26.遊園地(前半)
今日は待ちに待った遊園地に行く日。
前夜からわくわくした気持ちであまり眠れなかった。
まるで幼児が始めていく遠足に行く気分だ。
高校生にもなって、少し恥ずかしい。
待ち合わせ場所に遅れないよう早めに準備を済ませ、橘さんが作ってくれた朝ご飯をしっかりと食べて歯磨きして、髪もポニーテールにしていざ出発。
午前9時30分。
待ち合わせの場所が見えてきた。
既に誰かがいるのが分かった。
早歩きで向かうとあいちゃんと前田さんがいた。
「おはようございます。お二人とも早いですね。待ち合わせ時間10時でしたよね」
二人に挨拶をした。
あいちゃんと前田さんも挨拶をしてくれた。
「おぉ~!おっはよぉ~、めぐちゃぁん!めぐちゃんも早いねぇ~」
「おはよ!めぐちゃん。今日もかわいいね」
右手を前田さんが、左手をあいちゃんが繋いできた。
二人とも朝から元気だなぁ。
二人の笑顔が眩しくて少し引いてしまった。
その20分後、小鳥遊さんと瀬戸さんが合流し遊園地に向かって電車に乗り込んだ。
出発から40分後目的地に到着。
開園10時で既にお客さんでごった返していた。
チケットを購入後ゲートを通過するし大きな噴水のあるエリアに到着した。
「凄い…。これが遊園地…」
「凄い人だね。逸れないように手繋ご」
そう言ってあいちゃんは私と手を繋いだ。
それを見ていた前田さんが揶揄うような視線を向けた。
「あぁ~、めぐちゃんとあいちゃんラブラブしてるぅ~!」
「え?そんなことないですよ…」
「そうよ?私たちは仲良しだもん。ね!めぐちゃん」
「うん。そうね」
「あやしい~。それにめぐちゃんって前から思ってたんだけど、あいちゃんだけは敬語じゃないよねぇ~。なんでぇ?」
「え?それは……」
言葉に詰まってしまいあいちゃんに助けを求めるサインを出した。
しかしあいちゃんも戸惑っているのか目が泳いでいる。
すると瀬戸さんが助け舟を出してくれた。
「結衣、二人が困ってるから止めなさい。二人は私たちより前にお友達だったんだから、当然でしょ」
「そうよ。結衣はちょっとデリカシーなさすぎよ。そんなことより、どれから乗る?」
小鳥遊さんが遊園地のパンフレットを見ながらそう言った。
前田さんは納得していない様子でさらに突っ込もうとしたのを小鳥遊さんがパンフレットを見せながらどこに行くか相談し始めた。
ちょっと焦って私とあいちゃんは目を合わせ、くすりと笑った。
最初のアトラクションはジェットコースターに決まった。
あの大きな滑車台に乗って速いスピードで駆け出す乗り物。
勿論私は乗ったことはない。
皆が大きな声で絶叫していた。
それほど怖い乗り物なのだろうか。
不安でドキドキ心臓が鳴っていた。
顔は硬直し、眉毛がハの字になっていた私に瀬戸さんが気づいて背中をさすってくれた。
「鷹司さん、大丈夫?少し顔色が悪いけど」
「あぁ…、はい。大丈夫です」
「めぐちゃん?本当に大丈夫なの?」
「うん。心配かけてごめんね、あいちゃん」
「もし無理だったら言ってね。私とベンチで待ってよ」
「そうですよ。無理に乗らなくてもいいんですから。鷹司さん」
「はい…。正直怖くなってしまって。抜けさせてもらってもよろしいでしょうか」
「はい。じゃぁ、あいと一緒にベンチで待っててください。あい、お願いね」
「分かった。いこっか、めぐちゃん」
「うん。ごめんね」
二人に謝罪し私とあいちゃんは行列から抜けて近くのベンチに向かった。
私たちが抜けたのを見た小鳥遊さんと前田さんが心配そうに手を振っていたのが見えた。
私もそれに答え手を振った。
三人の姿が見えなくなると隣にいたあいちゃんが私の肩にそっと手を添えた。
「絶叫系怖いよね。本当は私も無理っぽかったからよかったよ」
「うん…。こんなの私無理って思ったら、急に怖くなっちゃって」
「怖いよね。めぐちゃんのお陰で乗らずに済んでよかったよ。有難う」
「ううん。こちらこそ。遊園地ってこんなのばっかりなの?」
「そんなことないよ。他にもゆっくり動く乗り物とか、回る乗り物もあるし。そこに大きな観覧車もあるでしょ。そういうのに乗ろうよ」
「あぁ~。あの大きなのが観覧車なのね。あれ乗りたいな」
「うん!それじゃ私と載ろう」
「うん」
あいちゃんが指さした乗り物、観覧車に載ることが決まった。
皆が来る間、二人でパンフレットを眺めながら乗れそうなアトラクションを物色していると、暫くして3人が戻ってきた。
3人とも髪の毛が乱れている。
「はぁ~!すっごかったぁ~。二人ともお待たせぇ~」
前田さんがそう言って私の隣に座った。
私の腕を掴んでジェットコースターの話をし始める。
そんな前田さんをあいちゃんが怖い目をしながらブツブツと呟いていた。
あ、これは嫉妬だ。
前田さんは友達なら誰でもべったりで距離が近い性格と以前小鳥遊さんから聞いていたから別に驚くことはないし、そのことはあいちゃんも知っている。
そういう性格なのは知っていても私にべったりされるとやっぱりむかつくと以前あいちゃんが言っていたのを思い出した。
「こらこら。結衣。ちょっと鷹司さんにくっつかない。迷惑でしょ」
「えぇー!だってぇ、あいちゃんだって~」
「えー、じゃないの。くっつくなら私にしとけ」
そう言って私から前田さんを引きはがした瀬戸さん。
この人は冷静に周りを見ている人だな、と思った。
皆の乗りたいものがバラバラになったため、
それぞれ乗りたいものがかぶった人同士で行動するようになった。
私はあいちゃんと小鳥遊さんと観覧車へ。
瀬戸さんと前田さんは絶叫系の乗り物へ向かった。
観覧車には長い列が出来ていた。
私たちもその列に並んで順番が来るまでパンフレットを見ながら会話した。
「もうすぐ私たちの番ね」
「結構待ったね」
「そうですね」
小鳥遊さんとあいちゃんの会話に相槌した。
この二人は中等部からお友達で仲もいい。
3人と友達になる前に小鳥遊さんはあいちゃんに私のことについて相談していたそうだ。
私がどういう性格なのかとか、嫌いなタイプは、とか。
あいちゃんが私のことをどう話したのか分からないが、小鳥遊さんはあいちゃんの情報で私と友達になりたいと思ったらしい。
「さ、乗りましょ」
「はい」
係員の人がドアを開け私たちは小さな観覧車へ乗り込んだ。




