41.別荘~勉強会~
別荘に来てから3日目を迎えた。
今日は一日別荘で過ごすことになった。
何故なら夏休みの宿題を済ませなくてはいけないからだ。
元々宿題をすることは決まっていたので全員が其々の課題を持参してきている。
私たち女子高生は大きな部屋で一緒に勉強することに、兄様達は自室で其々の課題をするとのことだった。
朝食を済ませた後勉強を開始。
3人とも静かに宿題を片づけていたが2時間後、一旦休憩することになった。
「疲れちゃったね。めぐちゃん進んだ?」
「あとちょっとで終わりそう、かな」
「凄いわね。流石優等生」
「私も中等部の時は学年一位だったんだけどなぁ~。めぐちゃんが高等部に入学してからいっかいも学年一位取れなくなっちゃった」
「ごめん。一応勉強は頑張りたくて」
「全然気にしてないよ。学年2位だし。めぐちゃんの後ろにいるってだけで嬉しいしね」
「あら、まるで恋人に言う言葉、ね」
「さやちゃん、あいちゃんはお友達だから」
「そうだったわね。御免なさい、あい」
「別に構わないけど」
「それにしても、二人は本当に優秀よね」
さやちゃんの発言がとても嫌味に聞こえたのは私だけなのか。
あいちゃんを見るとあいちゃんの顔も少し強張っていた。
なんかこの二人は事あるごとに争っているというか競い合っているというか。
私が絡むといつもこんな雰囲気になる。
さやちゃんが前私に言っていた『好き』というのは本心なのかもしれない。
あいちゃんもそれに気が付いているんじゃないだろうか。
私が気づけるくらいだから…。
あまりいい空気じゃない状況ではあったが、休憩を終わりにして再び勉強を再開した。
お昼の時間になり、孝之兄様が私たちに昼食の呼び出しがかかった。
途中で勉強を終え私たちはリビングへ向かって歩き出した。
「それじゃ、頂きます」
「頂きます」
多分、孝之兄様が作ってくれた昼食を皆で一緒に食べた。
凛久兄様はあまり料理が得意ではない。
そういえば凛久兄様は進学するはずだがどこの大学へ進むのか聞いてない気がした。
私は何気に凛久兄様の進学先を聞いてみた。
「あぁ。言ってなかった?国立東平大学。経営学を学ぶため」
「あそこって確か凄く偏差値高い大学だった気が…」
「うん。でも大丈夫だと思う」
「凄いですね。凛久さんって頭いいんですね」
あいちゃんが凛久兄様の進学先を聞いてビックリしていた。
私自身も凄くビックリした。
大学へ行くとは思っていたけれど、まさかあの大学へ行くなんて考えたこともなかった。
孝之兄様が現役の時第一志望で目指していたが受験に失敗している大学だ。
凛久兄様って孝之兄様より成績がよかったとは。
「僕は落ちちゃった大学ですが、凛久君なら大丈夫ですよ。彼、僕より優秀ですからね」
「そんなこと、ないけど…」
凛久兄様が珍しく照れていたのが印象深かった。
昼食も終わり、私たちは再び部屋に戻り宿題を再開した。
私は一時間足らずで全部の課題を終わらせてしまい、暇になってしまったので持ってきていた本を読むことにした。
二人もあと少しで終わるとのことだった。
それから更に2時間後二人も課題を無事に終わることが出来た。
三人とも勉強が終わったためこの後どうするかを話し合うことになった。
その話し合いの中でさやちゃんがある提案をしてきた。
「私、ここへ来てからめぐみさんと二人きりになってないことに気づいたの」
それはそうだろう。
皆とずっと一緒に行動していたんだから。
話は続いた。
「それで思ったのだけれど、めぐみさんと二人きりになりたいの」
「それはダメっ!なんで沙也加とめぐちゃんが二人きりになる必要があるの?」
「話がしたいから」
「それだったら、私だってしたいよ」
「あらら。困ったわね。それじゃ、めぐみさんを1時間お借りするというのはどうかしら?」
私は物ではないのだが?
