実は、大荒野にある小さな町で、ちょっとした事件がありまして。」

 グレイルは表情を改めると、そう言った。

「大荒野で、事件・・・ですか?」

 オハラが、繰り返すように言う。

 大荒野とは、その名の通り、荒涼とした土地が広範囲に広がっている。

 帝国と都市連合の間に位置することから、両者が何度も武力衝突を繰り返してきた土地でもある。

 両者が和平を結んでからは、街道が整備され、それに伴って小さな町が、点在するようになった。

「シルデスという街で、剣士が殺害されました。」

 グレイルは、静かにそう言った。

「剣士同士がいさかいを起こして、決闘でもしでかしたのではありますまいか?和平が結ばれて十年あまり、大荒野はまだ治安の安定しないところも多いと聞きます。そういった事件が起きても、不思議はないのでは?」

 オハラが、応じた。

「剣士たるもの、常に命のやり取りのあること、これを心に刻むべし。」

とは、彼の持論であり、剣を持つ者の覚悟として、ボールズも教えられていることだ。

 今修行をしている二人にしても、心構えとして、教えている。あくまで、「心構え」として、だが。

 剣士同士が、何かのはずみにいさかいを起こして、決闘に及ぶということは、今でもまだ起きることだろう。その結果、敗れたものが命も失う、ということだ。

 大荒野は、帝国、都市連合のどちらの統治も行き届かないところもあって、剣での「決着」ということが、いまだに起こることもあるのではないか。

 ボールズも、オハラの言う言葉の意味は理解できる。むしろ、それをあえて口に出した彼の言葉には、この「事件」が、フォークナー卿が、気にする「何か」があるのか、という問いかけが含まれているのだろう。

 グレイルが、わずかにうなずいた。

「概略になりますが、順を追って話しましょう。」

 口調に、わずかに緊張感が漂い、ボールズも表情を引き締めた。

「知っているかと思いますが、大荒野の各地には、今も帝国の情勢を窺うためにディクソンの配下が、活動しています。シルデスには、その一人が情報収集でたびたび訪れています。」

 帝国との和平が成った今でも、用心のために情報収集を行っている。それを担うのが、ディクソン・モーラー卿だった。

 その一人から、今回の事件についての話がもたらされたという。

「事件が起きたのは、半月前。その情報員によると、殺害された剣士は、都市連合、帝国のいずれにも属しておらず、シルデスを中心に、大荒野を行き来する隊商の護衛などを生業としていた。事件の前も、隊商の護衛をしてシルデスに戻ってきたところだったそうです。」

 グレイルが、懐から地図を出してシルデスの場所を示した。大荒野の東側、都市連合と帝国の勢力圏をつなぐ街道の一つの、ちょうど中間あたりに位置している。

「翌日、別の隊商の護衛につくはずが、約束の場所に現れず、探したところ、裏通りで斬殺体となっているのが発見されました。」

「隊商を狙う、盗賊の仕業、とは思えませんな。」

 オハラが、首をかしげる。

 隊商を狙う盗賊なら、街で剣士を襲うとは考えずらい。人気の少ない、街道で隊商を襲うほうが、確実だろうからだ。

「そうですね。剣士の名を負うものが、盗賊やその用心棒に斬り伏せられるとも思えません。その剣士の実力のほどはわかりませんが、相応の腕を持つ剣士が、ほかに居たということでしょうか?」

