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43.あの日の誰もいない教室で

夏休みの中盤に差し掛かった今日。

相変わらず外は太陽の日差しが強く蒸し暑い一日になりそうだった。

夏休みの登校日前にみんなで話し合った勉強会のことを知らされていなかった二人に話すと、やはりというべきか、参加希望とのことだった。


私は皆がホームルームが始まるまでおしゃべりをしているのを眺めながら、夏休みに入る一週間前に起こったある出来事を思い出していた。

今思い出しても本当に恥ずかしい気分でいっぱいになってしまう。

それはさやちゃんの部活が終わるのを待っている時のことだった。


さやちゃんの部活動がある日は部活が終わるまで何処かで時間を潰すことになっている。

今日がその日だ。

私とあいちゃんは誰もいない教室で隣同士座っていた。


私は読書、彼女はずっと私の腕を抱きしめて動かない。

ここ最近さやちゃんの部活が終わるまでずっとこうして過ごしていることが多くなっていた。

時々開けてある窓側から心地よい風が流れてきていた。


「あと一時間くらいに終わるかな?部活」

「そうかな。多分、そうだと思うよ」

「時間が過ぎるのって本当に早いなぁ。めぐちゃんとずっとこうして居たいんだけどな」


あいちゃんは小さな声でそう呟いた。

今日はいつもより寂しそうな表情をしている気がした。

私は読んでいた本を閉じて鞄に仕舞った。


「今日どうしたの?元気なさそうだけど」


珍しく私が声を掛けた出来事に彼女は驚いた表情を向けてきた。

私は少し首を傾げると彼女は私をそっと抱きしめてきた。


「ありがと、めぐちゃんは優しいね…」

「そんなことないよ。他の人にはしないから…私は」

「そうだったね。私だけ、だもんね」

「…うん」


そう答えるとさらに強く抱きしめてきた。

私も彼女をそっと抱きしめた。


彼女の暖かい体温と耳の当たりが薄っすら赤くなっているのが見えた。

今日の私も少し変だったのかもしれない。

彼女の耳元で囁いてしまった。


「ねぇ…寂しいの?」


小さな声でそう耳元で囁くと彼女が隠していた顔を私のほうへ向け答えた。


「寂しいよ。ずっと寂しい。めぐちゃんが好きすぎて。私どうかしてるのかな。こんなに人を好きになったことないんだもん」

「そっか。私も人を好きになったことがない。今まで友達が一人もいなかったし。でも高校生になってあいちゃんに告白されて、凄く嬉しかったよ。今はとても楽しい」

「めぐちゃん…」


彼女の眼から零れ落ちた涙を私は人差し指で拭った。

ひとさし指に着いた彼女の涙を自然と自分の口元へ持っていき舌を出してペロリと舐めた。

私の行動を見ていた彼女は恥ずかしくなったのか又自分の顔を私の胸で隠した。


「どうしたの?」

「なんでもない」

「ホントに?」

「…大丈夫じゃない。めぐちゃん、えっち…」

「ん?私えっちじゃないよ」

「だって…私の涙舐めたじゃない」

「あぁ~、なんか自然と舐めたくなって」

「……えっちじゃん」

「えぇ!涙って舐めたらえっちなの?」

「そうだよ。もうびっくりして顔見れないじゃない」

「ごめん。不用意だったね」


彼女が私の胸を使って自分の顔を隠す姿が可愛いと思ってしまった。

こういう時どうしたらいいのだろう。


恋人同士ってどうするのが正解なのだろう。

私は彼女の頭をそっと撫でながら彼女の背中に手を置いた。

暫く二人とも黙ったまま時間だけが過ぎていた。

 

後数十分でさやちゃんがこの教室へやってくる時間になると、彼女は私の胸から離れ私の肩に彼女の頭を置いた。


「ねぇ、めぐちゃんって私の事どれくらい好き?」


唐突な質問だった。

私は彼女の事がどれだけ好きなのだろう。

そもそも人を好きになったことがない私が彼女の好きに答えることが出来るだろうか。

今の気持ちは一体どんな気持ちなのだろう。

彼女の質問に少し間を開けてしまった。


「あいちゃんの事は特別だと思ってる。あいちゃんを一番に優先したいって思ってる。後はあいちゃんに嫌われないようにって思ってる。これが私の好き、かな…」

「そんなに想ってくれてたなんて知らなかった。めぐちゃんってクールな所あるから、ちょっと不安だったんだ。私ばかり好きじゃないのかなとか。でも違った。嬉しい」

「こちらこそ。こんなコミュニケーションが下手な私を好きって言ってくれて有難う」


廊下から人が歩いてくる音が聞こえてきた。

私たちのいる教室の扉で足音が止まり、教室のドアが開いた。


「お待たせ。帰りましょうか」

「お疲れ様。沙也加」

「お疲れ様、さやちゃん」

「有難う。二人とも何してたの?顔赤いじゃない」

「えぇ!赤くないよ。ね、めぐちゃん」

「日焼けかな…」

「また二人でイチャついてたんじゃないの?」


さやちゃんの鋭い洞察力に驚く私と彼女。

下駄箱から外靴に履き替え校門を出て駅まで三人で一緒に帰る。

いつもはさやちゃんの部活の先輩達の話や今お世話をしている植物の話をしていたのだが、この日は私と彼女が誰もいない教室で何をしていたのか、さやちゃんの質問攻めがずっと続いていた。


あの日の事は本当に自然と行動していた私。

彼女の耳元で囁いたり、彼女のこぼした涙を舐めたり。

思い出すと恥ずかしくて顔を覆いたくなってしまうけれど、でも私も少しは彼女の喜ぶことが出来たのではないかと嬉しくも思うのだった。


でも、もうあんな恥ずかしいこと…できればしたくない、かも…。

あいちゃん、ごめんね。

こんな私を許してね。


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