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12.お泊り(中盤)

お茶とお菓子を乗せたお盆を持って部屋に戻ってきた九条さんは私の目の前にカップとお菓子を置いた。カップには紅茶が入っていた。喫茶店で紅茶を頼んでいたからわざわざ用意してくれたんだろうか。優しい人だ、そう思った。


「それで、これからどうしよっか?鷹司さん、何かしたいこととか、ある?」

「うーん…。私は特に思いつかないから、九条さんがしたいことでいいよ」

「え?いいの?私のしたいこと、で…」

「うん。何したい?」


私がそう言うと彼女の顔が急に赤くなっていた。何か恥ずかしいことでもしたのだろうか。それとも私が無意識に辱めてしまった?どうしよう、この空気。私が大丈夫と声を掛けると彼女は私の隣に座った。黙ったまま下を向いていた。


長くて艶のある綺麗な黒髪で顔全体が隠れている。髪から漂う甘いシャンプーの香りがしていた。彼女が話をするまで暫く黙っていた。数秒立っただろうか、彼女はゆっくり顔を上げ、髪の毛を整えると私の顔を覗き込むように近づいてきた。


「あ、あの、ね…。私、がしたいことっていうのは、ね…。ハグ…、したいなって…」

「ハグ…?ハグって何?」

「えぇっと…。こういうこと」


そう言って彼女は私を抱きしめた。お互いの大きな胸が押し付けられ、九条さんの頬が私の頬に当たっていた。彼女の頬から伝わる熱さと彼女にぎゅっと抱きしめられる力と彼女の吐息が…、これがハグというものなんだろうか。初めての体験だった。


「こういうことするの、初めてだからビックリしてる、私」

「嫌?」

「ううん。嫌じゃないよ。ちょっと胸が苦しいかも」

「ふふふ。鷹司さん、胸大きいもんね。私もだけど」

「九条さんのほうが大きいと思うよ。見た感じ」

「私サイズFカップあるけど…。鷹司さんは?」

「私はEカップ、だったと思う。いつもお母様が用意してくれるものを身に着けてるの。自分で洋服とか買ったこともないし」

「そうなんだ。じゃ、今度一緒に洋服買いに行かない?」

「うん。行こう」


抱き合いながら会話が進んだ。暫く抱き合った後九条さんからゆっくり離れた。満足げな表情をしているのが分かる。

私の心臓が少しドキドキと波打つ。こんな感覚も初めての経験。今日はどれほどの初めてを私は経験出来るのだろうか。楽しみだと思った。


暫く隣に座って好きな本の話や彼女が今読んでいる雑誌の事について話をした。紅茶も飲み終わりふと部屋に掛けてあった時計に目をやると13時を過ぎていた。昼食も取らず過ごしていたことに驚いた。


「少し遅くなっちゃったけど、お昼食べよっか」

「そうだね。何か作るの?」

「ううん。家政婦さんが作り置きしてくれたからそれを温めるだけ。リビング行こっか」


彼女はそう言うと私の手を取り一緒に立ち上がった。手を繋いだままリビングに着くとゆっくりと手を話して冷蔵庫へ向かった。お手伝いすると言ったのだが座っててといわれたので椅子に腰かけた。手際よく温まった食事がテーブルの上に並んだ。私の座っている席の隣に彼女が腰かけ食事をした。


昼食を済ませるとちょっと散歩しないかと彼女の提案で外に出ることになった。家の近くのコンビニへお菓子と飲み物を調達した後、近くの公園に行った。お昼過ぎの公園はとても賑やかだ。こんないい天気に子供たちが遊ばないわけがない。遊んでいる子供たちと引率の母親たちのグループが形成されていた。


「この公園、ホントに沢山人でいっぱいになるんだ。私はこのベンチに座って風景を楽しむのが好きなの。幸せそうな光景って見てて飽きないから。鷹司さんのおうちの近くには公園ってある?」

「あるよ。私も偶に兄様達と一緒に散歩してる」

「そうなんだね。お兄さんと仲がいいのね」

「そういう事じゃないと思う。私基本部屋に籠ってて。それを心配して連れ出されてる感じかな」

「へぇ~。お兄さん優しいのね。羨ましい」

「あはは。優しいよね。本当に有難いって思ってる」

「私もお兄さんに負けないように、鷹司さんに愛をいっぱい注がなきゃ、ね!」


彼女はそう言うとケラケラと笑った。私も頷いて笑顔で答えた。暫く公園で過ごした後彼女の家に戻った。夕食までまだ時間があるからと、彼女が好きな映画のビデオを見ることになった。

ソファーに腰掛けると、ビデオのセットが終わった彼女が隣に座った。リモコンでスタートボタンを押し、リモコンを机に置くと私の手を取ってお互いの指の間に指を入れそっと握りしめ、私の肩に頭を置いた。


「こういう握り方ってなんていうか知ってる?」

「うん。『恋人繋ぎ』っていうんでしょ?テレビで見たことある」

「そうそう。凄く幸せな気持ちになるの。嫌だった?」

「ううん。嫌じゃないよ。私ね、九条さんがしたいことはなるべく答えたいって思ってる。だから遠慮しなくていいよ」

「えへへ。ありがと、鷹司さん。あ、そうだ。もしよかったら私のこと下の名前で呼んでほしいな。私も鷹司さんのことをめぐちゃんって呼びたい」

「わかった。それじゃ私はあいちゃんって呼ぶね」

「うん!ありがと。嬉しい」

「私も嬉しい。あいちゃんとの距離が縮まった感じがする」

「私も。めぐちゃんにすっごく近づけた」



映画を見ながらの会話がお互いの気持ちをくっつけている感じがした。彼女は頬を赤くして画面に目を向けている。私も映画を見ながら時折彼女の横顔に視線を移していた。いつもと違った休日を過ごす。それも一人ではない過ごし方は私にとって全部が初めての経験だった。

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