 ボールズも、師の意見に同意した。

 自称「剣士」では、隊商の護衛すら務まらない、ボールズはそう思っている。

剣を持つにふさわしい能力あっての「剣士」なのだ。その「剣士」を倒せるものもまた「剣士」であろう。

「ところが、その日、街にいた「剣士」は、この一人だけだった。もちろん、こっそり街に入り込んで、誰にも気づかれずに街を去った、と考えられなくもないけれど。」

 グレイルが、一つ目の疑問点として、そう言った。

「剣士同士が決闘したならば、倒したほうの剣士が名を上げるために、逃げたりはしないでしょうな。何か、逃げ出さねばならない理由がない限り。」

 都市連合内ではもちろん、帝国でも、名を上げるための「私闘」は禁じられている。

それでも、時折そういう「事案」は起きる。

まして、治安の安定しない大荒野にあっては、なおさらだろう。

そして、名が上がれば、それは隊商の護衛をする料金が上げられるなど、「収入」につながるのだ。

「外部からやってきたか、あるいは、剣士であることすら隠して暮らすものがいるのか、いずれにしても、何かしら、この剣士を倒さねばならない、明確な理由があるはず、ということになりますな。」

 オハラの言葉に、グレイルがうなずいて見せた。

「そして、もう一つ。疑問、というより、不可思議な点が。」

 その次にグレイルが語ったことは、確かに不可思議なことだった。

「遺体は、確かに剣で斬られたあとがありました。が、その傷の大きさに対して、出血があまりに少ない。かなりの出血をした形跡があるにもかかわらず、周囲には、ほとんど血の跡がなかった。」

「どこか、ほかの場所で斬られて、死体だけその場に置いていったわけでは?」

 考えられる可能性について、ボールズが口に出した。

「その形跡も、なかった。自警団が、町中をあたったけれども、そう言った形跡は見つからなかった。」

 グレイルの答えに、ボールズはうなってしまった。

「魔法士が、かかわっている可能性もあるわけですか?」

 オハラが、考え込むように言った。

 魔法士、遥か昔からわずかながら、この世に存在する人々。

世の中の「理」に干渉する。あるいは、「理」そのものを捻じ曲げてしまう。

 多少の不可思議な事象でも、魔法士がかかわっているなら、不可思議なことではなくなってしまう。

「その可能性も。

 けれど、この剣士が、剣で斬られて死亡したことは、間違いがない。」

 魔法士ならば、剣を使わずに相手を殺害する方が確実だろう。もちろん、そういう術がつかえる、という前提が必要だ。

 三人の間に、沈黙が流れる。

 少し間をおいて、口を開いたのは、オハラだった。

「その剣士の死について、調べたい。というのが、今日いらした要件と考えてよろしいのですかな?」

 グレイルが、うなずいた。

「この事件が、これだけで終わりではないのではないか、そんな不安があります。

せめて、原因が分かれば、何か起きるにせよ、対応の仕方が分かると思います。」

「ボールズ?」

 オハラが、ボールズのほうを向いた。この件を受けられるか、と問いかけるように。

「承知しました。」

 ボールズは、静かに師にむかってうなずいて見せた。

そして、グレイルのほうに向きなおる。

「すぐにでも、出掛けます。何か、ほかに伺っておくべきことがあれば。」

「この件で、帝国も動くかもしれない。けれど、彼らとの衝突は避けてほしい。」

 帝国との戦争が終結してから、まだ十年余り。ちょっとした行き違いから、再び戦争が始まってしまうかもしれない。グレイルにしてみれば、それは絶対に避けたいのだ。

「わかりました、十分気を付けます。」

 ボールズは、そう言うと、立ち上がった。


「ボールズ兄、出掛けてしまうの?」

 ケイトが、心底残念そうな顔をして言う。

一方で、ミハエルは、少しだけ安心したような顔をしている。

「少しの間だけだ。すぐに戻ってくる。」

 ボールズは、小さな弟子二人にそう言った。もっとも、確証はないけれど。

「その間、ちゃんとオハラ先生が、修業を見てくれる。」

 ボールズがそう言った瞬間、二人の顔がひきつった。

 今までも、隊商の護衛などを頼まれて、彼が出掛けることがあった。

 そんな時は、オハラ師が直接二人に稽古をつけていたものだ。

 そして、その厳しさは昔と変わらずで、彼が戻ってくると、たいてい二人とも、あざだらけなのだった。

 とはいえ、それ以上は何も言わず、ボールズは出かける支度を続けた。

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