また爆弾投下するさやちゃんとそれに食いつくあいちゃん。
私は黙って彼女の会話を見守ることにした。
「わかった。それじゃ、そうしよう。最初は誰からにする?」
「そうねぇ。あい。貴女からいいわよ」
「いいの?それじゃ、そうさせてもらうね。沙也加」
「ええ。どうぞ」
「というわけで。めぐちゃん、隣の部屋いこっ!」
「あ、あいちゃん…。腕引っ張ると痛いっよ」
「あ、ごめん。いこっか」
「うん…。さやちゃん。そういうことで、行ってくるね」
「ええ。私はここで待ってるわ」
あいちゃんと私はさやちゃんを部屋に残してとなりの空き室へ移動した。
なんだか変なことになっている気がしたがあいちゃんが喜んでくれているようだからこの流れに乗ることにした。
部屋のベッドに二人で座るとあいちゃんが私に抱きついてきた。
「めぐちゃん…。凄く愛おしいよ~」
「あいちゃん?」
「す~っ。めぐちゃんの匂いがする。いい匂い。私の好きな匂い」
「恥ずかしいから…。それに汗臭いかも」
「大丈夫。すごくいい匂いだから」
あいちゃんはそう言うと私を強く抱きしめながら私の首筋や胸のあたりに顔を押し付け大きく息を吸って匂いを嗅いでいた。
私は恥ずかしくなり体を動かしたが、あいちゃんの力の強さに抗う事が出来なかった。
暫くこの状況が続いたが、あいちゃんが匂いを嗅ぐのをやめると今度は私の胸を触ってきた。
「めぐちゃん…。可愛い。おっぱい、大きいね。私このおっぱい好き…」
「ちょ、ちょっとっ。やめ、てって。あいちゃんってば」
「いいじゃない。減るもんじゃないし」
「ダメだって。くすぐったいよ」
「ふふふ。気持ちいんじゃないの?」
不敵な笑みを浮かべながら私の胸を揉む姿がとても厭らしく見えた。
始めはくすぐったさを感じていたが、次第に気分が高揚したのか心臓の動きが速くなってきた。
「あん…。や、やめ…。んっ」
私の口から聞いたことがない声が出ているのが分かる。
凄く恥ずかしいのと止められない漏れ出る声。
何度も揉むのを止めるよう訴えたが止めようとはしない。
私は両手であいちゃんの手を取って強引に引き剥がした。
「ダメだって言ってる…。止めて」
「えぇ~。それじゃ、私のおっぱい触ってよ」
「恥ずかしいよ。それに隣にさやちゃんいるんだから。ダメだよ」
「誰もいなかったらいいの?」
「……それは」
「それは?」
「あいちゃんの意地悪」
「あはは。ごめん。めぐちゃんってこういうことに対しては初心だよね」
「だって。経験ないから」
「これから経験していけばいいんだよ。私が教えてあげる」
「少しずつ、だから…」
「了解。あとちょっとで一時間だ…。時間たつの早いね。戻ろっか」
「うん」
あいちゃんは私から離れるとベッドから降りて私の手を繋いで部屋を出た。
さやちゃんがいる部屋に戻るとさやちゃんが私の腕を掴んでさっきあいちゃんといた部屋に入った。
さやちゃんはクッションを抱えて床に腰を下ろした。
私はさやちゃんの目の前に座った。
「めぐみさん。この間の事なんだけれど。覚えてる?」
この間のことというと、告白の事だろうか。
私はコクリと頷いた。
さやちゃんは再び話を始めた。
「私、本気よ。貴女が好きなこと。それと、めぐみさんとあいが恋人同士だってことも知ってるの」
「え?知ってたの?」
「ええ。見てたら分かるわ。あいってめぐみさんと仲良くしてる子に凄く敵視むき出しだもの。あの子、凄く嫉妬深いでしょ?」
「ん…。まぁ、そうかもしれない」
「私はあいと付き合っててもいいの。めぐみさんを好きなのは変わらない」
「私はどうしたらいいの?」
「何もしなくていいの。ただ、偶に私とこうしてお話したり、お出かけに付き合ってもらうだけで十分」
「二人きりで出掛けると、あいちゃんが…」
「そうね。あい、怒るわね。それで実験的だけどこういう提案をしてみたの。あいは乘ってくれたわ。今度はあいに事前にめぐみさんとの事を伝えて、了解してくれるようにすればいいの。あとめぐみさんのフォローがあれば、ね」
「さやちゃんって凄く策士?」
「どうかしら」
「どうして私なの?小学校の時、一度も話しかけられたことなかったから嫌いなんだと思ってた」
「嫌いだなんて。一度も思ったことないわ。ずっと好きだったもの。小学校の時話できなかったのはある事情があるからなの。今はまだ教えられないけれど」
「そう…だったんだ。その事情が何かわからないから、どう答えたらいいのか分からない」
「めぐみさんは私の事嫌い?」
「嫌いじゃない、と思う」
「それでいいわ。これから私達仲良くすればいいの」
さやちゃんはそう言って抱きしめていたクッションを膝の上に置くと私の手を優しく握りしめた。
私はさやちゃんの顔に視線を向けた。
小学校の時一度も彼女の顔を見たことがなかったが、今目の前にいる彼女はとても綺麗に微笑みを向けていた。
「わかった。でも私はあいちゃんを優先したい。それは理解してほしい」
「分かってるわ。それで満足よ。有難う、私の我儘に答えてくれて」
「……うん」
さやちゃんはその後昔の話私にしてくれた。
中学校は別々になっていたのでさやちゃんの中学時代の話や、さやちゃんの友達の話などを私に聞かせてくれた。
私と話がしたいというのは本当だったんだと思った。
あっという間に一時間が過ぎ私達はあいちゃんの待つ部屋に向かった。
私達が部屋に戻るとあいちゃんは私のところへ自然にやってくると私の目をじっと見つめた。
その姿を見ていたさやちゃんはあいちゃんを揶揄ったのは言うまでもないことだった。
やはりこの二人、仲良くなることはないかもしれない…。




